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物語のタネ その九『吸血鬼尾神高志の場合#35』

「人類はな、もう疲れたんだよ。自分たちで決めて生きていくのに。ドラキュラ、お前にはそれが分からんか?」

「・・・」

「解放だよ、これは。2000年前、イエスが十字架に掛けられることで全ての人々の罪を背負い解放したように」

黙り込むドラキュラ。
沈黙の時間が流れる。

やがて、絞り出すような声で
「・・・それは違う」

「何?」
「アンタが眠っている1,500年間、アタシは人類と一緒に生きて来た。確かにどうしようもない愚かな行為が幾つも幾つも繰り返されて来たわ。その度に、イエスも新たな罪は背負えないわよ、と思ったわ。でもある時に気付いたのよ」
「気付いた?」
「そう。イエスは罪を背負って人類を罪から解放したんじゃないのよ」
「?」

「生き方を示したのよ」

「生き方だと?」
「罪を背負って生きていい、というね。そして、どんなことがあっても復活出来るという生きることの強さと希望を示したのよ」
「・・・」
「その苦しさを奪うというのは、生きることの意味を奪うこと。だから、それをしようとするアンタをアタシは許さない」

「・・・どうやら、どうしても意見は合わないようだな」

「そうね・・・」

ボーイのこめかみがピクリと動いた。
その瞬間、ボーイの首が伸びてものすごい勢いで顔がドラキュラに向かって来た。
裂けんばかりに大きく口を開けて!
すんでのところで避けるドラキュラ。

ガッシーン!

歯と歯がぶつかる音が響いた。
「相変わらず攻撃に品が無いわね」
「ふん。この戦いが終わったらお前もこうなるさ」
「それだけはごめんだわ」

次はボーイの手が伸びて来る!
それを避けるドラキュラ。
しかし、伸びて来た手がぐるりと回ってドラキュラを追いかける。
なんとかかわすドラキュラ。
「いつまでかわせるかな。ここは俺の世界だからな」
ボーイが不敵な笑いを浮かべる。

その頃―――

「ハールマン!全ゾンビ確認完了だ!」

尾神さんが、ケータイに向かって怒鳴っている。
ここは渋谷。
僕たちブラキュラ社の社員ヴァンパイアはゾンビセンサー機能のみが付いたアップルウォッチにより、全ゾンビの存在を把握。
それぞれのゾンビに1人ずつヴァンパイアが張り付いて、マンツーマンディフェンス状態を完成させた。

「尾上、了解。ドラキュラ会長に報告する!」

ケータイの向こうでハールマンさんの声がする。
この後は一体どうなるんだ・・・。

再び、ボーイの精神世界―――

縦横無尽な動きでドラキュラを追い回すボーイの両手。
それをなんとかかわして来たドラキュラだが、ついにボーイの右手がドラキュラの左足首を掴んだ!
ドラキュラの動きが止まる。
その手をグッと引き寄せるボーイ。

ガシッ!

ドラキュラをガッチリと抱きしめるボーイ。

「これでお前も終わりだドラキュラ」
「これで、アタシもゾンビの仲間入りってわけ?」
「いや、お前にそんなチャンスは無い」
ボーイの口が大きく開く。
ドラキュラの体にかぶりつく。
食いちぎられるドラキュラの体。
再び口が開いてかぶりつく。
そしてもう一度、また一度と・・・。

やがて、ドラキュラの体は跡形もなく食い尽くされてしまった―――




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