見出し画像

小説:雷の道(土曜日)#22

土曜日の図書館は学生に交じって社会人が何人かいた。
こんな田舎に社会人が居るというのも不思議な気がしたけど、それはまあ失礼な話だろう。
ここは僕こそが特殊、異物な存在なんだ。

僕はなるべく目立たない端の席に座り、パソコンとタブレット、ノートと文房具を机の上に置いた。
これだけでも目立つ気がしたけど仕方ない。
どうしても必要なものだ。

先日ノートに書いた工程表と本社が昨日作成したばかりの図面をタブレットに表示した。
今ある水路を活かした場合の配置図は以前のものに比べ、形がいびつで非効率なものになっていた。
これではプロジェクトをこのまま進めることが出来ない。
是が非でも水路の権利を取得し水路を迂回させる必要がある。
その為には所有者と実権者を説得しなくてはならない。
それが昨日、本社から課せられた使命だ。

それでも最悪のパターンを考慮し水路を活かした場合の工程表とそれにともなう工事費の概算を計算した。
それは思ったよりも骨の折れる作業だったけど、昼前には一通り終える事が出来た。

結論は日を見るよりも明らかだった。
水路で土地を分断することはできない。

僕は洋介と今夜会う段取りをした。
夜、いつもの店で会うことが決まった。
有力な情報を持った人物を連れてくると洋介は言った。
少しホッとした。
何の根拠も無かったけど何もないよりはましだった。
明るい情報は歓迎したい。

ふと辺りを見回すと、蛍でみかけたカップルが居た。
二人とも堂々といちゃついていた。
若さ。
そして高校の時の不毛なデートを思った。
少しは成長したのだろうか。
僕はゆっくりと首を振った。




この記事が参加している募集

ほろ酔い文学

恋愛小説が好き

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?