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私の毛は黒い

序章 特記事項なし

隣の芝は青く、私の毛は黒い。

東洋人の中にも色素が薄い人が存在するが、私の毛は極めて平凡な黒寄りだ。

ごく普通で、特記事項なし。

これ以上述べることもない。

第一章 黒船来航

黒船来航。いや、スピリット・オブ・タスマニア来航か、はたまたジェットスター来航か。

※スピリット・オブ・タスマニア : 私が暮らすメルボルンとタスマニアを繋ぐ船

タスマニアから、うちの豪州人の弟がメルボルンに越してくることになった。

ところがコロナ前の活気が戻ったメルボルンは今、賃貸の需要と供給が追いついていない状況。

もれなく弟も、部屋が見つからないらしい。

「しばらくうちに住まわせてもいい?」

申し訳なさそうに尋ねてきたうちの豪州人。

それは、全然いい。

6人兄弟の中でもこの義弟は、彼がまだ小学生だったときソファで寝ていた私にブランケットを持ってきてくれた優しい子だ。

私はあのときの鶴です。

的なマインドで全力でウェルカムなのだか、ここでタイトルを思い出してもらいたい。

私の毛は黒い。

第二章 孤独な闘い

もう何年も前のこと。うちの豪州人の実家に初めて泊まったとき、私は焦った。

私の毛だけ、黒い。

排水口に詰まった髪も、床に落ちた髪も、神出鬼没なドコソコノ毛も、それが黒ならば全部、私のもの。

盲点だった。

平凡だと思っていた黒髪が、羞恥心をえぐる刃となったのだ。

金髪家庭内での孤独な闘い。脳が、司令をかけてくる。

パイパンニセヨ。

アンニョンハセヨではない。私の韓日翻訳家という肩書きに惑わされたなら、もう一度ゆっくり声に出して読んでみてほしい。

パイパンニ、セヨ。

いかがだろうか。日本語に聞こえただろうか?

落としたくない一心だった。

あの家の敷居をまたげば、黒い陰毛の全責任は私にある。

かつてないほど責任の所在が明確な陰毛を、世帯に晒したくない。

落ちるなら 全剃りしてまえ アソコの毛

織田信長ならそう謳ったことだろう。

私は信長の再来なのか…?

落とすのが嫌なら全部落として泊まりに行けばいい、という結論に至った。

第三章 苦悩の根絶

義弟が本当にうちに住むことになれば、この先何度先回りしなければいけないのだろうか。

落とす前に落とす。この戦法は先手必勝であって、怠ければ勝算がない。伸びてしまうと主張が強くなるからだ。

まして、戦場は起伏が激しい。一筋縄ではいかない。手間を考えると途方に暮れる。

そんな苦悩が極限に達したとき、私の中に眠りし戦国大名魂が目覚め、こう言い放った。

「刃は一時しのぎにしかならぬ。剣を抜くのではない。毛を抜け。根絶やしにしろ。」

私は明日、レーザー脱毛に行く。

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