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「料理と日本酒の温度を合わせる」ことで生み出されたマリアージュ

前回までのおさらい

みなさん、日本酒とお料理の素敵な組み合わせをマリアージュといいますが、どうやってマリアージュを楽しんだらいいのか、日本酒の選び方や器の選び方など悩まれている方も多いと思います。

そこで前回は、「4つのマリアージュの基本の考え方」の二つ目、『2. 同じような味わいを持つものを合わせるときと、それぞれが持っていない味わいの要素を合わせるときとでは難易度と満足度が変わる。』の中の、「それぞれが持っていない味わいの要素を合わせる」という難易度の高い組み合わせをご紹介しました。
今回は、味わいの要素のなかでも、特に温度に注目してマリアージュを組み立てることをお伝えします。

温めて飲むアルコールの種類

突然ですが、みなさんはビールやワインを温めて飲んだことはありますか?
世界には温めて飲むお酒も幾つか存在しますが、日本酒以外はどれも主流な飲み方ではないようです。温めて飲むお酒には以下のようなものがあります。

ホットビール

1.ホットビール:ドイツやベルギーでは、シナモンやハチミツ、砂糖などを入れて飲むホットビールは、特に寒い季節には定番となっています。ただ、基本的には爽快感抜群ののど越しや、エール系などの華やかな香り、クラフトビールに代表されるハーブなどの副原料の味わいを冷たい状態で楽しむのがビールの醍醐味かなと思っています。

ホットワイン

2.ホットワイン:また、ヨーロッパでも寒い地域では、クリスマスのころを中心にホットワイン(和製英語)も好まれて飲まれているようですが、基本的には身体を温めるための飲み物で、お料理との相性はあまり重視されていないように思います。
こちらもホットビールと同様に、シナモンやクローブなどの香りの強いスパイスとオレンジピールなどのフルーツや砂糖を加えてつくられる、ワインカクテルです。

紹興酒

3.紹興酒:常温でストレート、というのが紹興酒の飲み方の基本ですが、気温が10℃以下の冬場は、35℃~45℃程度まで温めて飲むこともあります。香りや風味が強まって身体を温めてくれます。
私も本格的な中華料理屋さんで食事をする際には、お燗にした紹興酒をいただくこともありますが、かなり味わいが濃くてインパクトが強いので、なかなかお料理と合わせるのが難しく、お酒単独で楽しんでいます。

焼酎

4.焼酎のお湯割り:私たちにはこの焼酎のお湯割りが日本酒以外だと、一番なじみの深い、温めるお酒ではないでしょうか。特にさつま揚げやからし蓮根など、鹿児島や熊本の郷土料理に合わせるときには、それぞれ芋焼酎や米焼酎を合わせることが多いです。私自身も、ロックでもいただきますが、前割りした焼酎をチロリで熱燗にして飲むのが好きで、よく合わせて楽しんでいます。

日本酒の燗酒

5.日本酒の燗酒:温めて飲むお酒の代表格ともいえるのが、日本酒の燗酒ではないでしょうか。温めて飲む日本酒のことを全部熱燗と呼ぶ方が多いですが、実はこの熱燗という言葉は、50℃~55℃に温めた日本酒のことをいいます。55℃以上が飛び切り燗、45℃~50℃が上燗、40℃~45℃をぬる燗、35℃~40℃が人肌燗、30℃~35℃を日向燗と呼んでいます。同じ種類の日本酒でも温める温度によって表情が変わるのも面白いですし、お料理と食べながら飲むことができることも特長です。

料理と日本酒の温度を合わせるといいこと

一般的に温かいお料理と合わせるときに、冷たいお酒を選ぶと、基本的には温かいお料理を冷たいお酒で切ることになります。
口の中でじっくり味わおうとすると、お料理の温かさとお酒の冷たさが混ざり合って、中間くらいの温度帯になります。つまり、お料理は冷めて、お酒はぬるくなる。
したがって、お料理とお酒が両方とも口の中で長い時間いっしょにいることは少なく、おおむねお料理を飲み込む直前か、飲み込んだ直後にお酒を口に入れます。(牛肉のステーキをかみながら赤ワインを口に含むことは、ほぼないと思います。)

では、日本酒の場合はどうでしょうか?
実は、温かいお料理、特に出汁があるようなお椀物や鍋物に合わせるときには、同じくらいの温度にした日本酒を組み合わせることが最適です。お料理と日本酒の温度が同じなので、両方を口に含んだ際にお互いの温度に引っ張られることなく、スムーズに口の中で組み合わされます。
そして、両方の温度の印象がそのまま口の中で重なることで、余韻も穏やかに感じられます。和食においては、飲み込んだ後にじわじわとお腹の中から至福の美味しさが口に戻ってくる味わいの感覚を返り味といいます。この返り味(余韻)までも、マリアージュをしている感覚を味わえると思っています。

お椀物と合わせた燗酒の実例

それではここで、最近開催した日本酒のイベントのなかで、特に相性が抜群だったお椀物(温かいお料理)と燗酒のご紹介を一つ。

蛤の真丈と焼椎茸・うるいのお椀物と戦勝政宗 特別純米

2024年3月に賛否両論恵比寿様で開催したマリアージュ会では、写真のように蛤の真丈と焼椎茸・うるいのお椀物と戦勝政宗の特別純米を合わせました。
特に、鰹と昆布でとったお出汁の透明感と、50℃程度に温めて膨らんだ戦勝政宗の穏やかな旨味の組み合わせに感動しました。

まとめ

今回は、日本酒のマリアージュの基本の考え方の中でも、3番目の「料理と日本酒の温度を合わせる」ということをお話してきました。
特に、温かいお料理には温めた日本酒が口の中でスムーズに組み合わさることにより、余韻までもマリアージュされた感覚を楽しむことができますので、ぜひ皆さんもお気軽に試してみてください。
それでは、次回は、「料理と日本酒の温度を合わせる」という考え方の中でも、逆に冷たいお料理と冷たい日本酒の組み合わせの話をお伝えします。こちらもお楽しみに!

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