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戦う道具であることをやめたナイフやフォーク

銀座ウエストで食事をするたび感心するのが磨き上げらえた銀食器たち。
シュガーポットにクリームピッチャー、四角い下皿。
ナイフフォークやスプーンに至るまで入念に磨かれていて銀器独特のぬんめりとした艶っぽい輝きを放ってる。
食べるための道具が上等であるかどうかはお店の品格をあらわす重要なポイント。
ボクは「手が味わうおもてなし」だと考えている。

箸やナイフフォークは当然、「手で持ち上げて」使うもの。
重さや手触り、時に温度で料理に対する期待感をたかめてくれる。
「温度」と言ったのは、ロサンゼルスを代表するプライムリブの専門店「ロウリーズ」ではサラダも名品。
氷のベッドの上で大きなサラダボウルをスピンさせながら仕上げるサラダを食べるためのフォークをいちいち手渡しするのネ。
それは冷たい。
その冷たさがサラダの温度を予感させるおもてなしとして開業以来ずっと続けるおいしい儀式のようなサービス。
長い間、行っていないけど今でもそうしているのかしら…。

上等なホテルにはシルバー磨きの達人と呼ばれる人が必ずいました。
大量の銀器を日々、磨くだけの仕事ながらそれに誇りをもつ人たちの指は銀錆で黒くなっていたものです。
ナイフフォークのことを「シルバー」と呼ぶ…、今ではステンレスのものでも銀色をしていればシルバーと呼ぶけれど、正真正銘のシルバーを使うお店は少なくなった。

ナイフは剣、フォークは槍です。
人を殺す道具を食卓の上において安心できるよう、人はさまざまな工夫をしたのでしょう。
当時高価で、金属の中でもやわらかであたたかい銀を使って作ること。
それは「戦いの道具」を「食べる道具」にするための工夫だったに違いない。
それ以外にもとても大切な工夫があったと、銀座ウエストでしみじみ思う。
こんなふうに思うのです。


食卓が威張らず、おだやかに見える理由

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