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切り絵【買い物大好きっ子】

知的障害を持つ妹は、今年32歳になります。
子供の頃は、とてものんびり屋で、何事にも反応が薄い部分があり、騒いだり、たくさんおしゃべりをするような子ではなく、いつもボーっとしている様子が、とても可愛らしいと思っておりまして、見かける度にほっぺをツンツンしたくなる妹でございました。

成人してからは、母の手伝いを積極的にやってくれる子になり、今では料理も洗濯も掃除も何でもできる家事のエキスパートになりました。
高齢の母とお互いに助け合いながら、実家で仲睦まじく暮らしております。

私の実家は、家族5人が父の収入だけで十分に暮らしていけるほど、そこそこの中流家庭でございました。
欲しいものが帰ってもらえないという経験もなく、節約という意識もない家庭だったように思います。
お小遣いを十分にもらい、買おうと思えばある程度のものは買える環境だったことが影響しているのかどうかはわかりませんが、私や兄は大人になった今でも、あまり物欲がありません。
必要なものは買いますが、普段からあまりお金を使わないので、勝手に預金が溜まっているような状態だと思います。

子供の頃、クラスの子たちからは、「欲しいゲームをなかなか買ってもらえない」とか、「買う代わりにちゃんと勉強するから」とか、なんとかして親を説得しようとしている話などを、よく耳にしておりましたが、我が家のようにあまりに簡単に欲しい物を買ってもらえてしまうと、手に入った達成感などもなく、だんだんお金で買えるものに興味が無くなってしまったとも言えるのかもしれませんが、妹だけは違いました。

今では「買い物好き」という程度の表現になるのかもしれませんが、ちょうど20歳くらいの頃は、「買い物症候群」と呼ばれてもおかしくない状態のときもございました。

数万のお小遣いを月初めにもらって、一度に使ってしまうこともあれば、金欠で、泣く泣くお小遣いの前借をしたり、今はお金が無いけど、どうしても買いたい気持ちが抑えられず、母から借金ということで、お金を余分に借り続け、いざ返すとなると返せなくて泣き喚いたり、そんなことが毎日のように起こり、危うい時期もございました。
ほとんどはおもちゃなのですが、プレミアのついた本や貴重品などもよく欲しがりまして、買ってしまうともう興味を無くし、放り出して、またすぐ新しいものを欲しがることが多かったです。

とあるプラモデルの定期購読をしたいと駄々をこねたときは、最初は「最後まで続ける!」と意気込むのですが、貯金をするのがとても辛く、数回の購読で「もう払えない」と泣いてしまうということが何度も何度もありました。
お小遣い帳を書かせてみたり、借用書を書かせてみたりしたこともあったそうですが、紙に書かれていることなんて全く興味が無い様子で、変わらず借金がどんどん増えていくばかりでございました。

幸い、一人で外出したり、よく知らない人と話したりすることも普段はないので、母以外の人に借金をしていないことだけがとても救いと言えました。
知能的な問題で、お金の管理の仕方が理解できないということなのかなと思ったこともありましたが、30歳を過ぎた今では、「今日はお金を節約する!」とか「買いたいものがあるからお金貯める!」とか、たまには言うようになりました。
「自分のお金が足りない時は買えない」ということをわかってくれるようになりました。
手持ちのお金が足りないとき、母に甘えて、ちょっとしたものなら買ってもらおうとすることもありますが、いつもいつもではありませんし、「ほんとは自分のお金を貯めて買わないといけない」と本人は分かっております。

大きな成長を感じたのは、あれだけ何度も途中で断念していた定期購読が今では出来るようになったことです。
次週分の巻が届くまでお金を貯めるということがちゃんとできるようになり、毎週のように「ちゃんと払えるよ!」と、とても嬉しそうに連絡してきます。
そろそろ最終号らしいのですが、継続は力なり、本人の自信になっているようです。

無駄遣いをしていた時期のことを本人はしっかりと覚えているから、苦い思いと月日が、自然と成長させてくれたのだと思います。
私や母は、当時適切な対処がわからず、将来をただただ心配しておりましたが、知的障害というのは、「ゆっくり成長するということ」だと、度々失念してしまうことがございます。
私が発達障害と診断を受けてから、妹とは「障害」という同じ括りにされることが増えたのですが、体感では、発達障害は成長が遅いわけではなくて、一般の人と違う発達をするのなら、一般的な基準からは「変わり者」に分類されがちなのもよく分かるように思います。
知的障害の人は「変わり者」ではなく、発達がゆっくりなために、年齢と精神年齢はズレてしまいがちになるけど、成長期が早めに過ぎてしまう一般の人よりも、成人になってからの成長がよくわかる存在だと感じます。

30歳なら、お金の管理なんて出来て当たり前で、出来ないなら大人になりきれてないとか、障害者ならしかたないとか、思ってしまう人もいるかもしれませんが、30歳でもいつまでも子供のように成長している姿を見ると非常に羨ましく思います。
地域活動支援センターに通っている高齢の知的障害の方を見ていると、みなさん良くも悪くも、無邪気で可愛らしく見えます。

私のように知的障害を伴わない発達障害だけの場合は、障害者施設などで支援者の方々から時折「子供のような扱い」を受けることに、戸惑う方もいらっしゃると思いますが、知的障害の方の中には、精神年齢に合わせた褒め方や叱り方を必要とする場合もあったりするので、支援者の方々とはいえ、この方は知的障害だとか発達障害だとか、そんなことをいちいち切り替えながら器用に接するというのはとても大変なことだろうと思います。

妹が「洗濯物、綺麗に干せたよ!」「次はもっと綺麗にやるよ!」と言いにきたときは、小さい子のように少しオーバーなくらいに褒めてあげると、とても嬉しそうにします。
妹には、50歳、60歳になっても、子供のように頑張って、「出来るようになったよ!」と言いにきてほしい気もしますが、思ったよりも成長が早く感じるので、もしかしたら数十年後には、大人になっているかもしれないというのも、また楽しみでございます。

また次も見て頂けましたら、幸いでございます。

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