詩『LYCORIS』

作：悠冴紀

私はずっと見つめていた
土の下に眠る様
僅かに芽を出し
地上の光に触れる様

私はいつでも見つめている
繊細な花びらが放射状に広がる様
その一枚一枚が萎しおれていく様

記憶に焼きつけ
フィルムに焼きつけ
枯れ姿までも眺めている

その根に命の宿る限り
あらゆる瞬間に美を覚えて

力強く芽吹いて
しなやかに伸び
儚くも鮮やかに開花する
優麗なるリコリスの花

海の女神の名を受けて
大地の精霊を集める花

“天上に咲く紅い花”から分化して
取り取りの輝きを得た地上のシャンデリア

花は葉を知ることなく
葉は花を知ることなく
実をも結ばないヒガンバナ属

私はずっと見つめていく
神秘的に生き
神秘的に散り
そして神秘的に再生する
その妖艶ようえんな姿を

※2005年（27歳当時）の作品。

注）シェア・拡散は歓迎します。ただし、この作品を一部でも引用・転載する場合は、「詩『LYCORIS』（悠冴紀作）より」と明記するか、リンクを貼るなどして、作者が私であることがわかるようにしてください。自分の作品であるかのように公開するのは、著作権の侵害に当たります。

－－－－－－－－－－－－

Lycoris（リコリス）というのは、その形状からわかるように、彼岸花の兄弟分に当たる花々の総称（学名）です。作中でも少し触れていますが、その名は何故だかギリシャ神話の海の女神から取ってきた名前です。

彼岸花というと色は赤、というのが一般的なイメージですが、その仲間リコリス属には様々な色の花があります。うち数種類の球根を、九州の農園から取り寄せて育ててみたところ、初年からうちのバルコニーで見事に開花してくれました。 園芸には不慣れで自信がなかったため、無事咲いてくれたこと自体に感謝感激して、開花記念に思わず一作詩を作ってしまいました（笑）

作中の「天上に咲く紅い花」というのは、まさに彼岸花のことです。彼岸花の数ある別名の一つ「曼珠沙華」は、「赤い」という意味の梵語を音写して漢字を当てたものなのですが、仏教の世界では、その「曼珠沙華」を伝説上の天界の白い花を指す言葉として使用しています。それが中国にわたり、語源の「赤い」の意味から彼岸花の別名として使用されるようになったのだとか。（←ちなみに、皆さんの知っている紅い彼岸花の正式な学名はリコリス・ラジアータ。「ラジアータ」はラテン語で「放射状の」という意味です）

「花は葉を知ることなく、葉は花を知ることなく」というフレーズは、リコリス属の花に特有の生態を表しています。葉っぱもあるにはあるのですが、花が咲いている間には出てこないため、花と葉を同時に見ることは基本的にありません。大抵は花が枯れたあとに、ニラによく似た葉っぱだけが雑草のようにワサワサと生えてきて、他のライバル的な草花たちが休眠している冬の間に精一杯光合成をすることで、球根部分に栄養を蓄え、次の開花に備える、というパターンです。（← 何気に要領がいい。そしてやっぱり、野生味に溢れていて逞しい A^_^;)）

その繁殖方法も独特で、原産国である中国に咲く「リコリス・プミラ」という種類の紅いリコリス（中国における彼岸花）以外は、染色体が三倍体なので、種子から新しく芽吹くことがありません。その代わりに、球根分化によって自分のクローンとも言える仲間を増やしていくのです。「実をも結ばないヒガンバナ属」という表現は、まさにそこから来ています。たとえ種子ができても、そこから次世代の命が生み出されることはなく、あくまで分身の術によって増えていくばかり。我が子というよりは、全部自分の一部なわけです。
（👆原産地を離れ、他の色んな国の色んな土地へと生息範囲を広げるにつれて変異していき、結果的にそうなったのでしょう）

生態も特異で不思議な存在ですが、各地で名付けられた呼称や異名も、実にユニークですよ。英語圏ではヒガンバナのことをハリケーン・リリーとかスパイダー・リリーとか呼んでいますし（← 確かに大写しに見ると百合っぽい）、ここ👆に掲載している紫のリコリスは、農園のカタログから取り寄せるとき、なんと「ヘビメタ」という品種名で記載されていました ●～*　一体誰が名付けたのやら……💧　他にも、「小悪魔」とか「マダムバタフライ」とか「レディー・キラー」とか…… etc.　呼称を調べるだけでも飽きません（笑）

▼ちなみにこのオレンジのリコリスは自然交配種の一種で、狐の剃刀（キツネノカミソリ）という品種です。この写真は以前うちのプランターで咲いていた花を撮影したもの。

💡 そうそう、これまでにうちで開花したリコリスたちのフォト・アルバムもありますので、興味のある方は是非ご覧ください (^_-)-☆▼

悠冴紀のHP | Lycoris

スライドショー形式でＢＧＭをつけて、動画風に仕上げたものもあります♬ 　残念ながら、うちのバルコニーが毎夏灼熱しゃくねつ地獄になるためか、あるいは単に私が園芸オンチだったせいか、我が家のリコリスたちはその後全滅してしまったので、2008年分までしか作成できませんでしたが 。今となっては「遺影」ですね 💧

YouTubeの再生リストにまとめていますので、こちらも是非ご覧ください▼

LYCORIS（リコリス） - YouTube

ところで、これらの動画を見て知人友人が言うには、枯れ姿までしっかり写真に収めて、カラカラに干上がって散っていく様を最後の最後まで載せている点に、私の「らしさ」が表れていて笑えるのだそうな💧　言われてみれば、自分では全く無意識に枯れ姿を撮り、当然のことのように動画にまで取り入れてしまっていましたA^_^;)　リコリスだけに限らず旅先の写真などでも、気づけば私は、地面に落ちている枯れ葉や枯れ草、枯れ木などを撮り、何の疑問も抱かずアルバムにしたりしていました。

未来の可能性に満ち溢れ、初々しく咲いている満開時の花や、青々と茂る草木とは違い、枯れ姿の憂愁の美には、人間にたとえると、自己主張や渇望といった段階をとうに通り越した哲学的・文学的な落ち着きが感じられるというか、背後により多くの物語を見て取れる気がするんですよね。長い道のり、軌跡のすべてを、背中で静かに物語る晩年の詩人のように ──。

▲上の画像は服部緑地・都市緑化植物園（大阪）のリコリスです。おそらく、以前うちのプランターでも育てたことのあるインカルナタという種のリコリスです。服部緑地以外では、奈良県の馬見丘陵公園あたりが、私のよく行く比較的に近場のリコリス・スポットです。オーソドックスな紅い彼岸花や白花彼岸花（リコリス・アルビフローラ）、黄色系リコリスの代表格であるショウキズイセン等の群生を見たい方には、同じ奈良でも明日香村あたりがオススメですよ。岡寺や棚田にまで足を伸ばせば、赤白黄３色のリコリスが同時に見られます。

もしこの記事を読んで、自分の目でリコリスを見てみたい！ と思った人がいれば、是非行ってみてください (^_-)-☆