シロクマ文芸部参加作品「私の最後の雫」
赤い傘は珍しくはないけれど、赤いレインコートは意外と見ない。
「珍しいな」
ぼんやりとそんなことを思いながら、私は少し前を歩くボブカットの女性の後ろ姿をみていた。真っ赤なレインコートを着ている。
雨が激しくなって来た。私は同居している男の暴力から逃げて、気がついたら、知らない街を歩いていた。
「あなた、傘なしで大丈夫なの? 良かったら、折りたたみ使う? え! きゃあああ! 」
知らない中年女性が後ろから私の顔を覗き込んで、それから、悲鳴を上げた。
私は今、血をぽたぽたと流しな