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24.4月弦楽器工房

日々色々あるのですが、書く時間がなかなか取れず、少し前の話になります…。

チェロ師匠から着信があった。

「今、大丈夫?」
「センセ、お久しぶりですね。はい、いいですよ。」

私が仕事中と分かっていて電話をしてくるなんて、珍しい。

「ゴールデンウィーク中、ボクの家に遊びに来たいって言ってたじゃない。◯日はどう?」
「ああ、私もその日はどうかなって思っていました。でも、いいんですか?センセ疲れてるって言っていたし、ゆっくりしたいなら、私は遠慮します。」
「別にいいよ。じゃ、その日に。」

「それよりセンセ、今から本番じゃないんですか?いいんですか、電話なんかしていて。」

私はチラッと時計を見て言った。あと少しでコンサート開演の時刻。電話の向こうからトランペットの音出しが聴こえる。

先生、少し笑ってから声をひそめる。

「まぁね。準備は済んだよ。よかったら励ましてくれる?」
「私は仕事でそちらへ行けませんでしたからね…本番、がんばってください。」
「うん。ありがとう。それじゃぁ、また。」

通話が切れた。

なんだったんだ?
さては、本番を目前にして嫌なことがあったに違いない。
音楽家も大変だな。

           ★

アマオケ定期演奏会の前に楽器の調整をしておきたい。
1か月以上も前にいつもの弦楽器工房を予約していた。

夜遅い時間だったけれども、職人のお兄さんがいつものように出迎えてくれた。

「楽器の不具合は特に感じません。」
ケースから愛器のチェロを取り出しながら私は言った。

私からチェロと弓を受け取ったお兄さん、
「楽器置いていってもらっても大丈夫?それとも持ち帰りたい?」
音階弾きながら、私にそう聞く。

もちろん、持ち帰りたい。
でも、コンディションがイマイチなら、預けてじっくり見てもらいたい。

「じゃあ、ちょっと見てみるから、待っててくれる?」
お兄さん、楽器とともに作業場へ引っ込んだ。



待っている間、奥さんがコーヒーを淹れてくださる。

「先生は元気にしてる?」
私の師匠の様子について聞かれた。どうもしばらくコチラを訪れていないようだ。
「元気ですよ。自宅レッスン再開することを考えているみたいで、休みの日は部屋を片付けているようです。」
「そうなの?自宅レッスンなんて、何年ぶりかしらね。」
10年以上ぶりだと思う。


そうこうしていると、お兄さんが楽器を持ってきた。
「楽器の調子、いいんじゃない?今日持ち帰って大丈夫そうだよ。」
それはよかった。

試し弾きしてみるよう楽器を手渡されたので、椅子に座って弾いてみる。

こういうとき、皆さんなら何を弾きます?
私は割と困ってしまう方です。

私はC-durスケールを弾いて、今習っている無伴奏5番プレリュードの最初の部分を弾いた。
それから、オケで弾いているブラームス3番1楽章の難しいパッセージをかなりゆっくりと。

「ああ、いい感じです。」
私は言った。
「それはよかった。」
とお兄さん。

「次回は多分、発表会前に来ると思います。」
「気になることがあれば、いつでもおいで。」
ありがとうございます。

「先生によろしく伝えてね。」
と、二人に見送られて工房を辞した。

今回、調整代はサービスしてもらった。
かたじけない。





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