チェロ奏者の退団
私の所属するアマチュアオーケストラで、私と一緒にチェロを弾いていたAさんが、昨年末退団された。
そのことが私の中で引っかかっており、Aさんが退団することに至った理由を考えてみた。
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私自身の入団のことは、度々このnoteに書いた。
大学のときに大学のオケサークルに入団し、ヴィオラを弾いていた。本当はチェロを弾きたかったので、大人になって夢を叶えた…そんなところ。
今所属のアマオケの門を叩いた頃、ちょうどベテランチェロ奏者が抜けた時期で、ある程度弾ける人が欲しかったタイミングだった。
チェロはブランクがあるものの、ずっとレッスンを続けていたこと、他楽器とはいえ、オケの経験があることで、楽天的な性格も相まって「ま、何とかなるっしょ。」と、気楽に入団を希望してしまった。
一方、チェロパートの皆さんは、「プロオケK先生の弟子」というだけで、歓迎してくださった。
今考えても、浅はかな私である。
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この度退団されたAさんは、私より半年先に入団していた。
仕事の関係で知り合ったコンマスに誘われて入団した、とのことだった。
チェロは、全国に名の知れた某音楽教室の先生で、現在アンサンブル団体を率いているG先生に教わっているそう。
私は直接はG先生を存じ上げない。
Aさんは、アンサンブルの中で弾いてはいるものの、1ポジションと4ポジションが分かるくらいのレベルだった。チェロを弾く方ならわかると思うが、つまり初心者である。
「初心者もあたたかく受け入れる、懐深い楽団なのだなぁ」と、うれしく思っていたが、Aさんからすると、そうではなかったようだ。
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私が学生時代にいた大学のサークルは、ヴァイオリンパートだけで50人はいるほどの、大きな団体だった。
多くは、大学入学と同時にサークルの門を叩く。
吹奏楽出身者が多かった。なので、私のような弦楽器初心者も多かった。
楽器の貸し出しはもちろん、先輩方が初心者にも懇切丁寧に教えてくれる。
月2〜3回の頻度で、外部委託のトレーナーの先生(しかも、全国的に有名なプロオケ奏者!)が1年がかりで初心者指導をしてくださり、至れり尽くせりだった。
しかし、アマオケは違う。
一般的には楽器は個人持ちだし、初心者に楽器の持ち方から教えることはしない。自分が希望する楽器ができることが前提である。
全体練習の進め方は、大学オケと同じ。
初見で1楽章から最終楽章までやる。弾けようが弾けまいが、どんどん進む。
経験のある私は「ここまではできるけど、ここからは難しいな。後で練習しておこうっと。」と気楽に構えているが、オケ初心者の方からすれば、きっとジェットコースターに乗るような気分だろう。
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「お前は、オケ慣れし過ぎて、オケの敷居の高さを知らない」とチェロ師匠に指摘されたように、私はAさんの苦労に最後まで気づくことができなかった。
できない部分があれば弾いているフリをすればいい。そのことを責める人はいない。
でも、Aさんからすれば、弾ける部分が少ないのはつまらないし、辛いだろう。
実際、いただいた退団意向のメールには「最後まで足を引っ張って、すみませんでした。」とあった。
私だってマトモに弾けないところはあるのに、Aさんはより深刻に考えていた。
できないことが悔しければ、できるまで練習するしかない。
わからなければ、同じパートの人に聞けばいい。
私も「ココはどこから入ればいいんですか?」とか「何ポジで弾いたらスムーズですかね?」と尋ねることがある。皆さん、ちゃんと教えてくださる。技術的に難しければ、師匠に頼んで教わることもある。
Aさんは「わからないことが多過ぎて、何から聞けばいいのかわからなかった。」そうだ…そっか。そうだったのか。
ウチの楽団は、初心者がついていくには厳しいのだと、初めて気づいた。
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ほかのアマオケのHPで「団員募集」の掲示を見ることがある。
中には「経験者のみ」や「簡単な入団テストあり」と、条件を載せている団体もある。その団が求めている奏者のレベルを明示するのは親切だと、今では思う。
ウチみたいに簡単に「団員、随時募集中。」だけだと、初心者は入団してから鼻をへし折られることもあるかもしれない。
『間口は広いが、入ってから苦労する』って、辛い…。
「初心者も入団できますが、ある程度できないと苦労しますよ。」と、見学時に説明すればいいのだろうか。ウ〜ン。
入団希望者が過去の演奏曲目を見て「コレなら弾けそうだ」と感じても、今回みたいに尾高マエストロも「いや〜難しい!」って言うブラームスの3番やったりするし…。
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Aさんには「腕をさらに磨いていただき、また入団したい気持ちが出てきましたら、いつでも戻って来てください。お待ちしております。」とお返事した。
アマオケなんだから、再入団だってできるのだ。もちろん、ほかのもっと親切丁寧なアマオケへ入団したっていい。
「ボク、難しいところは弾かないって決めてるから。夜さん、あとはよろしく!」と、私にヒラヒラと手を振る御年74歳のNさんのように、開き直って居座るのもぜんぜんアリだ。
・弾けない人がいても責めない、内輪の懐の深さ
・弾ける部分だけはがんばる潔さ
・なるべく弾けるようにする、個人の努力
…がそろっていれば、Aさんは続けられたのかな、と感じた。
ただ…その楽団のレベルがどこを目指しているかによるのだけれど。