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#シロクマ文芸部 布団から「 足は口程に物を言わない 」

布団から突き出ていたのは、生意気だった女の子足だ。生意気だったのは昨夜までで、あまりにも煩くて耳障りだったので、夜食に致死の自然毒を混ぜた、植物の種だ。
案の定、朝になっても起きて来なかった。
煩くて若い女が死んだ、爽やかな朝だ。
未成年の女性が昨夜から行方不明だと、朝っぱらから警官がたずねてやってきた。
私は1人の若い女の子を、昨夜「泊まるところがない」と言って泣き出したから泊めたことや、昨日の朝から夜ここに着く前に「森の植物などを食べた」と女の子が言っていたこと。
起きたら警察に行くときに、私も付き添うつもりだった。でも、私が起こそうとしたときには既に心臓が止まっていたこと。
とにかく人を呼びに行こうと、身支度を整えていたら先に警察が来たこと。
固定電話はいつの間にか「おそらく彼女によって切られていた」と説明した。
私は固定電話しか持っていないこと。
彼女がスマートフォン等は「持って来ていない」と最初に自分で言っていたことも。
「手荷物からは、この女性が心臓に疾患を抱えていることが推測出来るものが幾つか出て来ました」
知っている。
「少女の遺体は我々が」
「お願いします」
私は、一応、頭を下げた。私は疑われない。
慎ましく暮らしている耳の不自由な女が「煩かったから」ゆきずりの少女を殺害した等とは誰も思いつかないだろう。
私のような聴覚障害者に「煩い」と言う感情があることも。
山や森には、自然死にしか見えない毒を持った植物がわんさか生えていることも知らない人は多い。
私が殺した。耳は全く聞こえないけど、ぎゃあぎゃあと喚き散らす表情が煩かったから。
「起こそうとしたら、布団から足が突き出ていて驚いた」  
って言えはもっともらしいでしょう?
煩い女は植物の種で死にました。

#シロクマ文芸部

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