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ニュージーランドで体験した未来のエコハウス「低密度自給自足型住宅」から考えるエネルギーシステム学

 どうも皆さんこんにちは。ニュージーランドでワーホリをしていたyoshiです。私は2024年8月、ニュージーランド南島はOamaruという小さな街にあるとっても環境に優しい家で3週間ホームステイをしました。そこでの経験は大阪大学工学部、環境工学コースの一学生として非常に素晴らしい経験であり、素晴らしい教授方の授業で得られた知見と照らし合わせて考えることでここで実際に感じたことから、現在議論されている未来のエネルギーシステムについて自分の中で現時点で結論づけられたかなと感じています。そこで今回は私が暮らしたエコハウスがどのようなメリットのある家なのか紹介した上で、実際に住んでみて分かった「自給自足」の難しさと実現性、そしてそれを踏まえてエネルギーシステムを考える上での方向性を紹介したいと思います。この記事を読むことで現在議論されている「低密度自給自足型」のメリットとデメリット、そして私の環境問題に対するエネルギーシステムの考えを知ることが出来るでしょう。もし宜しければ最後まで宜しくお願いします。

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「低密度自給自足型」のすごさ

 皆さん「低密度自給自足型」という言葉はご存じでしょうか?必要なエネルギーを自給自足する為、二酸化炭素排出がゼロの家のタイプの事を言います。

 私は「ワークアウェイ(Workaway)」というホストファミリーと旅行者のマッチングサイトでHelenさんの家を見つけて、ニュージーランドで仕事が見つかるまでの間、ホームステイをしていました。ワークアウェイではホストファミリーのお助け(家事や畑作業、DIYなど)をする代わりに無料で泊まれて、3食つきで泊まれるホストを世界中で見つけることが出来ます。せっかくなのでHelenさんのページを紹介しますね。

 ここでの体験は素晴らしいものでした。この家でどのようなことが行われているかというと、

・太陽光を取り込める大きな窓をできる限り配置し、昼間は照明を使わない
・暖房は薪ストーブで、薪ストーブの熱が家全体に行き渡るような設計
・薪は敷地内の林から供給
・その林の木は、成長する際に空気中の二酸化炭素を固定するのでそれを燃やしても実質CO2排出ゼロ
・太陽光発電パネルを屋根に設置
・大型蓄電池完備で、夜間は蓄電された電気を使う
・オール電化
・排出される生ゴミは畑の肥料に
・料理に使う野菜は畑でとれた野菜

 二酸化炭素を排出しないのにもかかわらず生活レベルは全く落ちていません。ニュージーランドの田舎町に最先端はありました。

薪ストーブ あったかい


人間のみならず、動物をもダメにする
昼間の太陽光発電で必要な電力を賄う 太陽光を多く取り入れる事の出来る窓も特徴

住んで分かった「自給自足」の難しさと実現性

 しかしながら、このゼロエミッションハウスの難しさというのも同時に感じました。

 例えば、薪ストーブですが、実際は使用している薪の大部分を購入していました。仮に全ての薪をHelenさんの敷地から供給したら、すぐに全ての木か伐採されてしまうでしょう。彼女はとっても広い敷地を保有しているのにもかかわらずです。

 また、保有している車はガソリン車でした。なぜ電気自動車を買わないのかと尋ねると、ニュージーランドでは長距離の運転が当たり前で、1回の充電に時間がかかる電気自動車では道中に何回も充電しなければならないため不便とのことでした。また、自宅に電気自動車用の高電圧充電器を設置することは非常に大きなコストがかかるそうです。

 仮に電気自動車の充電スタンドを設置できたとして、充電に必要な電気を太陽光発電だけで賄うことができるのかも疑問です。

 これらのことから、私は未来のエコな暮らしの方法の一つとして考えられている低密度自給自足型の暮らしの実現性の低さと、あるレベルでの妥協の必要性を痛感しました。

 事実として、Helenさんはゼロエミッションで生活できていません。ガソリン車を運転して、薪は実際には購入しています。そして、もう一つの大きな事実は、Helenさんの家の敷地はものすごく大きいということです。なぜ「自給自足型」という名前ではなく「『低密度』自給自足型」なのかというと、自給自足に低密度は必要不可欠だからです。低密度な暮らしとは、つまり広大な敷地内で、太陽光パネルを設置して発電し、燃料となるバイオマスを生産して、農産物もなるべく自給自足を試みる暮らしです。都市にある密集した住宅街やビルで自給自足のゼロエミッション生活は難しいと言えます。16エーカーの土地という広大な土地に、Helenさんただ1人が住むという「超々」低密度な暮らしでもゼロエミッションは厳しいということです。

 加えて、Helenさんの家がもつ地理的条件は比較的良いように思えました。ニュージーランドでは西から東に吹く偏西風の影響で、ニュージーランド南島を南北に貫くSouthern Alps(サザンアルプス)の西側では年中雨、東側では年中晴れといった天気が基本的です。Oamaruの年間の降水量は589mmで、東京のそれは1,589mmと大きな差があります。Oamaruの年間日照時間のデータが見つからなかったので正確な比較は出来ませんが、年間降水量から考えるにOamaruでは東京よりも多くの日照があると考えられます。日照時間が多いと、太陽光パネルによる発電が効率的に行えますが、雨や曇りの多い地域ではそもそも太陽光発電による発電だけで家で使用する電気を賄えなくなるのは容易に想像できます。加えて、Oamaruの夏は涼しく、冷房が必要ありません。そのため冬の薪ストーブによる燃焼が唯一の冷暖房部門におけるエネルギー消費となりますが、日本の大部分のように冷房も暖房も必要な場合、必要な電力量が増加して太陽光発電で賄えきれなくなるでしょう。さらに、太陽光発電は電気自動車の充電に必要な電気も将来は賄わなくてはなりません。

 よりマクロな視点で考えましょう。地球温暖化問題は世界レベルで進行している問題なのでより大きな範囲で考える必要があります。世界銀行が2023年12月に発表した「World Development Indicators」による日本の都市圏に住む人の割合は2022年で92%でした。つまり日本の人口である1億2500万人の8%、1000万人が日本の非都市化地域に住んでいます。これらの人たちが低密度自給自足型の生活を送ることを考えます。環境省のホームページのデータから導いた日本の森林と農地を合わせた面積は30万平方キロメートルです。つまり、日本の非都市化地域の人口における1人あたりの面積は概算で7.5エーカーです。これはHelenさんの敷地面積よりも小さな値で、Helenさんが1人で16エーカーの土地に住んだとしても実現出来ていない自給自足生活を、日本の田舎に住む人たちが1人あたり7.5エーカーで実現出来るとは到底思えません。残念なことに、計算に用いた非都市化地域の面積には富士山や知床をはじめとした居住不可能な地域も含んでいるため、実際は7.5エーカーより大幅に小さくなるでしょう。

 また、低密度にひろがった居住区では、移動部門に多くのエネルギー消費が必要になります。買い物や通勤で長い距離の車の運転を強いられるようだと、そこでエネルギーを必要とします。それ以外にもごみ収集や路線バス、オンラインショッピングなどによる宅配の長距離運転によるエネルギー消費の増加は低密度型都市のデメリットの一つです。また、行政は広大な居住区に行政サービスを行き渡らせる必要があるため、行政コストの増加は確実でサービス低下の可能性もあります。

 つまり、自給自足型を完全に追求するのは難しく、ある程度の二酸化炭素排出で妥協する必要があります。昨今ニュースでよく聞く「ゼロエミッション」の難しさを肌で感じることができた貴重な3週間でした。簡単に「ゼロエミッション」など言うことは出来ません。

エネルギーシステムを考える上で大事なこと


 さらに、実際に暮らして分かった事実とそれに基づく考察によって、エネルギーを社会全体でどのように使用するかという「エネルギーシステム」をどのように考えるべきかについて、3つ結論づけることができました。

 1つ目は

エネルギーの効率的な利用の為の手段選択は環境に合わせて適材適所の原則で行われるべきである。

ということです。例えば、長距離の車の運転が当たり前のニュージーランドのような場所では、一日に何回も時間のかかる充電が必要になるため電気自動車は向いていません。環境問題を考えるが故に生活の利便性を落とす事に関して私は反対だからです。住宅を低密度にして多くの太陽光パネルを設置し、やっと電気自動車をゼロエミッションで走らせることが出来ます。しかしそれは現実的ではないでしょう。前章でもお話ししましたが、妥協が必要です。逆に、街乗りがメインとなる都市部の住民にとって、一日に何回も充電が必要になることは少ないため、電気自動車はエコな選択肢になり得ます。そのため、エコの為の方法選択は環境や地理的条件に合わせて考えるべきなのです。

 2つ目は

街作りはミクロよりマクロな視点で考えるべきであり、それを考慮するとコンパクトシティ型都市の方がエコで経済的である。

ということです。「低密度自給自足型」「ゼロエミッション」、聞こえは良いですが、その実現性はお話しした通りです。地球温暖化問題を考えるならマクロな視点で考えるべきであり、どのようにエコな地域を作るか考えるなら「低密度自給自足型」を考えるより「コンパクトシティ」「高密度高効率型」の生活スタイルでアプローチしたほうが絶対にいいはずです。現状、都市に住む人口の方が圧倒的に多いのに加え、今回は詳しく述べませんが、住宅で使用されるエネルギーの半分以上は「冷房」「暖房」「給湯」など熱に関わる部門であり、実際多くの人が暮らしている都市部のマンションやビルなどで熱の効率的な利用を考えた方が、地域全体で考えた時によっぽど省エネになります。そしてそれを実現する為の多くのアイディアがすでに多くあります。よく聞くワードでいうと「コージェネレーション」です。都市機能が特に集約している地域で燃料を用いて発電し、その発電の際に出る排熱を用いて暖房、給湯に使おうというシステムです。さらに付け加えると、前章で述べた低密度型都市を追求した場合の運輸部門におけるエネルギー消費量増加、行政サービス低下とコスト増というデメリットが大きく、それをエネルギー政策の目玉にはしずらいことも、マクロな視点で考えたときに低密度自給自足型の否定的な意見になります。

 3つ目が

エネルギーの効率的な利用の為の手段選択の過程は政治的、特に国際的な協調による介入の影響下にあってはならない

ということです。地域によっては電気自動車よりガソリン車のほうが向いているというのは既にお話したとおりです。その環境や地理的条件によって最も優れた選択肢は異なります。例えば国際的な協調によって、「○○年までにガソリン車販売を0にします!」としたらどうでしょうか。ほかにも、コンパクトシティを追求し、化石燃料によるコージェネレーションを用いて大幅なCO2排出削減を達成できていたのにもかかわらず、「○○年までに化石燃料を用いた発電は禁止にします!」としたらどうなるでしょうか。絶対にこうなってはならないのです。環境問題は工学、理学、政治学、経済学、地理学と分野を超えて考えなければならない非常に厄介な問題です。政治的なアプローチだけが強くなってはいけません。

まとめ 「低密度自給自足型」は難しい

 いかがでしたか。「低密度自給自足型」生活を送り、貴重な体験をしたからこそ、現実的に考えなければいけない問題を見つけることが出来た3週間だったかなと思います。結論としては、「低密度自給自足型」生活は環境政策のアプローチとしては効果が薄く、また現実的ではないため、多くの人が住む都市に人口を集め、高効率なエネルギーシステムの構築を考えたほうがはるかに効果的であるというのが私の考えです。Helenさんとは3週間でいろいろな事を共有しました。「偏西風による風力が安定的に供給されるエリアなので、風力発電をしてみたらどうか。」なんて提案をしたら、「実は私も考えているんだよ」なんて言われたときは、なんか嬉しかったです。話は逸れますが、Workawayのホストファミリーの多くが環境問題に対して興味があるような気がします。環境問題に興味があり、実際に現地での暮らしを体験してみたい人にとって、宿泊費と食費を浮かすことができるこのサービスは素晴らしいサービスだと思います。以上で終わろうと思います。最後まで読んで頂き、ありがとうございました。

<出典>
https://en.wikipedia.org/wiki/Oamaru
https://en.wikipedia.org/wiki/Tokyo#Geography_and_government 


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