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霜月 第一話

はじめに数ある作品の中から【霜月】を選んで頂きありがとうございます。

皆様の心に少しでも残る作品を制作することを目標に日々執筆しております。

尚本作品は刺激的な表現やセンシティブな部分を含んでおります。

苦手な方、ご理解の無い方にはオススメできません。

それでも、少しでも良かったよ、と思っていただけたら【❤】を!!

面白かった!!(ネガティブも可)
と思っていただけたら【コメント】を!!

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それでは本編をお楽しみください。




【霜月】

11月だと言うのにやたらに暑い。

カフェでホットコーヒーを頼むにはまだ暑すぎる。

なのに眼の前の女性は黒いロングスカートにフリル生地のコートを羽織っている。

メイクをバッチリ決めて、どこか大人びているが瞳だけは少女のように輝いていた。僕はその瞳に吸い込まれそうになる。

そして彼女との出会いをそっと思い出すのだった。


東京のターミナル駅はいつも慌ただしい。

どんな時でも人が溢れて、騒がしかった。

夜勤明けの僕は人の波に逆らうように眠い目を擦りながら帰路についていた。

11月だというのにやたらに暑い。

階段の上り下りの線を無視してくる人間が嫌いだ。

ホームの狭くなっている所につったている奴は許せない。きっと目と頭が悪いのだろうと、自分に言い聞かせ、今日も憂鬱な気分に浸っていた。


なにか大きな音がした気がして、階段を見上げると、黒ずくめの何かが派手に荷物をぶち撒けながら落ちてきた。

僕は何もできず黒尽くめを身体で受け止めて一瞬意識を失った。



どの位気を失っていたのだろうか?

恐らく数秒だろう。。。


しかし、やたらうるさい。

まさか、僕の人生は終わってしまうのか??

いや、痛みは??

ある。

腰と頭に酷い鈍痛を感じたあと、足首が猛烈に痛い事に気がついた。

深呼吸をして目を開くと、黒尽くめの女が僕に馬乗りになり必死に何か叫んでいた。

まずは、そこからどいて欲しかったが、僕は周りの状況を把握するように首を動かした。

『よし、首は動く。痛みはあまりない。』

僕の周りには、綺麗に束ねられたロープが散らばっていた。

その縄は、赤や紫中にはピンク色をしていて、どれも同じような大きさに束ねられていた。

それから僕は自分の置かれている情況の情報量が余りに多すぎて、気を失っていたほうが良かったのではないかと本気で思ったのだ。

ゆっくり、首を元に戻すとさっき落ちてきたのはこの女だと理解した。

まだ、暑い日が続いているのに、真っ黒な服を全身に身に着けているこの女は僕の方を向き必死に「大丈夫ですか!?息してますか???警察呼びますか!!!???」等と叫んでいた。

僕は『何故警察!?救急車だろ』と、冷静に思ったが、まずは「そこどいてもらっていいですか?」と、声をかけた。

女の顔はみるみるうちに赤くなり、慌てて立ち上がったが、見事にまた転んだのであった。


僕はなるべく関わらないようにしようと、ゆっくり立ち上がり、体全体の感触を確かめた。

血は、出ていない。

足首も折れてはいないようだ。

思った以上に肩が痛かった。

周りにいた人は僕が立ち上がると、無表情に散っていった。

『東京砂漠』というフレーズが頭を過ぎると少し可笑しくなったが、今の僕の情況は全然おもしろくない。

いや、人生でロープまみれにされる経験なんて事を思えば、よっぽど面白いのか??


ふと足元を見ると、真っ赤な顔をした真っ黒な女が必死にロープを拾い上げていた。


いったい何者なんだ!?



何故この女はこんなにも沢山のロープを持ち歩いているのだ!?


そんな事を冷静に考えていたら駅員が走ってやってきた。

駅員は僕の所にくると「大丈夫ですか?歩けますか?痛ければ車椅子用意します」等と矢継ぎ早に質問してきた。

僕は大丈夫と、言ったが、頭を打ってるかもしれないので救急車を手配すると言われ、早く眠りたい。と、心底思ったのだ。


そこからは、駅員の言う通りに事務所に連れて行かれると、何やら色々聞かれた。

時期に、黒い女が現れ、擦りむいた所の応急処置を受けていた。


僕は救急隊に引き渡され、首を固定され、ストレッチャーに乗せられた。

救急車に乗ると、何故か黒い女が一緒に乗り込んできた。

僕は考えるのを諦めて、夜勤開けである事を救急隊に告げ少しの眠りについた。

そこから先はモルモットのように扱われたが、検査は全て正常だった。

ようやく家に帰れると思いながら会計をすると驚くような金額であった。

今月どのように生活しようかという事が脳裏に過る。

財布の中身を確認て『分割にしてもらえませんか?』と言いかけたその時、


黒ずくめの男が現れ、何食わぬ顔をして会計を済ませてしまった。


今日は黒ずくめにとことん縁があるらしい。


僕が呆気にとられていると黒ずくめの男は僕を品定めするように見回したあと

「ご自宅近くまで車でお送りします、瞳がご迷惑をおかけしたせめてものお詫びです。」

と告げ、僕の腰に手を回し歩みを進めた。

少し痛む僕の足に気を使ってくれているのがわかる。
痛む肩の反対側をに立つ気遣いがありがたかったが、全く状況は理解できなかった。

ゆっくり病院を出ると外はすっかり暗くなっていた。 

『そう言えば瞳とはだれだろうか?あの黒ずくめ女の親か!?』
等と考えているうちに、駐車場のハイエースの前で立ち止まった。

僕は一瞬呆気に取られた。

この紳士に似合う車はきっと高級外車なのだと勝手に思っていた。

しかいしの前にあるのは、作業用のいたってノーマルで少し型の古いハイエースだ。


僕は『拉致られる』と焦った。

きっとこの車で山奥まで連れて行かれて、捨てられてしまうんだと悟った。

『やばいやばいやばいやばい 早く逃げなくては。。。。でもどうする??この足で走れるのか??そもそも万全な状態でもこの黒ずくめには勝てないだろう。車の中から仲間が出てきたら。。。。。』と全て悪い方向に考えてしまう。


黒ずくめの男は「失礼しました、足痛みますよね?」と低く澄んだ声で僕に向かい笑顔を見せると、靭やかかな手付きで後部座席を開き僕が乗り込みやすいようにエスコートしてくれた。


どうやら仲間はいないらしい。


僕は男性に恋をしたことはなかったが、まさかこの黒ずくめはそっちの人なのか!?

恋愛は自由だが僕ははっきり言って女にしか興味がない!!

その女にだってモテたことはなく、いつも頼み込むように付き合い、別れないでくれと言って頼み込み、それでも僕は一人になってを繰り返している人生だ。

しかもそのやり取りも片手で数え切れる程度だ。


僕はとっさにスマホを握りしめ、何時でも110番を押せるシュミレーションをした。


黒ずくめの男は運転席に乗り込むと、静かにエンジンを掛け、ミラーを僕の目線に合わせると、ゆっくりと車を発信させた。

静かに滑らかに動き出すハイエースは黒ずくめの男の手足のように靭やかに滑るように夜の街に溶け込んでいった。


頃くの沈黙の後、ハイエースはコンビニの駐車場でエンジンを切った。

「コーヒー買って来ますけど、何か飲みますか?」と黒ずくめの男が声を掛けてきたので、僕はとっさに「コーラを」と言ってしまった。

まるで催眠術にでもかかったかのような会話に僕は驚いていた。


いったいこの男は誰なのだろうか?
やはり瞳とはあの黒ずくめのの女なのか?

すると、やはり親か??
親ならば、あの女はどこに行ったのだろうか?先に帰ったのか?
まだ病院にいるのだろうか? 
まさか僕よりも大きな怪我をしていたのか?
どうにも全くわならない。

あの黒ずくめのが帰ってきたら聞き出してやろう! 

そんな思いを巡らせていると運転席の扉が開き『逃げ出す千載一遇の機会だった!!』という事に気が付き喉が急に乾くのを感じた。

黒ずくめの男は「空蝉(ウツセミ)です。」とコーラを手渡しながら柔らかなトーンで語りかけてきた。

『ウツセミ?絶対偽名じゃないか!!そんな名字聞いたことないし、どんな漢字書だ!!怪しい!!』と、またネガティブに思考を巡らせていた所、空蝉と名乗る黒ずくめの男は変わらぬトーンで話し始めた。


「本日は瞳の事で大変ご迷惑お掛けしました。失礼ですがお名前を伺ってもよろしいですか?」

僕は恐らく仮名の男に恐る恐る「高橋です。高橋哲です」と呟くように伝えた。

『この男のオーラというか声や振る舞いにはきっと何か魔術めいたものがかかっているのだろう。僕は恐怖とも違うなにかに操られているのだ。』さっきの思考の一切が飛んでいた。
空蝉は「それではご自宅の住所か、近くの目印教えていただけないでしょうか?そろそろ車を出しますので。」と、変わらぬ物腰で聞いてきた。

僕は「東中野駅」でお願いしますと呟くと、カーナビの操作パネルが光り、地図上に旗が刺さるのを遠くから見つめていた。

空蝉は「30分もあれば着きますね」と囁くと、静かに車を滑らせ始めた。


車の中は静寂に包まれ、時折無機質なカーナビの音声だけが広い車内に響いた。

空蝉は静かを好む性格なのだろう。


僕は少し好感が持てる気がした。


僕は恐る恐る質問を空蝉に投げかけた。

「空蝉さんはその筋の方なんですか??」

空蝉はバックミラー越しに無表情で僕のことを品定めするように見つめ、視線を戻した後に

「やっぱりそんな風に見えちゃいますよね??

いえいえ、カタギですよ。

それはもう立派なカタギです。

仕事柄こんな格好してますが、

中身はちゃんとしたオッサンです。」

と笑って答えた。


僕は呆気に取られ、次の言葉を失った。


見た目はともあれ、その語り口はどこにでもいる普通のオジサンだったのだ。

空蝉は気の良い口調のまま続けた。


「哲さんと、いうか殆どの方達は
私達の世界を理解して
いただけないかも知れませんが、
私は新宿でSMバーを営んでおります。 決して如何わしい店では無くて、
その界隈の人達が持つ
心のはけ口になったり、
情報を共有するお店です。」

僕は『SMと聞くと、天井から吊るされたり、鞭で打たれたり、蝋燭を垂らされたりといった、怖い世界で、一生縁のない世界』だと思っていた。

しかし、今密室で、交わることの無い世界の人となんの因果か会話を交わしている。

あの黒ずくめの瞳という女は一体何者なのか、僕は聞けずに空蝉との世間話を続けた。

気がつけば東中野の駅前だ。

僕の家は駅から徒歩10分程度のワンルームアパートだった。

空蝉は足の怪我を引き合いに出し、家の前まで送ると言ってくれたので、僕はその言葉に甘えることにした。

家の直ぐ側まで、ハイエースは静かに到着すると空蝉はスマホを取り出し

「怪我が痛んだり、
気持ちが悪くなったら直ぐに
連絡するようにと言って、
LINEのQRコードを出してきた」

僕は謎多い空蝉と名乗る男を信用しはじめていた。


空蝉のLINEにスタンプを送り、僕はなんの気無しに口走ってしまった。

それが僕の人生の転機だったように思う。

「あの、瞳さんですかね?お怪我大丈夫でしたか?もうお帰りになったんでしょうか?」

気にはなっていた、しかし、世間話程度に安否確認のつもりで聞いてしまった。


空蝉はルームミラー越しに深い不気味な笑みを見せると運転席から靭やかに降り、僕の乗っているドアを開くと

「どうぞ」と言って、車から降りる僕をエスコートしてくれた。

さっきまでの気さくなオジサンの雰囲気は消え、闇の紳士とも言うべきか、何か不気味な存在に豹変していた。


僕は促されるまま車を降りると、車の後部に回り、おもむろにリアハッチを開いた。


僕は衝撃をうけて声も出せなかった。


そこには朝降ってきた瞳と言われた女が、下着姿のままロープで縛られて転がっていた。

空蝉は
「きちんとお仕置きして
おきましたのでご安心ください。 
なんなら置いていっても良いですが。」
と言って、瞳を冷たい目線で見つめた。


瞳は首を振りながらも煌々とした瞳で空蝉を見上げていた。

口はタオルで塞がれていたため声が出せないのだろう。


僕は引きつった笑顔で「け、けっこうで、です」と口ごもりその後、

早口で礼をし足早に自宅へ向かった。


あまりの衝撃的な光景に僕の心臓は煩いほど脈を打っていた。


家の扉を閉めるとハイエースの走り去る音が聞こえ、僕の心臓の音だけが頭の中に響いていた。

その夜は身体の痛みと心臓の鼓動で中々寝付けなかった。

霜月 第一話【了】

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