人の形⑤
久しぶりに実家に帰って、彼女にもらった手土産をまるで自分が買ってきたかのように渡す。適当に嘘つきながら母と話していると、すぐに見破られていることに気づいた。
それでも母は追求することもなく、黙って僕の話を聞いていた。なにに驚いたかというと、手土産の色鮮やかな綺麗な餃子に、母も彼女と同じようにポン酢を乱暴にドボドボとかけた。
「餃子ってさ、ポン酢ってさ、そうじゃないよね?」
「食べたら一緒よ。あ、何これ美味しい…」
くだらない話で盛り上がって数時間後、再び実家を出る時に母が最後に言った。
「好きな人以外を妊娠させたらダメよ」
母はまるで全てを見破っているようだった。
帰るのが約束した時間よりも少し遅くなった。マンションに着くまでに不安そうな顔をしている彼女を見つけて、僕も申し訳なさそうな顔真似をして近づく。
「ふざけんな!嘘つき!」
僕に気づいた彼女はまるで不安そうな顔が嘘だったように一瞬にして変わり、大声で怒り出した。鞄で顔を二度叩かれ、紐が撓ってパチンと良い音がした。
痛いことが嫌いで、たぶん僕もムッとした顔になった。申し訳なさそうな顔真似もすぐに消えた。
「ごめんなさい…」
その顔のままで謝られて彼女は少し恐がったのか、最後に僕の胸板を軽く叩くと歩き出した。ちゃんと手を引いて行く彼女がなんだか可愛いと思った。
その夜、風呂から出ると家着がなかった。僕は裸のまま彼女の前に座らされる。
「色白。女みたい」
「でもほら、この筋肉」
僕は利き腕を曲げて筋肉自慢をする。肩と腕の筋肉にはそこそこの自信があった。ふざける僕が気に入らない彼女は、僕の乳首を思い切りつねった。
声にならない痛みだった。
「何よその生意気な顔。怒られてる時の犬みたいな顔をしなさい」
彼女はそう言うと再び乳首を強くつねった。激痛を怒りで感じてしまい、僕は思わず怒りそうになる。
「…痛いからやめてください」
「私、Sなの。いじめるの好きなの。噛んであげようか?」
そう言うと彼女の顔が近づいてきて、僕は思わず大きな声を出して痛がった。というかめちゃくちゃ痛かった。
「可愛い。あんたはずーっとそうしてればいいの」
彼女は僕の頭をペチペチと叩きながらそう言った。僕はそんな彼女の顔に胸板を突きつける。
「おい、優しく舐めろ」
「はぁ?」
「優しく舐めろって言ってんの」
少し大きな声を出した。僕は怒った顔をした彼女の髪をつかんだ。
「舐めろ。優しく」
彼女はすぐに涙目になった。そしてぺろぺろと乳首を舐め出した。
「そうだ。上手にできるじゃないか。俺に気に入られたい時はこれからはそうしろよ」
そう言うと僕は彼女の目の前に立った。
「舐めろ」
彼女は返事もせずに黙ったまま、ゆっくりとそれを咥えたので、僕は再び彼女を叱る。
「誰が咥えろって言った?すぐに欲しがるなよ。舐めろって言ってんの。手は使うなよ。お前は犬なんだから」
彼女がゆっくりと舐める。唇がわざとらしい音を立てる。僕の脳みそはきっとそこに剥き出しになっていて、硬く強く、僕ら二人を支配する。
「おい、いつまで舐めてんだよ。1つ1つ言わなきゃなんにもできないの?」
僕は両手でゆっくりと彼女の頭を持つ。
「歯当てんなよ。当てたら奥まで突くからな」
彼女を犯そうとしたんじゃない。彼女の中のSとM。その概念を犯したくなった。潰したくなった。
男女は、恋愛は、たぶんこんなもんじゃない。
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