チャンバラ映画ベスト10

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2009年、毎年、基本的に2月26日に開かれている押井守さんと岡部いさくさんのトークイベント、「Howling in the Night 〜押井守、《戦争》を語る」の、この年のパンフレット用に書いたもの。個人の趣味全開なので、そこは一つご容赦ください(笑)。

「古今の剣・刀をつかったアクションが出てくるおすすめ映画10本」

 剣や刀によるアクションというと、一番に連想されるのはやはり時代劇だろうが、筆者の場合、典型的な時代劇の「チャンバラ」にはあまり愛がない。
 そういう「チャンバラ」の典型とも言える最盛期の東映時代劇が嫌いということではない(肩の凝らない娯楽映画としては筆者も好き)のだが、そこで描かれる殺陣は、「アクション」としての剣劇としてはあまりにも華麗すぎ、もっと泥臭くて「痛み」の感覚がある殺陣の方に心惹かれるのだ。
 つまりは、黒澤明の「用心棒」(一九六一年)に代表される「リアリティ」(リアル=現実ではなく、あくまでもリアリティ=本物らしさなのだが)溢れる殺陣が好きなのだ。
 というわけで、本稿では、そういう筆者の好みを全開にした独断と偏見によって、和洋合わせて十作品を選んでみた。あくまで、作品に登場する「刀剣アクション」のベストなので、たとえば「時代劇ベスト10」を選べと言われたときとは、全然違うリストになっていることは、注意していただきたい。
 なお、順番は単に年代順であって、順位は特につけていない。

1.「七人の侍」(一九五四年)黒澤明監督
「用心棒」が大ヒットしたことで、マンネリ気味だった東映の時代劇が一気に人気を失い、東映はヤクザ映画へと傾斜していったというのは、映画史の本などでよく目にする話だが、その「用心棒」にしても、続編の「椿三十郎」にしても、殺陣の場面は実際にはそんなに多くない。
 やはり黒澤映画で一本選ぶなら、野武士集団との雨中の大立ち回りが印象的な「七人の侍」だろう。若き三船敏郎の無手勝流な暴れっぷりは、後年の「用心棒」とはまた違った魅力に溢れている。

2.「座頭市物語」(一九六二年)三隅研次監督
 いきなりリアリティという部分が怪しい作品を持ち出してしまうが、やはり殺陣の魅力という意味で、勝新太郎の当たり役「座頭市」シリーズを抜かすわけにはいかない。
 特に一作目の「座頭市物語」は、盲目の座頭が仕込み杖の居合い斬りで敵を倒すという、荒唐無稽な設定を、抑えた演出と、生活感溢れる日常描写で包みこみ、作品全体のリアリティを支えているところがすばらしい。
 クライマックスの市と平手造酒の決闘はもちろんだが、その手前、やくざ同士が狭い町中でドタバタと切り結ぶ出入りの描写の生々しさが良い。

3.「十三人の刺客」(一九六三年)工藤栄一監督
 東映の娯楽時代劇路線が衰退し、やくざ映画路線がメインになる前の短い間に生み出された異色の作品群が、「集団時代劇」と呼ばれる一連の作品である。工藤栄一監督はそのうちの三本(「十三人の刺客」、「大殺陣」(一九六四年)、「十一人の侍」(一九六七年))を撮っており、そのどれもが異様な迫力と無常観に満ちた力作となっている。
 ここではまさに当時の東映オールスターキャストで作られた一本目を推しておく。延々と続くクライマックスの死闘は、いつ見てもすばらしい。

4.「十兵衛暗殺剣」(一九六四年)倉田準二監督
 近衛十四郎といえば、テレビの素浪人三部作(月影兵庫、花山大吉、天下太平)の、飄々とした二枚目半ぶりがあまりにも有名(いや、わたしも大好きです)だが、映画においてはすさまじい太刀さばきで主人公に迫る、凄みのある悪役が身上だった。
 そんな近衛の、迫力ある太刀さばきが十二分に発揮されたのが、彼が柳生十兵衛に扮して主演をはった「柳生武芸帳」シリーズだ。
 特に最終作「十兵衛暗殺剣」では、大友柳太郎を宿敵に迎え、シリーズでも異色とも言える強烈な死闘を見ることができる。明らかに自分と同格もしくはスゴ腕の敵を相手に、なりふり構わず挑む十兵衛の鬼気迫る様に、近衛十四郎の真骨頂が現れている。

5.「子連れ狼 地獄へ行くぞ!大五郎」(一九七四年)黒田義之監督
 実兄である勝新太郎の「座頭市」シリーズの殺陣以上に、常識離れの異様な迫力に満ちた殺陣を展開してみせたのが、若山富三郎が拝一刀を演じた映画版「子連れ狼」シリーズだ。
 中でも最終作となった「地獄へ行くぞ!大五郎」では、時代設定も何も無視した、雪山でのスキーを使った対決シーンなど、唖然とする場面が続出する。
 ここまで書いてきたことを全部ちゃぶ台返しにしちゃうほどのメチャクチャぶりなのだが、そこにこそ、この怪作の意義があるのだ。とにかく一見されたし。

 さて、邦画を五本紹介したので、ここから先は洋画に目を移してみたい。とはいうものの、往年のダグラス・フェアバンクスの海賊ものやロビン・フッドものに代表される「西洋チャンバラ」には、日本の「チャンバラ映画」以上に愛がない。あのペラペラな剣がどうにも性に合わないのだ。
 ということで、選んだ五本はどれもフェンシングなどかけらも出てこないものとなってしまった。

6.「四銃士」(一九七四年)リチャード・レスター監督
 デュマの『三銃士』といえば、何度も映画化された西洋チャンバラの定番だが、決定版は何と言ってもレスター監督による二部作、「三銃士」(一九七三年)と「四銃士」だろう。映画化でありがちなアクロバティックなチャンバラを排し、リアルな剣劇を展開してみせているところが良い。
 だいたい、「銃士」というくらいで、実際の主人公達は剣よりもマスケット銃を担いで戦場を駆け回る(乗馬もするが基本は)歩兵である。「四銃士」ではそんな銃士の戦場での戦いっぷりを存分に見せてくれるところもおもしろい。

7.「エクスカリバー」(一九八一年)ジョン・ブアマン監督
 アーサー王伝説もまた、西洋チャンバラものの定番ではあるが、「エクスカリバー」は膨大で脇筋が多い原典をきれいに整理した上、よくある中世騎士ものにありがちな華麗な剣劇ではなく、無骨かつ重厚な殺陣を採用しているところが良い。
 中でも、いくさの最中は剣で斬るというよりは、鎧をぶっ叩いて敵を倒すというような描写があっておもしろい。

8.「ハイランダー/悪魔の戦士」(一九八六年)ラッセル・マルケイ監督 
 現代を舞台に、中世から連綿と続く不死の戦士達の戦いを描いた「ハイランダー」は、主人公に日本刀を持たせ、西洋風ではなく日本風の殺陣をつけようと(あくまでも日本風でしかないけど)したところが新しかった。
 映画の続編、テレビシリーズ、さらにはアニメ映画と、いまだに増殖を続ける一大シリーズとなったのも、その和洋折衷チャンバラの魅力に負うところが大きいはず。

9.「スター・ウォーズ エピソード1/ファントム・メナス」(一九九九年)ジョージ・ルーカス監督
 映画としては「スター・ウォーズ」の新三部作には失望しか感じないものだが、それでも「エピソード1」のチャンバラ、特にクライマックスにおけるダース・モール対クワイ・ガン・ジン&オビ・ワン・ケノービの剣劇には、「ずっとこういうのが見たかったんだよ!」と快哉を叫んだものだ。旧三部作の、いかにも見様見真似な感じのチャンバラがウソのような、スピード感溢れるアクションが見もの。

10.「ロック・ユー!」(二〇〇一年)ブライアン・ヘルゲランド監督
 さて、最後の一本は、剣でも刀でもなく、槍の映画を選んでみた。中世の馬上槍試合に人生を賭ける若者を描いた「ロック・ユー!」は、クイーンの「ロック・ユー」に始まり「ウイ・アー・ザ・チャンピオンズ」に終わるという、史実を無視してご機嫌なロックミュージックで彩られている快(怪)作。
 ごつい鎧に身を包み、バカみたいに長い槍を掲げて、ひたすら敵めがけて馬を走らせる姿は、ほとんどチキン・レースの様相を呈していて、アホらしさと清々しさが入り交じった魅力に溢れている。

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