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15th=17th memorial day 【オンナという名の女の子 その2】

時の経つのは速い。
大学に復学した年、2002年からお世話になっている人、それが妻である。


あれから17年。結婚してから15年。
とうとう僕の頭はこんな風に伸びるくらい軟らかになった。
新生児もきっと目を丸くする軟体。

さて、本日は、日本橋の母‘久幸'さん(96歳)を清荒神にお連れすると約束したのだが、昨日になって、『かくかくしかじかの理由で、清荒神はいけないがお昼ごはんくらいはいける』と彼女の利用するデイサービスの管理者から伝令が届いたので、昼に顔を見にいこうと思った。

朝から妻と家を出て最寄りの駅でモーニング、ぺちゃくちゃしゃべり、阪急電車に乗り、御堂筋線に乗り換え、なんばから歩いて日本橋。黒門は、くっそみたいな人混みだ。
その間も、延々とぺちゃくちゃしゃべる。

行ってみると、『かくかくしかじか』とは、『足の動きが悪い。車椅子?そんなかっこ悪いことしてられるか』と丁寧に曰う。

じゃあ、近くでご飯食べるか、 
彼女の大好きな高島屋で何か見繕って買ってこようか?というと、『おとうちゃん、買ってきてー』とのこと。しゃーない。 
96歳の娘に言われると、我々夫婦も親の気持ちになり、『入れ歯だけは用意しときなさい』と一言伝え、再度、黒門を経て、なんばまで、ぺちゃくちゃと喋り、人混みに毒づきつつも、歩く。

高島屋の食料品売り場は、死ぬほどのダンジョンであり、そこの住人の大概はそこそこヤングなじじいとばばあで、平気で人にぶつかってくる。
このままではこっちが危ない。取り急ぎ、大好物の肉っけのものと、海老っけのものと赤飯、
我々も食べるものを購入。

インバウンドの人混みも、日本人の人混みも、
いずれも、単なる人混みだ。
お約束のように、世の人混みを嘲笑い、毒づき、よしなしごとをぺちゃくちゃと話して歩く、なんなんタウン。ほんま、なんなん、この人混み。

日頃あまり夫婦で過ごすことはないので、
朝からめっちゃよく歩き、
ぺちゃくちゃと話していたこと自体が珍しい。
この人混みの煩さに確実に我々は寄与しているよな、そんなミナミを歩き、再び96歳の娘の家。
入れ歯は用意され、パジャマも着替えられ、なんなら、ヘルパーさんの掃除の日であったので、部屋も綺麗に片付いていて、こちらも名刺渡しながら、『なにかあればこちらまで』と挨拶。

何はともあれ、こたつの天板の上に戦利品を広げる、始まる宴である。響きわたる鬨の声(うん、それは嘘)

聞けば、彼女の長屋の隣に、先日まで年寄り(96歳より若い)が住んでいたのが亡くなったと。そのあと、工事中であるがそこは『連れ込みになりますねんでぇー。工事してても挨拶もきましませんね』と顔をしかめる。

おいおい、それは嘘だ。
『連れ込み(ラブホテル)ちゃうわ、外国の人らが泊まるホテルになるんでしょーが。なんやかんやいうてな、おかーさん、隣が明るくなると、この暗い路地もみんなそれなりに助かるねやで。
なんやかんや、うちとこあの灯りの横だんねん、とかいうようになるくせに』というと

『ほんまだんなぁ。』と目を大きくして、戯けてみせ、その後、大きく笑った。

さてさて、『ママー、うちもう着やしまへん。これ、形見にもらっておくんなはれ』とコートをくれたり『この間な、黒田節を1人踊ってみたら、お扇もって、踊れますねん。あと4年は生きま』といってみたりしつつ、帰る際には、
『おとうちゃん、会えてよかったー顔出してくれてありがとうー』と僕の背中を何度もさする。

彼女は、プロの芸者だったし、
イロで売るのは1番イヤだったからこそ、
仲良くしているとはいえ、
50も離れる僕や僕の妻にも基本的にそのスタンスは崩さなかった。

具体的には、僕に会いたいとはいわず、
『ママに会わせておくんなはれ』と妻に会いたいといい、

僕の身体に触ることなく
『ママ大好きやねんー』と妻とかたくかたく握手をしてきたのであった。
前回、前々回くらいまでは。
歳の取り方も、力の抜き方もそれぞれのタイミングがあるのである。

僕は今回
『あれ?この人て、もしかして、メインは俺に会いたかったん、、?』と気づいた。

帰り道、妻とその話をすると
『えーー。そうやでー今まで、私をすごい立ててくれててんで。だから、‘わたしに'
会いたい会いたいていうてくれててん。

あの人の仕事の仕方は、
お客さんの奥さんを立てるやり方だったからやろね。』

ぬぅ。知らぬは男だけにけり。
女同士はそんなことも配慮しあってたのか。
逆にいうと、すごい眼力。
久幸さんは、一回偶然、出くわした妻をみて、それ以降、何回も『ママに会いたい、会わせて』と直談判にきたのだから。

さて、僕らは
娘のところを離れた後、また死ぬほどの、クソ人混みに毒づき、疲れ果て、妻がライブにいく時間まで、ネットカフェに逃れ、休憩した。

そして、時間になったので、ライブハウスまで送った。 

歪んだ鏡の向こう側、頭の形は伸びたり、歪んだりするように、人のあり方、街のあり方も、伸びたり、歪んだりする。
それでも、やはり、オトコはなかなか賢くなれず、女同士は何かを裏で渡し合うのだ。

時の経つのは速い。
大学に復学した年、2002年からお世話になっている人、それが妻である。

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