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豚肉の脱水と牛肉の枯らし

すき焼き用は機械(スライサー)でスライスするのですが、虎ノ門の「あさい」は、手切りで4㎜にカットした近江牛のサーロインを使う。機械で切るより手切りのほうが、アクもでにくく繊維も崩れにくい。手間ではあるがおいしさを追求すればするほど手間仕事に行き着く。

前回、豚肉の保水と保存について、そして血統や餌は僕にとってはそれほど重要ではない、ということを書きましたが、少し補足すると、これは肉屋目線であり、生産者からすれば重要なことだと理解しています。ただ、育てることに関しては僕は素人ですから、そのあたりのことを今日は深掘りしたいと思います。

一般の方より生産者に近いところにいるので、少しくらいの知識はあります。しかし、現場で毎日豚に触れ、汗をかいて働いている人には到底及ぶはずもなく、聞きかじった知識は間違った情報を発信する可能性もあります。

それよりも、届いた状態、そこからの手当て(保水、保存)が僕にとっては、もっとも重要で味に直結する最終の仕事だと思っています。いくら育ちの良い肉でも、手当て次第で残念な肉にもなりますし、逆に化ける肉もあるわけです。

生産者は育った牛の評価が結果です。僕は手当てした肉の評価(この場合は味)が結果です。

ここまでは豚の話でしたが、牛の話も少ししましょうか。料理人の方で牧場へ行ったとがあるという方いますよね。そのとき、生産者の方から餌の説明をされませんでしたか。人間と同じで牛も食べてるもので骨も内臓も肉も脂も作られます。

でも、生産者の方も一部分を切り取って話なしているだけなので、それがすべてではないんです。僕も含めて移動した距離だけ満足度が高いような気もしますが、現地でしか得ることができないことがあるのも事実です。

そもそも血統や餌というのは生産者側の話であって、肉屋側には知らされない情報でした。最近でこそ生産者と肉屋、料理人との交流がありますが、SNSがない時代は交わることもなく、情報は遮断されていました。

血統や餌のことを聞かれれば、ある程度のことは話せますが、生産者によって内容が違いますから、一生産者の考え方を知識として話す場合は、言葉を選ぶ必要があるかも知れません。

それよりも、僕は豚肉と同じく保水のための手当てとその後の保存が重要だと思っています。

豚肉は脱水ですが、牛肉は“枯らし“ます。ただし、枯らしは赤身の肉にこそ有効で、サシの多い肉、分かりやすく言えばA4やA5の肉は枯らすと良くない結果になることもあります。

と言うのも、A5に代表されるサシ肉は、水分が少ない分、手当ての必要性が少なく、なんなら屠畜して数日後でも商品化できるのです。このことを知っている肉屋や料理人は、熟成肉に対して批判的で、和牛は新しいほうが良いという持論をぶつけてくる人もいます。

一方、格付けの低い赤身肉は、屠畜から数日後だと水分量が多すぎて味が乗っていないどころか肉質も硬めです。枝肉のままゆっくり枯らして、肉の表面が乾燥するくらいが商品化のサインです。

まとめると、赤身肉は手当てが必要で、サシ肉は目利きが必要ということです。セリの開始前に枝肉を目利きするのは、主にサシの入り方や肉質を見ているのですが、このあたりは血統が大いに関係しています。

話を保存に戻しますと、真空パックも保存のひとつです。しかし、使い方を間違えると、味や香りを損なうことがあります。例えばサシ肉を熟成させるとどうなるか?脂が酸化してネトがでます。ネトは粘り気があり、嫌な臭いがするのですが、困ったことに、これを熟成香だと思っている人が意外と多いのです。熟成肉を食べてお腹を壊した人の大多数がこのような間違ったエセ熟成肉を食べていたのかも知れません。

てことで、2回に分けて豚と牛で保水、保存について書いてきましたが、まだまだ分からないことが多くあり、現場にいると毎日のように新しい発見があります。それを楽しめてる人はたくさんの気づきがあり、その先には成長した姿があり、働かされてる意識の強い人は、心まで枯れていくように思います。肉屋に限らずですが、、

ありがとうございます!