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小説:雷の道

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帰省先で僕は、偶然、同級生だった美沙岐と再会する。 それから濃密な六日間が始まる。
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記事一覧

小説:雷の道(日曜日)#35

港に着くとサイドブレーキを引いた。 誰も追いかけてこなかった。 僕たちは二人きりだ。 「ジ…

魚屋
1年前
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小説:雷の道(日曜日)#34

窓を開けると雨のにおいが車内を満たした。 湿気を帯びた気体は僕にまとわりついた。 深く息を…

魚屋
1年前
8

小説:雷の道(日曜日)#33

「別に見せびらかすつもりじゃないのよ。あの子たちにせがまれて家から持ってきたの。懐かしく…

魚屋
1年前
10

小説:雷の道(日曜日)#32

家に帰ると父が刺身を肴に日本酒を飲んでいた。 加奈子の家にあった銘柄と同じだ。 一緒に飲ま…

魚屋
1年前
8

小説:雷の道(日曜日)#31

僕達はアルミ製のテーブルに向かい合って座った。 酒に酔ったちょっと危ない女とその女友達に…

魚屋
1年前
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小説:雷の道(日曜日)#30

部屋に戻ると加奈子はさっきと同じあおむけで寝ていた。 彫刻のように動かなかった。 しばらく…

魚屋
1年前
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小説:雷の道(日曜日)#29

窓ガラスの中の加奈子はコップを持ったまま動かなかった。 目の前の川をじっとみていた。 僕もそんな加奈子の視線の先をずっと見ていた。 川に映る光は時折通る舟にかき消された。 三艘目の舟が通り過ぎるころ加奈子は僕を見た。 ガラスに映る加奈子より現実味が増したけど、それでもまだ現実味を欠いていた。 「誰に聞いたの?」と加奈子は言った。 平坦な声だった。 僕を責めているようにも慰めているようにも聞こえた。 加奈子は僕から視線を離さなかった。 「知りたいんだ。本当の事を。何があった

小説:雷の道(日曜日)#28

「再会して、一週間も経ってないんだ。 しかも予定にない再会だった。 本当に偶然だったんだ。…

魚屋
1年前
8

小説:雷の道(日曜日)#27

つまりこういうことだ。 今朝早く、というか深夜、加奈子の父親と一緒に釣りに行き、そこそこ…

魚屋
1年前
9

小説:雷の道(日曜日)#26

朝、目が覚めると無性にコーヒーが飲みたくなったんだ。 東京では日課だった。 それが一日の始…

魚屋
1年前
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小説:雷の道(土曜日)#25

「つきあって、どうなった?」 「月並みな話しなのかもしれないけど妊娠した。当時はかなり噂…

魚屋
1年前
8

小説:雷の道(土曜日)#24

「ああ、そうだな。ついつい」 そう言うとアツシは椅子に座りなおした。 「水路の件ね。水路…

魚屋
1年前
9

小説:雷の道(土曜日)#23

週末のブロンズは、開店と同時に盛況だった。 席を埋め尽くすというのを初めてみた気がする。 …

魚屋
1年前
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小説:雷の道(土曜日)#22

土曜日の図書館は学生に交じって社会人が何人かいた。 こんな田舎に社会人が居るというのも不思議な気がしたけど、それはまあ失礼な話だろう。 ここは僕こそが特殊、異物な存在なんだ。 僕はなるべく目立たない端の席に座り、パソコンとタブレット、ノートと文房具を机の上に置いた。 これだけでも目立つ気がしたけど仕方ない。 どうしても必要なものだ。 先日ノートに書いた工程表と本社が昨日作成したばかりの図面をタブレットに表示した。 今ある水路を活かした場合の配置図は以前のものに比べ、形がい