6歳年下のあのこと再会

私、こう見えても昔は、今でいうところのオタサーの姫だったんです。

しかも大学は留年してしまったので、サークルには合計5年も居たことになります。

今日は、私の卒業十周年記念忘年会があるんだ。つまり私のための忘年会。

ね、それだけでも私って人気者だったってこと、分かるでしょう?みんなみんな、私のことが大好きだった。

そのはずなの。

とにかく、私の忘年会は大学の近くの居酒屋で行われることになりました。みんなでいつも行ってたあの居酒屋さん。

待ち合わせは大学の近くの駅。

私がいつも通り20分遅れで到着すると、みんなの懐かしい顔と、知らない後輩たちの顔がもう揃ってました。もちろん、6つ年下のあのこも既に居て。10年経ってもすぐにあのこだと分かりました。

あのこは海外からわざわざ来てくれたんだって。今日のこの、私の忘年会のためだけに。


居酒屋につくと、10年前にタイムスリップしたみたいでびっくりしました。同じ親父さんと女将さん。他のお客さんの層もほとんど変わっていません。

居酒屋の狭い席の一番奥に私が座ると、その斜め横にあのこが座りました。他のメンバーたちも各自、特に仲良かった人同士で近況報告に花を咲かせております。

まずはビールで乾杯!といきたいとこですが、ほとんどの人がアルコールゼロのビールで乾杯していました。私たち、実はお酒あんまり得意じゃなくって、そういうところも含めて仲良くなれたんでした。

ずっと変わってなかったんだなあ、私のサークル。私が卒業してからも、新しいオタサーの姫は出てこなかったみたいで、私は全然知らない後輩複数人からも神格化されちゃってました。

そんなくすぐったいことに想いを馳せつつ。

ついに。

あのこに「覚えてる?」って聞いたの。

あのこは「あー、昔、先輩に1500円借りましたよね、ここで新年会したとき」って。

あのこは財布から2000円を取り出したので、それは丁重にお断りしました。ていうか、そんなこととっくに忘れてたっつーのっ!


忘年会もちょっとずつおしまいに近付いてきたころ、あのこに「ねえちょっと二人で大学散歩しよーよ」って言ってみました。

私の忘年会、とかずっと言ってきちゃったけど、私のことなんて本当はみんなどうでもいいって、知ってたんだ。みんな、久し振りに集まりたかっただけだって。

この辺りで私が抜けておいたほうが、男同士のおしゃべりにもいいんだと思うし。実は、男同士のおしゃべりとか、そういうのよくわかんないけどさ。

でもとにかく、あのこだけは絶対許さないの。一緒に大学をお散歩!

あのこは二つ返事をしてきたので、みんなに「んじゃねー」なんて言っていそいそと二人で抜け出しちゃいました。その間なんと5秒!私は有無は言わさない性格なの!


店を出てからは、速くて遅い足取りで大学方面へと向かいました。あのこの手を引いて。


もちろん正門からは入りません。夜でも入れちゃう裏門から大学に侵入。慣れたものね。

目指すは文学A棟の裏側。温水プールの排気口が、塩素の匂いとノイズと安心感を撒き散らす、あの場所。

文学A棟に近付くにつれ、あのこの足取りが本当に遅くなってきました。心持ち眉間に皺も寄っているような。それでも私はあのこの手を引き続けました。

あの日のところまで、体の向きがあの日と同じようになるように。あのこの手を引いて、調整すると。

あのこは唐突に、それでいて自然な流れで「ええと、記憶が曖昧で、本当にそうだったか自信がないんですけど」と、スイッチが下りたかのように話し始めてくれました。ほら、全部私の思った通りに進んでいるじゃない。


私は、今日ここに二人が来なければ、永遠に忘れ去られていたかもしれない儚い過去に全てを賭けて、

「人の想いや誰かの想いに自信がないの?」

と返しました。


そうすると、あのこは「はい」。とだけ。

私はわざと、ちょっと冷たく言い放ちました。

「あの時は、自信がないって言って君から断ったよね。まさか忘れてないよね」

って。

あのこは「はい、確かに忘れることは、ないと思っています」と答えたのでした。



私の、大切な、大切な、忘れることのない記憶。大学最後の冬。あのこに告白したこと。あのこはちゃんと思い出してくれました。

「もっと自信をもっ...
「先輩、俺やっぱり...

声が被りました。でもこれだけ話せれば私はもう、十分なの。

それからこの後、あのこにもちゃんと伝えておきました。私が来週結婚する、って嘘。

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