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【毎週ショートショートnote】春のさえずり

お題:春ギター


 午前三時半。深夜と呼ぶべきか早朝と呼ぶべきか、意見の分かれる絶妙な時間帯。周囲の民家はぽつんぽつんと、濃厚接触にならない距離感にあるだけの田舎の古民家。その中で大きな窓から裏庭を眺める彼女は、そっと静かにアコースティックギターの弦を揺らす。
 誰もが寝静まり、世界が僕と彼女だけになった深夜。誰にも咎められる事なく、彼女の奏でる世界に浸る。それが休日の僕らの楽しみ。

 だが今日はギターのメロディーに彼女の透き通った歌声が乗らない。

「今日は歌わないの?」
「うん。もう鳥が歌ってくれてるから」

 僕の疑問に彼女は簡潔な答えを紡ぎながら弦を鳴らす。ゆっくりと耳を澄ませば彼女のギターと共に、ちゅんちゅんと鳥のさえずる声を拾えた。僕が、「ほんとだね」と返すと彼女は嬉しそうに微笑んで、鳥のさえずりにメロディーを乗せる。

「もう春だからね。この時間から鳥が歌い出すの」
「そっか。もう春かあ」
「そう。もう春だよ」

 今日から彼女の奏でる世界は衣替えだ。



鳥の鳴く時間が早くなると、季節の変化を感じる。
ところであの鳥は何て鳥なんだろうか……。



下記に今まで書いた小説をまとめていますので、お暇な時にでも是非。


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