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小説:雷の道(日曜日)#35

港に着くとサイドブレーキを引いた。
誰も追いかけてこなかった。
僕たちは二人きりだ。

「ジュンの同級生という人が訪ねてきたの」
と美沙岐は言った。
名刺が置かれた。
見なくてもわかった。アツシだ。

「最初は誰だかわからなかった。
名前を聞いてもぴんとこなかった。
随分変わっていたから。
兄に仕事の話しを持ってきたの。
大きな仕事があるから参加しないかって。
なぜか私も呼ばれた。
それで昔の事、いろいろ聞かれたの。
坂本さんの事とか。ミサの父親じゃないかって。
しつこい人。だから言ってやったの。
坂本さんとはつきあっていたけど、ミサの父親は坂本さんじゃない。
父親は別にいるって。
もう亡くなったって。
そう言ったんだけど、信じてもらえなくて。
兄は怒りだして。タイミング、良かったのか悪かったのか。
ジュンが迎えに来てくれた気がしたの。
ふとね、そう感じたのよ。
外を見ると本当に来てくれてた。
だから無我夢中で、こんな格好」

「加奈子に会った。蛍の小夜子さんにも。
だから驚いてはいない。いや、驚いたかな。
僕もそうだと思っていたから。
でも構わない。受け入れる。
どんな過去でも受け入れる。
たとえミサの父親が誰であっても」
たとえそれが恩師だとしても。
「僕らはあの場所から始まったんだ。
美沙岐と再会して僕の事を覚えてると言ってくれたあの場所から」

「家のリビングのスナップ写真が無くなっていたの。
それを見てね、私、ぴんと来ちゃった。
娘が持って行ったんだろうなって。
そしてどこかであなたと繋がるんだろうなって。
私の勘は当たるの。何故かいつでも。
小学生の頃から私も好きだったわ。
もう誰に何の遠慮もしない。
それにね、誰が何と言おうと私達の歴史には誰も敵わないのよ。
どんな秘密があったとしてもね。誰も」

窓の外が明るくなった。
水平線から太陽が昇った。
僕達はこの日、この瞬間、新たに始まった。


おわり


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