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小説:雷の道(日曜日)#34

窓を開けると雨のにおいが車内を満たした。
湿気を帯びた気体は僕にまとわりついた。
深く息を吸った。
肺がいっぱいに満たされた。
それらを吐き出すと少し落ち着いた気持ちになれた。
遠くから風の音がして庭の木々が左右に揺れた。
雨が迫っている。
もうそこまで。
建物に目をやった。
庭にある外灯が壁を照らしている。
外壁は塗りなおしたばかりだ。
古くはあるがしっかり手入れしている。
いくつかの窓から明かりが漏れている。

カーテンが揺れる。
美沙岐の影が踊る。
僕は身を乗り出す。
エンジンを切りドアを開ける。
一層湿った空気が僕に絡まる。
外に出て大地を踏みしめる。
鉄の門を握りしめる。
硬質で冷たい感覚が伝わってくる。
一本の道が玄関へと続いている。
木々がざわざわと音をたてる。
メロディーが聞こえる。
ハーモニカ。
ピアノの旋律。
ブルースの声。
稲光が道を照らす。
サンダーロード。

「キミに語るのはここまでだ。あとは一人で行く」キミは静かに出て行った。いつものようにそっと。

玄関が開く音。
ざくざくと走る足音。
門に手をかける。
鉄のきしむ音。
いっぱいに開かれる。
足音が高鳴る。
大きくなる。
早くなる。
手を広げる。
いっぱいに広げる。
激しい閃光。
胸に飛び込んでくる。
美沙岐を抱きしめる。
強く抱きしめる。
柔らかい身体。
甘い髪。
細い腰。
壊れそうな背中。
玄関から男が追いかけてくる。
美沙岐は僕の手を取る。
急いで車に乗り込む。
アクセルを踏み込む。
バックミラーに男の姿が映る。
その姿が段々と小さくなる。



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