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炊かずに蒸す!?日本酒造りでのお米の処理方法

「日本酒を、もっと身近に」という理念をかかげながら活動している日本酒メディア・コミュニティ『酒小町』。今回は「日本酒づくりでのお米の処理方法」についてお話していきます。 

このマガジンでは、日本酒の豆知識をわかりやすく、ちょっと飲んでみたくなるようなコラムを書いています。

日本酒が好きという人はもちろん、日本酒がはじめてな方、好きで飲んでいるけど専門用語まではちょっと…という方、これから日本酒を勉強してみたい!という方、ぜひお酒を片手に読んでいただけると嬉しいです。
ただ飲むだけでもお酒は美味しいですが、少し知識をいれるだけで普段飲む日本酒が更に美味しく、楽しくなりますよ!

ゆるゆる日本酒教室、第83回目の今回は【日本酒造りでのお米の処理方法】のお話です。

日本酒の製造に必要不可欠なのは、なんといっても原料のお米ですよね。当然ながら、田んぼに生えているお米を刈り取って収穫してから、そのまま使うことはできません。

基本的に、収穫後のお米(玄米)は、

・削る(精米)→ここで「白米」になる
・休ませる(枯らし)
・洗う(洗米)
・水に浸す(浸漬)
・水を切る(水切り)
・蒸す
・冷ます

という過程をふみ、お酒造りに使える状態に整えていきます。

処理されたお米の一部は、日本酒造りに必須である麹を作ることにも使われます。

色々な工程を踏むことになりますが、ここでは「蒸す」という作業について注目しましょう。


みなさん、お米は「炊く」イメージがありませんか?
我々が普段食べているご飯は、白米を炊いたもの、いわゆる炊飯(すいはん)ですね。
ご飯を炊くときに使うものは文字通り、炊飯器と呼びますよね。

では、「炊く」と「蒸す」、この二つ、どう違うのでしょうか?

なぜ日本酒造りにおいては米を炊くのではなく蒸すのでしょうか?


そもそも、蒸すとは。

蒸す(Steaming)とはお肉やお魚はもちろん、お芋、おまんじゅう、点心、赤飯(もち米)、茶碗蒸し、カスタードプディングなどでも使われる、メジャーな調理法のひとつです。
その特徴はこちら。

○材料が崩れず形を保つ

食品が動くことがないので形の崩れがありません。軟らかいものや形の崩れやすいものに向く調理法です。

○栄養の損失が少ない

水の中で加熱しないので、たんばく質、無機質やビタミンなど栄養素の損失が少なくて済みます。
また、うまみが溶け出すことも煮ものよりは少ないです。(蒸し汁の出るものは、耐熱のお皿などの器にのせて蒸しましょう。)

○材料が軟らかく仕上がる

水の沸騰は100℃で起こります。
蒸すという動作は湯気を使っているわけですから、その湯気ももちろん100℃近くです。
実は、フライパンを直火で熱して使うときには、低くても150℃、炒め物などでは200℃近くになっています。

それと比べれば、蒸すのは火当たりが弱いのがわかりますね。
その結果、食材からの水分の流出が少ないので、ふっくらと軟らかく仕上がります。

○焦げる心配がない

蒸し水がなくならない限り焦げる心配がありません。
蒸し器内の温度を保つためにも途中で蓋は取らないようにし、火に任せて他の仕事が出来るので実は調理する側は楽なのです。


日本酒に使うお米は、蒸すとどうなるの?

蒸気につつまれたお米は、「全体は温まるけど、水分はあまり取り込まれない」という状況になります。

お米の表面は乾燥して硬い一方で、お米の内部は熱せられて柔らかいという「外硬内軟(がいこうないなん)」という状態が、実はお酒造りには理想的なのです。

それはなぜか。

①お米の外側が乾燥することで、麹菌が繁殖できるお米の表面積が確保されます。
麹が満遍なく働くために、一粒一粒にまとわるのが重要なのです。

②お米の主成分であるでんぷんは加熱することにより、柔らかく変化しはじめます。

これを「α化(あるふぁか)」するといいます。
α化することにより、でんぷんの構造がゆるみ、麹菌の生成する酵素の作用を受けやすくなる=麹が繁殖しやすくなります。
また、発酵の過程でお米が溶けやすくなります。
これはお酒にお米の味をどれだけ出すか、という部分に直結していきます。


お米を「炊く」とどうなるのか。

「炊く」というのは、「食材を水と共に加熱して調理すること」ですね。
(関西地方では、野菜などの食材をお出汁と調味料で調理した、「炊いたん」という料理があります)

お米を炊くときにも、常に水の中に浸っている状態で熱が加わります。
そうすると、お米に含まれる水分量が多くなります。

いわゆる「お米が水を吸う」というやつです。

一般的に炊いたお米の水分量は約65%、蒸したお米は約35%です。

麹菌の繁殖に最も適した水分量は35%から40%と言われていて、麹を作る上では、炊いてしまうと水分量のバランスが崩れ、不都合になってしまうのです。

また、炊くとお米同士がくっついてしまうというのもネック。
なぜなら、くっつくことでお米の表面積が狭くなってしまうため、麹がまとわる範囲が狭くなってしまうためです。

※実は、英語では「炊く」に相当するものがなく、炊飯であれば、「rice cook」 という表記になります。

麹の働きは、お米のデンプンを糖に変える、というもの。

日本酒の造りでは「一麹、二酛、三造り」という言葉があります。

これは、酒造りで最も重要なのは麹である、という意味です。

蒸したお米の出来は麹作りに直結します。
それだけ重要な作業が、酒造りの最初にあるのです。
その年の酒造りの始まりという意味で、酒造りの最初にお米を蒸す作業のことを甑(こしき)起こし、造りの終わりを甑倒し、といいます。
(※甑、とは、お米を蒸すときに使うお釜のこと)

お米の処理から始まり、お米の処理に終わる。

まさに、日本酒造りを象徴しているといえます。

さて、今回はかなりボリューミーな内容になってしまいましたが、最後に一言でざっくりまとめると…

一時期のサウナブームで、今も隙あらば足繁く通っている方も多いでしょう。 日本酒のお米もそれと同じです。

お米を炊くのは湯船に浸かること、蒸すのはサウナに入ること。

だとすれば・・・、日本酒のお米もサウナーと言えます。
なんといっても、よい酒にするためには、“整え“ないといけませんからね!

それでは今回はここまで!



日本酒コラム『ゆるゆる日本酒教室』

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今回コラムを書いてくれた社会福祉士×日本酒学講師のダイゴさんのnoteはここから読めます。日本酒以外の話題も含め、優しくてわかりやすい文章が特徴です。


酒小町制作メンバー

執筆:ダイゴ|社会福祉士×唎酒師・日本酒学講師=Sake Social Worker(note
ディレクション:関谷サイコ(Xnote
企画:卯月りん(XInstagramnote
編集:makio(Xnote)

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