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ピョンヤン市内をゆく(5)~学生生活を覗く~

●まずは学校訪問

今回の旅行で期待が大きかった学校訪問、
こちらの急な行程変更(向こうの事情でね)もあって
なかなかスケジュールが確定せずやきもきしてましたが
3日目にしてようやく実現。

訪れたのは市内にある
「6月9日龍北(リョンボク)高級中学校」です。

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「6月9日」って何やねん?という疑問はまたあとで。


せっかくの個人旅行なので
個人的に訪問して先生や生徒といろいろ話したい!と
リクエストはしてたんですが
まぁ一介の民間人がそう個別訪問などできるわけもなく
到着してみるとバス1台分の中国人団体観光客が。
結局は彼らと一緒に学生の公演を鑑賞、という
お決まりコースに落ち着いてしまいました…

校舎は最近建て替えたようでかなりキレイ。
運動場もそこそこの広さで、人工芝が張られています。

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正面にはやはりお2人の大肖像画が。

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ただこの肖像画、すべての学校にあるわけではなく
彼らと特に関わりの深い学校のみに掲げられています。
ここも後述しますが特別なゆかりがあるんですよ。
まぁ見学先に選ばれるようなところですからね。

ちなみに校舎の上部に大きく書かれた赤い文字は
「朝鮮のために学ぼう!」
肖像画の下に彫り込まれた文字は
「敬愛する金正恩元首様の自慢の子供たちになろう!」

入り口の柱にある赤い看板は
左が「一心団結」で右が「決死擁護」
なかなか学校らしからぬ勇ましさです。

でもその右奥にある大きな赤い看板は
「5月は事故防止対策月間です」と急に現実路線w

そして扉の真上にはひときわ大きな赤い看板。
今度は額装で、ちょっと雰囲気違いますね。

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「偉大な首領 金日成大元首様(と)
  偉大な領導者 金正日大元首様が
   主体72(1983)年3月6日
    お越しになられた6月9日龍北高級中学校」


こういう額看板は北朝鮮のいたころで目にします。
彼らが訪れた場所、入った部屋、座ったイスまで
いちいちこうした表示がつけられて大切にされているんです。

で、中へ入ると

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正面にお2人の巨大絵画。

以前学校を訪問した時の様子のイメージ画のようです。

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当時としては最先端のパソコンで学習中の生徒を
お2人が誇らしげに見守るようす。
周囲の人とお2人の人物比がおかしいのはデフォルトw
必ず彼らが他の人々よりも一回り大きく描かれます。
印刷物に名前出すときもそこだけは太字ですからね。
お2人に遠近法とかパースとかは関係ありません。
とにかくいかに偉大であるかを視覚的に物語るのが重要。
絵のチカラはあなどれませんよ。


さていよいよ校舎内へと入りますと
まず最初にこんな部屋へ通されます。

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             「沿革紹介室」。

ここだけでなく、北朝鮮ではほとんどの公共施設に
こうした「その建物のいわれ」を展示紹介する部屋があり、

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見学者はここでひととおりそれらの説明を拝聴するんです。
また、生徒や市民などもことあるごとにここで学習します。
もちろん、すべて「元首様が…」です。

そしてこの学校についての説明。

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いろいろと書いてますが、要するに
金日成主席が1969年6月9日、
ここに学校を建てるように指導した、ということらしい。

お待たせしました(笑)
ここでようやく冒頭の疑問に解答です。
だから学校名に「6月9日」がついてるわけですね。
ただ実際に学校が創設された8月26日ではなく
建設を指示した日が優先されて名前になるあたりがすごいなぁ。

その下には学校の概要が記されてます。
総面積は14,790㎡で運動場面積は8,960㎡。
教職員数57名、生徒数は1,219名、学級数は25。
高級中学校は3年制なので、だいたい1学年8クラスかな。
けっこう規模の大きな学校ですね。

室内にはこのほかにも

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勲章や名誉称号を受けた教職員が何名いるだとか
学校がこれだけ表彰されたとかの掲示や

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お2人が訪問した時にどう歩いてどの部屋に入ったかを示す図などが
たいそうに仰々しく紹介展示されています。

また、選挙の時にお2人がこの学校の投票所で投票したそうで
その投票用紙の実物(!)だとかも展示されていますよ。

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はいこの学校のスゴさやお2人のありがたさはよくわかりました。
で、次は模範学生たちによるすばらしい公演鑑賞ですね…(ハァ)

●思いがけず教室めぐり

と、ここでワタシのあまりの落胆ぶりに気づいたのか(笑)
ガイドが気を利かせて中国人団体から離れ、
5階の公演会場まで校舎内を回り道させてくれましたよ。

おお、校舎内を見学できる!

さっそく一般教室がある廊下へと。

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何気に生徒や先生が歩いてたりしててちょっとうれしい。
でもさすがにバシバシ写真撮ったり、
話しかけたりはできなかったです。

ただなんかちょっと暗いなぁ。

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どうやら授業は午前中で終了し、いまは「放課後」らしい。
午後はそれぞれ「課外学習」の時間に充てられるんだそうです。
運動だったり、楽器や舞踊だったり、あるいは科目学習だったり。
そのためほとんどの生徒はもうこの校舎内におらず、別の場所。
だからもう必要ないので電気は消してるとのことでした。
ま、国ぐるみで節電!の意味合いが大きいんでしょうけどね。

せっかくなので授業風景も見てみたかったんですが
そんなわけで断念。
しかし「生徒はいませんが…」と言いながら、
教室の中は覗かせてもらえることに。

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「第2学年7班」。つまり日本では「2年7組」ですね。

では!と中へ入ろうとしたら
ドアの丸窓から中を見るようにと…ええっ?
なんだかイケナイことをしている気分です。

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机は2人掛け用が2台ずつ並んでてイスは木製直角。
おお、こういうとこでみんな勉強してんのか。
でもちょっとツラそうですねー。

おっと。よく見たら担任の先生が中にまだ残ってました。
あ、だから中へ入れなかったのかww

●「誉めて伸ばす」?

さらに校舎内を探検していくと
廊下の掲示物でよく目につくのがこういうの。

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成績優秀などで表彰された生徒の顔写真パネルです。
あちこちにいろんな種類のものが。
これは外国語科の地区コンテストで1等取った生徒ですね。

こちらは地区科学コンテスト、全国文学コンテスト…

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パネルのタイトルは入口にもあった「朝鮮のために学ぼう!」。
顔写真の上の赤い2文字は「栄誉」です。

ここには5月の「最優等生たち」がずらり。
毎月行われるという実力テストの成績優秀者が一堂に。

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でも「最も(=いちばん)」優秀な生徒がこんなにもいると
ちょっとインフレ気味だなw

また最初のパネルもそうでしたが、
こうした顔写真と名前の多くは
何年にもわたって掲示して称え続けられるんですよ。

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そして写真もこんな風にお花キラキラを使ったり。

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         最近はメガネっ娘も増えましたな。

やっぱりちょっと「特別感」が醸し出されてますよね。
理屈抜きに「なんかすげぇ」と思わせるチカラがあります。

また、さらに強烈なのがこれ。

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このパネルのタイトルは「成績紹介」。
毎月の実力テストの上位168人(!)が
順位とともに名前、クラス、点数までも大公開。
日本でもかつてはこうした成績発表があったそうですが
いまではまさに「時代に逆行」と言われかねませんよね。

でも、まぁ確かに「残酷」と言えなくもないですが
逆に頑張った人が無条件に評価されてるとも言えます。
誰からもわかりやすく徹底的にホメられるわけで
それはそれで本人もうれしいだろうし自慢にもなる。
で、常にこうしたパネルを目にしていると
周りで見てる子も「いいよな」「なりたいな」と素直に思いそう。
いわば「誉めて伸ばす」やり方として
単純にモチベーション上げられる気もします。
案外こうしたところが強さの秘密になるのかもしれません。

●廊下はさらに…

そして廊下にあるものはコレだけではありません。

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壁じゅういたるところに貼られているのは…

例えば鏡の周りに啓発ポスター。

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上の額には
「みんなが優等生になって
  敬愛する金正恩元首様に喜びを捧げよう!」

鏡の上には
「いつでも容姿は端正に!」

左のオンナノコは「静かに」と注意してます。

なお右側の絵は国花とされる「목란(モクラン=木蘭)」。
日本名では「オオヤマレンゲ」だそうな。

また、階段の途中には

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物理の公式??
A=UIt なんて文系のワタシにはわからんぞww
説明を見ると
電流の仕事=電圧×電流の強さ×時間、だそうですが。
どなたかエライ人教えて。

どうやら奥の方は「ジュールの法則」らしい。

さらに廊下の他の壁には全面にわたって
「住みよく美しい三千里錦繍江山」と題する大壁画。

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国内の名山や代表的な河川、湖、高原などを紹介しながら
朝鮮半島の象徴的な呼び名として使われる
「三千里錦繍江山(サムジョンリクムスガンサン)」
の由来とあわせて一大パノラマで展開してます。

ちなみに、この「三千里錦繍江山」っていうのは
三千里の長さに連なる美しい織物のような川や山、ってな意味で
朝鮮の広大さや織りなす山河の美しさを称える言葉ですよ。

校内のどこを歩いてもいたるところにこうした掲示物があり、
もう情報量多すぎwww
生徒たちは四六時中こんなのに囲まれて生活してんのかぁ。
登下校も、休み時間も、トイレに行くときも常に勉強。
いや、トイレの中までは見てませんけどね。
なんか気の休まる時がないようで心配ですが
逆に言えば知らず知らずにいろんな知識が入ってくるのかな。
もしかしたらすごい効果があるのかもしれません。

●もちろん公演も

ついついテンションが上がってしまい、
たっぷり寄り道のあとかなり遅れて「メインイベント」会場に到着。

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校舎内にはこんな講堂があって、すでにライブは進行中。

そう。ライブなんですよ。アーティストみたい。

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ドラムセットにギターまであってね。
実はこの学校、「爆風スランプ」のファンキー末吉さんが
2006年にロック指導を行ったことで(一部では)有名。
その時のDNAはまだ受け継がれていたんですね。
まぁさすがにニッポンやアメリカの「ROCK」とは
曲調も内容も大きく違うのは仕方のないことですが、
それでもみんなしっかり「けいおん!」してましたよ。

公演の最後は観客を巻き込んでのダンスもお約束。

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中国人団体さん大盛り上がりでした。
その後、団体さんは一斉にバスに乗り込んで
ばたばたと次の目的地へ。

ワタシは、次の予定が晩ゴハンだけになったので
少し余裕時間、というか待機時間が発生。
校門あたりまでちょっとお散歩してみました。

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手前の建物は体育館。
屋内プールもあるんだそうですが中へは入れず。
ステンレス製の門扉にある「5점」は「5点」。
試験の点数ではなく5段階評価の5点満点ということで
「みんな満点をめざそう」という意味なんだとか。

校門には学校名の表札がついてます。

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左側に大きく学校名「6月9日龍北高級中学校」。
右側には「3重栄誉のプルグンキ(赤旗)対象区域」と
わざわざ加えられた添え書きが光ります。
詳しい内容は聞きそびれましたが、
優秀な成績や顕著な功績をあげたりすると表彰されるようで
「3重栄誉」とは3回表彰されたことを表すそうです。

●学校内にもアレが

そんな校門の脇でひときわ目を引くのが

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北朝鮮ではおなじみ、スローガン看板。
勢いのある独特の書体が踊ります。
学校にもこんなのがあるのね…って、ここ高校だよ。
まさか高校生の皆さんがコレ書いてるとか?
いや、たぶん先生たちの労作ですね、内容見ると。

ちなみに、この特に激しそうな右側4枚の掲示の中身は
左側から順に…
「学習も戦闘」
→学年末試験でトップの成績を取った生徒名を
 各クラスごとに紹介

「祖国防衛は最大の愛国」
→大学進学ではなく軍入隊を志願したという
  3年4組のファン・リュギョンさん(女)と
  3年3組のチョ・リョングクくんを称賛

「私たちも一役」
→将軍様の軍隊強化に必要な ”くず鉄集め”
(そんなのあるんですね)での模範的な活動で
 2年1,3,6,7組と1年1,3,6組を高く評価

「体育熱風」
→青少年の全国体育競技大会で優勝するために
 玉の汗を捧げている(=頑張っている)
 卓球部員たちを応援 

…ってな内容です。

まぁもうついでなんで左側2枚の檄文も訳しときますと
「青年たちよ!金日成・金正日主義青年同盟の栄誉を
     全世界に響き渡らせよう!」

「革命的な総攻勢で
  社会主義の強国建設のすべての前線において
    新たな勝利を勝ち取ろう!」

上のおっきい金属タイトルは
「みんなで最優等生になって
  敬愛する金正恩元首様に喜びを捧げよう!」

です。

う~ん、どれもアツいぞww
とにかくガンガン盛り上げろっ!な勢いで迫ります。

常時こういうモノに囲まれて過ごしてると
やっぱりこう、純粋にそうなっちゃうんだろうなぁ。
ちょっといろいろ考えさせられました。

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