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24.5月チェロレッスン①:「聴きに行けるかも。」

先生には先日会ったばかりだが、レッスンは1か月ぶりだ。

私が楽器を準備して椅子に座るなり、先生が話し始めた。

内容は、レッスンと関係ないことばかり。
仕事のこと、親戚のこと、最近のニュースのこと。

先生のお喋りが途切れたタイミングで、私は言った。
「今の時間、センセにとっては休憩時間になってるんでしょう?」

先生は一人で30分も喋っていた。

私の前には4人、後ろには1人、レッスンが入っている。その間、休憩は昼食の15分間。それは疲れるだろう。

先生、チラッと時計を見た。
「ああ、もうこんな時間か。悪いね。」と苦笑する。
「いいですよ。私は勝手に弾きますから。」

先日私が先生宅へ遊びに行った際に、『お前のレッスンは気遣い要らないから楽。夜は勝手に弾いて、ボクは好きに喋っていればいい。』と先生が話していた。私のレッスンは息抜きらしい。

もちろん月謝は払っている。
でも、私はそれを月謝ではなく、昔先生宅に居候させてもらっていた時の家賃+食費代等々を返していると思っている。
とても安い月謝だが、先生の生活の足しになれば嬉しい。

           ★

そのようなことで、私は勝手に?無伴奏5番を弾いた。

練習ができていないことは、自分はもちろん、先生も分かっている。

「何とか最後までたどり着いた感じだねぇ。」
というのが、演奏を聴いた先生の感想。
情け無いねぇ、私。

「いつものことだけど、何で7小節の4拍目のC、微妙に外すんだろ?他は外さないのに。」

先生の言うこと、よくわかる。
「Aからのポジション移動の際、下がりすぎました。」
「だね。注意深く移動するようにしなさい。」
...はい。

「それから、序奏の付点8分音符の引っ掛けなんだけど。」

きたッ、いつも不安なところ。

「14小節4拍目のシラ、ハッキリ音を引っ掛けて。それから、16小節の2拍目十六分音符も引っ掛け忘れないこと。」

そこの部分、いつの間にか、いい加減になっていた。

「後半はいいよ。時々入ってくる八分音符の三連符は音が切れないように気をつけて。大事な部分だからね。」

ああ、以前「そこに向かって盛り上がれ」と言っていた部分ね。音の粒が尻切れ蜻蛉じゃ、格好悪いもんね。

           ★

あっという間に終わりの時刻。

次の生徒さんが入る前に片付け始める。

「6月のレッスン日、まだボクの予定が立ってないんだ。ちょっと待ってくれる?遅い時間の自宅レッスンなら大丈夫だと思うんだけど。」

いいですよ。まだ5月上旬ですし。

「それから。行けるかもしれない。」

「...どこにですか?」

「お前のオケの定期演奏会。」

私、一瞬にして凍りつく。

私の強張った表情を見た先生、大笑いした。

「ボクが見ていると、緊張する?」
「きっと、弾けなくなります…。」
小さくなる、私。

いつもは私が先生の定期演奏会やコンサートを聴く側である。

今度のオケ定演で私が弾くのは、難曲のブラームス交響曲第3番だ。いっかなマトモに弾けた気がしない。

学生時代私はヴィオラで、それは先生も何度か演奏会に来ていた。先生と楽器が違うから、聴かれていても何となく気楽だった。
チェロでアマオケに入った私。先生はこれまでの演奏会は自身のコンサート本番等が入っていて、来たことがなかった。今回もそうだろうと思っていたのだけど…。

しかも、私は2プルト。割と目立つ。
今回自信ないから、後ろのプルトにしてほしいとチェロトップに話したが、却下された。

でもね、と先生。
「調整中なんだよ。だからまだハッキリと行けるとは言えなくてね。」

「センセ、無理しなくていいですからね。」
と言う私に、先生が再び笑う。

「ハハハ。わかったよ。行ける行けないは夜に言わないようにするから。」

…聞いてしまった以上、ステージ上から客席にいる先生を探してしまいそうだ。

定期演奏会前に、もう一回レッスンがある。
「では、次回のレッスンよろしくお願いします。」
と言って、次の生徒さんと交代した。

まず、定期演奏会が終わらないことには、課題に集中できそうにないのである。





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