「戦う女」映画ベスト10

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2010年、前年の「チャンバラ映画ベスト10」に続いて、毎年、基本的に2月26日に開かれている押井守さんと岡部いさくさんのトークイベント、「Howling in the Night ~押井守、《戦争》を語る」のパンフレット用に書いたもの。こちらは前回以上に個人の趣味全開なので、くれぐれもそこんところはご容赦ください。つか、この時点でスカジョ大躍進を予見してたオレ、偉いかも(笑)。

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 昨年の「チャンバラ映画ベスト10」に続いて、今回は「戦う女映画ベスト10」というお題をいただきました。
 さて、女が戦う話といってもピンからキリまであるわけですが、このさい、主題を明確にするためにも、選択にあたって、以下の二点を条件として自分に課すことにしました。
A.その女性は「主人公」である。
B.その女性は「肉体的・物理的」に戦う。
 つまり、「バットマン・リターンズ」のキャット・ウーマンは主人公じゃないからダメだし、「エリン・ブロコビッチ」のエリンは物理的には戦ってないから除外、とか、まあそういうことです。
 そうやって、枠を決めとかないと十本選ぶのは大変だということもあったんですけど、なによりもやはり、誰の手も借りず、男ども(さらにはロボとか怪獣とか、とにかく、一般的に女性よりも肉体的に優位であると思われているもの)を自力でガンガンどつき倒していくのが現代的な「戦う女」であると思ってるってわけだからです。

1.「エイリアン2」(1986)のシガニー・ウィーバー
 てなわけで、第1位に選んだのは、その手の現代的な「どついてかます」タイプの女主人公の嚆矢とも言える、この人。
 1作目での彼女は、あくまでアメリカのホラー映画にありがちなタイプのヒロインでした。最初はきゃあきゃあ言う脇役ぽかったのに、最終的には自力でなんとか怪物と戦わなければならなくなる女性ってやつですね。ところが、この続編では、前作での経緯をふまえ、冒頭からすっかり主役の貫禄で登場、海兵隊がエイリアンの群れにボコボコにされ始めたとたん、ヒーローとして果敢に逆襲に出ます。クライマックスのエイリアン・クイーンとの一騎打ちは、SF映画史に残る屈指の名場面。
 ウィーバー自身、このあとモロに「強い女」キャラが板についちゃいましたが、だいたい監督のジェームズ・キャメロンが「強い女」が大好きで、このあとの「ターミネーター2」(1991)でも、前作の可憐なヒロインだったリンダ・ハミルトンを、筋骨隆々たる女戦士に、文字通り「改造」しちゃってんですよね。でもって、「アバター」(2009)の女性キャラは皆最初から闘士だったり。自分の好みに忠実すぎ(笑)。

2.「ガールファイト」(2000)のミシェル・ロドリゲス
 その「アバター」でも、キャメロンの大好きな「強い女」を好演していたのが、この人。「LOST」の撮影中に暴走か何かで逮捕されたり、映画のイメージそのままに実生活でもバッドガール路線を突っ走ってます。
 デビュー作である本作では、ボクシングを始め、先の見えない人生の鬱屈を全ておのが拳に込めて叩きつけることで、生きる意味を見いだす高校生を迫力たっぷりに演じていて、好感が持てます。
 この時は実際にまだ10代で、けっこうブス(今はかなりワイルド&セクシー系です)なところがまたリアル。
 よく似た路線のリアルな女性ボクサーものといえば「ミリオンダラー・ベイビー」(2004)ですが、あれは女性ボクサー役のヒラリー・スワンクよりも、老トレーナー役のクリント・イーストウッドが主役かも。

3.「グロリア」(1980)のジーナ・ローランズ
 私が定義したような現代的な「戦う女」の源流と言えば、80年公開のこの映画のヒロインでしょう。
 腕力こそないものの、拳銃片手にギャングどもを相手に堂々と渡り合うジーナ・ローランズの格好良さは、その後の女性私立探偵ミステリの興隆に先鞭をつけたものだと言えます。
 ちなみに、99年に製作されたリメイクは、主人公の行動に利己的な動機が混じっちゃってて、ハードボイルドさがぐっと減った駄作。

4.「クイック&デッド」(1995)のシャロン・ストーン。
 その「グロリア」のリメイクで主演していたシャロン・ストーンは、「氷の微笑」(1992)の大ヒットで一気にセクシーな悪女のイメージで売り出しましたが、本作では早撃ち自慢の女ガンマンを嬉々として好演してます。
 女性主人公の西部劇といえば、ブリジット・バルドーとジャンヌ・モローが共演した「ビバ!マリア」(1965)やジェーン・フォンダ主演の「キャット・バルー」(1965)など、コメディ仕立てのものが多かったのに、ここではブラックな笑いを盛り込みつつも、あくまでも痛快アクションとしてまとめたサム・ライミの演出が良い感じです。

5.「アサシン 暗・殺・者」(1993)のブリジット・フォンダ
 アンヌ・パリロー主演のフランス映画「ニキータ」(1990)をアメリカでリメイクしたのが本作。かなりストレートなリメイク。死刑を宣告されたヒロインが、助命と引き替えに政府の秘密機関にスカウトされ、特訓を受けて暗殺者となるが、という話。
 オリジナルのほうが悲哀感にあふれていて出来は良いのですが、ことヒロインの力強さと、クセのある脇役たちのキャスティングの楽しさ、アクションシーンのキレは、こちらのほうが上。
 ブリジット・フォンダがここまで輝いてたのは、この作品が唯一と言っていいのでは。

6.「デンジャラス・ビューティー」(2001)のサンドラ・ブロック
 腕は立つが身なりや行動に気を使わないFBIの女性捜査官が、美人コンテストに潜入捜
査することになり、メイクや衣装に磨きをかけて、ハッとするような美女に変身しつつ、持ち前の馬力で事件を解決するという本作は、正直言って美人とは言いがたいブロックにピッタリの快作。
 ただし、大ヒットを受けて作られた続編(2005)は、コメディ要素だけが強調された駄作です。

7.「緋牡丹博徒」(1968)の富司純子
 日本にも「戦う女」は当然います。ほんの数年のあいだに十本以上のヤクザ映画で、戦うヒロインを演じた富司純子の、最高の当たり役が、本作をはじめとするシリーズに登場する「緋牡丹のお竜」。
 長ドス片手にあでやかな着物姿で殴り込みをかけるお竜こそ、日本の「戦う女」の原点だと言ってもいいでしょう。

 さて、8位以下は番外として、作品ではなく女優をメインに据えて、「二十一世紀版戦うヒロイン3傑」を挙げてみたいと思います。
 映画創生期にフランスで作られた連続活劇「レ・ヴァンピール -吸血ギャング団」(1915)には、ミュジドラ演じるイルマ・ヴェップという悪女が登場します。身体にぴった
りとフィットした黒装束姿の彼女は、まさに悪とエロスの化身として、観客を熱狂させたとか。いや、今の目で見ると、現物はかなり野暮ったいんですけどね(後年、「イルマ・ヴェップ」(1996)でマギー・チャンが再現しようとした姿はかなりいけてます)。
 ともあれ、イルマ・ヴェップに始まって、『G.I.ジョー』(2009)のシエナ・ミラー扮するバロネスに至るまで、悪のヒロインたちは、身体にぴたりと貼りついたエロティックな衣装で、正義の味方たちを惑わしてきたわけです。
 それに対するに、正義のヒロインたちもまた、コミックスの世界では身体にフィットしたセクシーな(ただし、悪女たちと違って色とりどりの鮮やかな)コスチュームに身を包み、悪と戦ってきました。
 近年のアメコミ実写化やテレビゲーム実写化ブームによって、それら正義のスーパーヒロインたちが続々と映画に進出しているわけですが、なにせマンガやゲームで描かれた抜群のプロポーションを、実写で体現できる女優は、美人ぞろいのハリウッドといえども、そうそういないわけです。
 そのせいか、この十年くらいのあいだ、見事なまでに同じ女優たちが何度もスーパーヒロイン役を演じているわけですが、中でも目立つのが以下の三人。
 問題は、彼女たちのヒロインっぷりはすばらしいんだけど、映画の出来はだいたいたいしたことないってことでしょうか(笑)。

8.ミラ・ジョヴォビッチ
 なんといっても「バイオハザード」三部作(2001~07)と「ウルトラバイオレット」(2006)のセクシーな衣装と派手な暴れっぷりがすばらしい。
 まあ、「フィフス・エレメント」(1997)に「ジャンヌ・ダルク」(1999)と、元々「戦う女」な配役の多い女優さんですが、「バイオハザード」のヒット以来、すっかりB級SFアクションのスーパーヒロインが板についちゃったというか(笑)。
 お人形さんを思わせる冷たい美貌が、非人間的なスーパーヒロインっぷりに見事にマッチしています。

9.アンジェリーナ・ジョリー
「トゥーム・レイダー」二部作(2001、03)の冒険家、「スカイキャプテン ワールド・オブ・トゥモロー」(2004)の隻眼の軍人、「Mr.&Mrs. スミス」(2005)の殺し屋主婦
、「ウォンテッド」(2008)の殺し屋と、これまた「セクシーなアクション女優」路線をつっぱしってるのがこの人。
 ジョヴォヴィッチと正反対の、肉感的な容姿から色気がむんむんわき出してるところが特徴。
 いや、実は「チェンジリング」(2008)みたいなドラマにもちゃんと出てるんですけどね。でも、今年の新作はスパイアクションものの「ソルト」(2010)(元々は男性主人公モノだったのをジョリーが主演するっていうんでシナリオを書き直したとか)だしなあ。

10.ケイト・ベッキンセイル
「アンダーワールド」三部作(2003~09)(三作目はラストに顔出しするだけですが)の吸血鬼、「ヴァン・ヘルシング」(2004)では正反対の吸血鬼ハンター、「ホワイトアウト」(2009)では極寒の地の保安官と、ここのところ、強い女を繰り返し演じているのがこの人。「アンダーワールド」のフェティッシュなコスチュームは、その手の衣装が好きな人にはこたえられんかも。
 でも、元々は恋愛映画の可憐なヒロイン役なんかをしていた人だけあって、ジョヴォヴィッチやジョリーと比べると、「戦う女」の迫力が今一歩足りないというか、無理してるっぽいところがあるのが、ちとつらいところ。というか、今後、どっちの方向に向かうんでしょうね、この人は。

 ちなみに、「アンダーワールド」の三作目でベッキンセイルに代わってヒロインを演じたローナ・ミトラは、「マッドマックス」と「ニューヨーク1997」と「バイオハザード」を混ぜて西洋チャンバラまで振りかけたみたいな怪作「ドゥームズデイ」(2008)でも、女性版スネーク・プリスキンみたいな強面ヒロインを熱演、将来が楽しみな「戦う女」かも。
 また、セクシー女優として近年やたらと出番の多いスカーレット・ヨハンソンが、近日公開予定の「アイアンマン2」では、黒装束に身を包んだ女スパイ、ブラック・ウィドウ役に挑戦するというから、今から楽しみ。この映画の反響次第では、2010年代の「戦う女」像は、もしかしたらヨハンソンがリードすることになるかもしれない。

 まあ、しかし、こうして見てみると、昔と違って現代は、美人女優にとってアクション映画で「戦う女」を演じることは、名前を上げるには避けることができない通過儀礼みたいになってて、見てる我々は嬉しいけど、女優さんたちにとっては大変な時代なのかも(笑)。

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