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物語のタネ その六 『BEST天国 #41』

様々な地獄があるように、実は天国にも様々な種類がある。
現世での行いや悪行により問答無用に地獄行きかが決められてしまうのに対して、天国は自分で選べるのだ。
ここにまた、ある1人の男が死んでやって来た。
名前は、宅見卓朗。享年37歳。
前回は「中カルビ天国」を訪れた宅見氏。
さて、今回はどんな天国に?

あらすじ

中カルビ天国の内見に行った翌日。
朝のミヒャエルのオフィスに宅見氏がやって来る。

「おはようございます、ミヒャエルさん。いやー、昨日は食べましたね」
「食べましたね。まだ、腹パンな感じですよ。だって宅見さん、あと、一枚って言っておいて結局何枚お食べになりました?中カルビ」
「すみません、覚えていないです。だって食べる度に違いますからね。中カルビって一体どの具合のことなんだ?と。あれは、底なし沼ですね」
「本当にそうですね。いくら食べても答えが見つからないですね、きっと」「しかし、食べ過ぎました。ちょっとカロリー消費の為に外、歩いて来ます」
「宅見さん、ウォーキング、お好きなんですか?」
「ええ、そこそこ。食べ過ぎた時はひとつ前の駅で降りて歩いたりしてました」
「お!となると、あそこいいかも・・・」
「どこですか?」
「いいからいいから。まずは、行きましょ行きましょ!」

いつもの如く真っ白な空間―――

「話の流れ的に歩いて移動かと思ったら、いつものように瞬間移動なんですね」
「まま、その辺りは気にせず、効率良くで」

しばらくするとザッザッザッという足音が。

「お待たせしました。お二人さん、今日もビリーは絶景100%よ!」
「ビリーさん、今日もノリノリですね!」
「ミヒャエルちゃん、今日もワタシの周りを絶景がラウンドアンドアラウンドよ。で、今日はどうしたの?内見?」
「はい、こちら、私が今担当させて頂いている宅見さんです。宅見さん、こちら、ビリー・ザ・オネスキーさん」
「ビリーさん、はじめまして宅見です。随分絶景と仰っていましたが、ここはどんな天国なんでしょうか?」
「ここはね、“尾根ぶら“天国よ」
「尾根ぶら?」
「宅見さん、尾根、わかる?」
「あの、山の?」
「そう。自分の足元からずうーっと向こうの山まで続いている道の先に、大きな空と白い雲が両手を広げて待っていてくれるのよ。緑と白と青に包まれて、地上と空の間を歩いていく・・・。尾根、いいでしょ?」
「いいですね。山登り、気持ち良さそうです!」
「あ、違うの」
「違う?」
「登らないから」
「登らない?」
「尾根好きにとって一番の問題は、山は登らないといけない。そして登ったら降りなきゃいけない、ってことよ」

斜め下に視線を落としながらボソリと呟くビリー氏。

「いや、でも、苦労して登った先に景色が開けるのがいいんじゃないんですか?」

ビリー氏、視線を宅見氏に。
目をカッと開く。

「山登り楽しみ派は、そうなんだけど、ここは尾根に集中なの!登りと下りに使う時間と体力があったら、その分尾根を楽しみたい!のよ」
「なるほど・・」
「世界中の尾根という尾根を自由にぶらぶらと、ね」
「あ!だから“尾根ぶら“天国」
「その通り!」
「世界中の尾根をぶらぶらと・・・うわ、なんかすごく気持ち良さそう。開放感と自由度が半端なさそうですね」
「宅見さん、生きている時、人生頑張ったその先に幸せがある、みたいなこと良く言われたでしょ?」
「言われました」
「その一方で、人生は選択と集中だ、みたいなことも」
「はい」
「ここは、天国。頑張らなくていきなり幸せでいいの。自分の幸せを選択して集中よ!宅見さん、あなたもここで尾根ぶらライフをどう?」

うーむ、と考え込む宅見氏。
しばらくして目を開けて、
「天国って、そこまで選択と集中していいんですね」
「そうよ、わがままでいいのよ」
「尾根ぶら、とっても魅力的なんですけど・・・天国選び、もっとぶらぶらしたいなって思ってしまいました」

それを聞き、瞬時にニコリとするビリー氏。

「いいじゃない!そうよ、自分の心にオネスティよ」
「はい!」

清々しい顔になった宅見氏の背中をポンポンと叩くミヒャエル。

「帰り、歩きます?」
「いや、瞬間移動で」

さて、次はどんな天国に?





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