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「今が一番かわいい」が母親を追い詰める

生まれたばかりの子どもの成長は速く、月齢が1ヶ月違うだけでも、「えっ、そんなこともできるの」みたいなことはよくあるし、ほんの少し前の写真でも顔が全然違ったりする。
そういう状況で親にとってプレッシャーになるのは、育児における「今しかない」系のワードだと思う。

「今しかない」系のワードというのは例えば、「こんなに抱っこできるのも今だけよ~」「すぐに大きくなっちゃうんだから」「今が一番かわいい時だね」という軽い言葉にはじまり、「ねんねしかできない今のうちが楽よ」とか「産後の骨盤が戻るのは半年が勝負」とか「頭の形は生後半年までに決まる」とか、最近も話題になっていた「汗腺は3歳までに発達する」とか、根拠のあるなしにかかわらず、また実際に役に立つアドバイスからどうでもいいものまで、例をあげたら本当にきりがない、そういった類のもの。

こういう「一回失敗したらあとがない」ということにはどうしてもプレッシャーが伴い、なかでも"心の持ちよう"に関する「今しかない」系ワードはとりわけそれが強いと思う。
「新生児のふにゃふにゃした体や声は一瞬」「生後3~6か月くらいが一番赤ちゃんらしくてかわいい」「二人目以降は上の子を見ながらの育児になるから、赤ちゃんとこんなに向き合えるのは今だけ」「どんどん成長するから、悩んでいたらもったいない」。
これらはすべて、実際に私が見聞きしたことがある言説だ。

例に出してしまって申し訳ないけれど、こういう言葉を発する人を非難したいわけでは全然ないし、経験を伝えてくれるのは本当にありがたい。
でも、自分に余裕のないときに聞くと、「そっか、今を楽しまなきゃ~」というお気軽な気持ちにはなれず、「子どものこの瞬間は今しかないんだ、何かやっておくべきことが抜けていないか、貴重な時間を無駄にしていないか」と、焦るような気持ちが先行してしまう。

「今しかない」系のワードは、その「今」を乗り越えて、振り返った人だから言える言葉だ。
その時は「今しかない」なんて思わずに必死にやっていることが、あとになって振り返ったときに「あの時しかなかったな」になるのだと思う。
振り返ってなつかしむことは、その時を過ぎた人の特権だ。「今しかない」の渦中にいる人が、そのなつかしさを受け取って不安を先取りする必要はない。
「今しかない」ワードを聞けるときはありがたく聞けばいいけれど、プレッシャーに感じるときは、「あー、『今しかない』ワードだなー」と認識して、脳の中の「あまり気にしない」領域に放り込んでおくくらいでいいかもしれない。

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