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物語のタネ その九『吸血鬼尾神高志の場合#33』

ブラキュラ商事会長室―――

ドラキュラ会長とハールマンの2人。
「会長、100人のゾンビに注入完了です」
ハールマンが報告する。

さあ、いよいよ久しぶりにボーイに会えるわ。
1,500年ぶりの再会。
ボーイが100人のゾンビに自分の肉体を食わせて構築した血のネットワークに侵入よ。
ネットの世界ではハッキングということ?
いや、ウィルスとして侵入?
どちらにしても、アタシとしては初めての試み・・・。
うまく行くといいけど。

ハールマンに目配せをした後、再び目を閉じて全意識を眉間に集中させる。社員達が100人のゾンビに注入したアタシの血の存在を感じる。
ゾンビの体内でアタシの血がゾンビの血にアクセスしていく、1人また1人と。
アタシの目の前、と言っても目は閉じているから前頭葉の前方あたりかしら、そこに徐々に徐々に空間が広がっていく。
やがて360度アタシの体をぐるりと囲むように空間が広がった。
少し靄がかかったようなその空間にアタシは立っている。
ここはボーイが支配する意識空間。
何も聞こえない空間をアタシは歩く。
ボーイはどこにいるのだ・・・。

一方、こちらはボーイ―――
一斉にヴァンパイアたちがやって来て少し驚いたな。
あれは、一体何だったんだ?
アイツらなりの抵抗だったのか?
まあ、いい、ゾンビは不死身だから。
しかし、街はゾンビだらけだ。
圧倒的にヴァンパイアの格好をしている奴よりゾンビの格好をしている奴の方が多い。
ふふふ、果報は寝て待て、とも言うが本当だな。
1,500年間眠っている間にいつの間にか人気が逆転していたとはな。
今、選挙したら圧勝だ。
もう、そんなまどろっこしいことはしないが。
人間達よ大変お待たせして申し訳ございません、だ。
もうすぐお望み通り皆ゾンビにしてやるからな。
とにかく、この後は噛めるだけ噛んでゾンビの血を注入するのだ。

午前0時。
噛まれた人間を一斉にゾンビ化するスイッチオン。
新たな時代の幕開けだ。
あとは、もう止められない、ゾンビとなった人間が次なる人間をゾンビにして、そして、そいつらも次の、、、あっという間に人類は皆ゾンビだ。
ん⁈
何か急にムズムズして来た。
この心がザワザワする感じはなんだ?
何かが近づいて来る感じがする。
誰だ?

こちらはドラキュラ会長―――
感じる、感じるわ、ボーイは確かにここにいる。
2,000年前、志を共にした仲間だったから、時は経っても彼の存在感は覚えているものね。
でも、2,000年前、イエスに仕えていた時に感じた空気とは違っているわ。
何かしら、何か暗さを感じる・・・。
1,500年間の眠りが彼をそうさせてしまったのかもしれない・・・。
あ、どんどん存在感が強まって来たわ、近いのね、きっと。
あ!

「ボーイ」
「ドラキュラ」

気付いたのは同時だった。
「やはり、お前だったか、ドラキュラ」
「久しぶりね、ボーイ。たっぷり眠ったせいかしら、前より血色が良くなったんじゃない?」
「相変わらずチャラけたこと言ってるな」
「アンタが堅物過ぎるのよ」
「まあ、そんなことはどうでもいい。とにかく1,500年間ご苦労様、この後は俺たちゾンビの世界とさせて貰うぜ」
「そんなことはさせないわよ、人類はアタシたちが絶対に守る」
「人類を守る?もう手遅れだよ。街を見たら分かるように、人類もゾンビを受け入れてくれるようになったようだしな」
「それとこれとは別よ。本当のゾンビになったら、人類は皆アンタの支配下に置かれてしまうわ」
「それのどこが悪い?うちのゾンビ達を見ろ、皆安心して幸せそうだぞ。自分で考えなくていい、決めなくて良いというのは楽でいいぞ」
「いいえ、それは絶対に違うわ。人には悩む権利がある。それは、その人の人生がその人のものであることの証。それを奪おうとするアンタをアタシは絶対に許さない」
「ほう、じゃあどうするんだ?」

「アンタを消す」



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