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ジョブ型雇用・多様な正社員制度・多様化する労働契約のルールに関する検討会

厚生労働省「多様化する労働契約のルールに関する検討会」第1回検討会は今年(2021年)3月24日に開催されたが、この検討会は6月18日に閣議決定された「規制改革実施計画」にも記載された。つまり、この検討会は厚生労働省の労働法政策に関わる有識者会議であるとともに政府の規制改革に関わる有識者会議とも位置付け得る。

多様化する労働契約のルールに関する検討会(厚労省公式サイト)

「多様化する労働契約のルールに関する検討会」

厚生労働省「多様化する労働契約のルールに関する検討会」では無期転換ルール(労働契約法)見直し及びジョブ型雇用(職務限定・地域限定正社員)など多様な正社員制度ルール明確化に関する議論が行われた。

現在、第5回検討会(2021年7月28日)まで開催されたが、第1回は委員意見交換、第2回~第4回はヒアリング(企業・労働組合・有識者=弁護士)が実施された。

第1回~第4回検討会における主な意見

第5回検討会参考資料4は「検討会におけるこれまでの主な議論」が簡潔にまとめられている。

参考資料4「検討会におけるこれまでの主な議論」(PDFファイル)

参考資料4「検討会におけるこれまでの主な議論」のうち「多様な正社員制度」については次のとおり。

「多様な正社員」に関する委員意見とヒアリング結果

多様な正社員関係
(1)総論

1 委員発言
・いわゆる正社員であっても、何らかの限定があると言える部分もありえる中で、無限定の働き方であることを前提に議論することやそれを肯定するような形で議論することはいいのだろうか。多様な正社員だけを念頭に置くのではなく、いわゆる正社員についても念頭において議論していくべきではないか。
・正社員や多様な正社員は、法制度で定められている概念ではないので、広めに色々視野に入れた上で検討することになるのではないか。
・多様な正社員の制度があるということと、制度が活用されている、運用されているということは、必ずしも一致していないことに留意が必要。

2 ヒアリング結果
・多様な正社員制度の導入によるプラスの影響としては、育児・病気を理由とした制度利用の例が多く多様な雇用形態の実現に資することができた点、非正規雇用であれば退職していたかもしれない人材が社員として会社に定着しているという点、生活に合わせたスタイルで正社員になるステップを導入することができた点等が挙げられた。(企業)
〇 中小企業では正社員の勤務地や勤務時間の限定という希望は実現できており、特に限定正社員を設定する必要性はうすいとの意見があった。(労働組合)
・ジョブ型人材マネジメントは、そのジョブだけの雇用というものではなく内部の人材活用の活性化や経験者採用等の観点で導入したマネジメントという意味合いである。(労働組合)
・多様な正社員制度については、肯定的な意見が多い一方で、雇用区分が異なる人がいると社内の団結が難しくなるという意見やどのような基準で社内での制度導入の検討をすればいいのかわからないという意見もあった。(企業が行った中小企業アンケート)
・地域限定ということの裏返しの問題として、そもそも全国転勤を可能にするありよう自体を見直す必要があるのではないか。(労働組合)
・多様な働き方の浸透とともに、「正社員」という概念自体が曖昧になりつつあり、「正社員」「非正規雇用」という枠組みから離れる必要があるとの意見があった。(企業が行った中小企業アンケート)
・各企業において正社員層をどのように仕分けて活用していくかは、企業の人事権そのものに関するものであり、法の介入は控えるべき。現状、全国転勤が想定されている企業では、雇用区分が整理されており、転勤範囲が不明という事例は殆ど見たことがない。配転可能な範囲を限定してしまうと、時間経過や環境変化による企業再編時に行き先がなくなり、却ってトラブルの種となる可能性がある。(使用者側弁護士)
・労使合意によって、長時間労働や使用者の配転命令権への歯止めがかかる働き方が「ジョブ型正社員」として模索されることに反対はしない。しかし、配偶者の遠隔地配転が実施されたり長時間労働が放置される限り、他方配偶者の離職を事実上強いられる(特に女性労働者が直面)問題は、「ジョブ型正社員」では解決ができない。「ジョブ型正社員」に関して、使用者が解雇規制緩和の一方策として利用できる、利用しやすい形での制度推進はあってはならない。均等・均衡確保のルールの抜け道として利用されることはあってはならない。(労働者側弁護士)
・転勤を巡っては、育児介護休業法26条による歯止めがあるとはいえ、あまり機能はしていないというのが自分の実務の実感であり、いつまでもその状態でいいのかと思っている。(労働者側弁護士)

(2)雇用ルールの明確化
1 委員発言
・多様な正社員を有期雇用者の無期転換先としてだけ捉えるのではなく、正社員から多様な正社員になる動きも踏まえて、多様な正社員の雇用ルールの明確化について整理していかなければならないのではないか。
・転勤拒否即解雇ということになっていないとしても、配転に関するルールを知らないことで応じなくてもよかったかもしれない配転に不本意に応じる、ひいては多様な働き方が妨げられるような事例があり得るのではないか、そういう観点で、配転に関するルールが知らされること自体は意味があるのではないか。

2 ヒアリング結果
・不必要な事務負担拡大は避けるべきであるほか、雇用契約書についてまだ理解できていない中小企業は多いので、あまり項目を増やすよりは現行の明示事項を徹底することが大事。(企業)
・就業規則が複雑過ぎて内容を把握出来ていない経営者が多いため存在価値がないという意見や紙でなくネットで労使双方がいつでも閲覧できるのが望ましいとの意見、就業規則の年1回以上の説明を推進すべき、10人未満の企業でも就業規則の作成義務を導入すべき、雇用時に就業規則の説明を必須事項とすべきという意見があった。(企業が行った中小企業アンケート)
・法制度に限定内容を明示することについては、職務をどの程度詳細に書き込むのか次第で取り得る反応が違ってくる。例えば、限定された職務の範囲が一般事務業務とされた場合、どこまで入るのか、話し合いが必要になる。中小ではそこまでできずに曖昧になる懸念。職務が明確だからそれ以外の仕事を断れるというメリットはあるが、デメリットとしては当該職務が無くなったことが賃金減額や解雇の理由となりえ、労使の課題と思っている。(労働組合)
・限定正社員等に対する労基法による就業規則への記載義務化について、勤務地・職種限定等は、個別の合意によることが多く、仮にこの点を就業規則の必要記載事項として立法化すると、就業規則の記載と個別合意のどちらを優先するか等をめぐり、却って誤解やトラブルが生じる可能性がある。例えば、就業規則に勤務地限定と記載されているが、労働者本人が勤務地にこだわらず個別合意で勤務地限定を外すケースにおいて、当初は労働者本人も納得していたが、途中で勤務地の変更を嫌になった場合、その時点でトラブルが生じうる。そのため、立法プランには賛成できない。(使用者側弁護士)
・限定正社員等に対する労働条件明示義務(雇入れ時、契約変更時)と限定正社員等に対する労働契約締結時や変更時の書面確認について、規制を行う必要性は特段認められない。正社員を含め、立法措置について特段の必要性を認めない。(使用者側弁護士)
・配置転換について権利の濫用が見られることから、労働契約法第 14 条の条文の「出向」を「出向及び配置転換」に改正すべきとの意見があった。(労働組合)
・配転命令については、現状、異議を唱えつつ、人事権濫用か否かを争うことも可能であり、それ以上の規制強化が必要とは認識していない。育児介護休業法条の制定・施行以降、企業が、労働者本人の意思に反して強行的一方的に転居を伴う配転命令を行う事例は少なくなっている。東亜ペイントの判断枠組みをそのまま立法化することについて、ルールをより周知できるという点で一定の意義はあると思う。(使用者側弁護士)
・勤務地変更(転勤)の有無や転勤の場合の条件が明示されること自体は、義務付けは使用者に合意内容を遵守させるため役立つので、反対ではないが、明示された勤務地や職務が無くなったことを理由に、解雇等労働者側の不利益が促進されるような悪用に繋がることはあってはならない。限定された勤務地、職務等がなくなったときに直ちに解雇等が認められるわけではなく、緩やかであっても何らかの歯止めの徹底が必要。既に労使関係が存在する「変更」時は、労使の力関係の差異がより大きく影響するので、より悪用を防ぐ必要性が高い。(労働者側弁護士)

(3)その他
1 委員発言
・事業所閉鎖等の場合、多様な正社員にも正社員と全く同じ雇用維持努力を行うという企業がおよそ半数だが、実態も同様になっているのかは確認が必要。
・正社員として採用された場合、一度限定社員になったとしても、正社員に戻ることは多くの企業で可能かと思うが、限定正社員として採用された場合、正社員になるためには、求められている水準に違いがあるなどの理由で試験や面接などがある可能性がある。そのため、どういう形で採用されたのかによって、正社員と多様な正社員間の移行の可能性や容易さに違いがあることに留意が必要。
・同じ基準で雇用保障するかという点について、正社員と多様な正社員の間でのどういう関係にあるのかというところをさらに明らかにする必要がある。
・転勤有りの前提である総合職でも家庭の事情等で転勤できないという人も多いが、他方、総合職と一般職とでは転勤を受け入れるかどうかの違いで待遇差があり、区分設定や待遇バランスに課題を感じている。(企業)

2 ヒアリング結果
・大企業と中小企業では法令改正への対応力に違いがある点は念頭に置くべき。(企業)
・一律の制度設計には慎重であるべきとの意見があった。(企業が行った中小企業アンケート)
*第5回「多様化する労働契約のルールに関する検討会」参考資料4「検討会におけるこれまでの主な議論」抜粋

多様化する労働契約のルールに関する検討会 議事録

厚生労働省「多様化する労働契約のルールに関する検討会」議事録は現在(2021年8月17日)、第4回検討会まで公開されている。ただし、第2回と第3回は非公開ヒアリングのため「議事概要」。

第1回「多様化する労働契約のルールに関する検討会」議事録

第2回「多様化する労働契約のルールに関する検討会」議事概要

第3回「多様化する労働契約のルールに関する検討会」議事概要

第4回「多様化する労働契約のルールに関する検討会」議事録

追記:多様化する労働契約のルールに関する検討会 報告書

無期転換ルールに関する見直しや多様な正社員の労働契約関係の明確化等について、厚生労働省の「多様化する労働契約のルールに関する検討会」において検討が行われたが、2022年3月30日、「多様化する労働契約のルールに関する検討会」報告書を厚生労働省が公表。

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*ここまで読んでいただき感謝(佐伯博正)