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【暴君女王】第1話「お嬢様学校」

これは「チャット小説」として書いたものです。
そのためセリフ以外の感情等の表現を極力簡潔にしてあります。
セリフをもとに想像してお読みください(*vωv)


 <中世西洋風城の中 スカーレットの寝室(ゲームの中の世界)>


 目の前の男は何度も床を共にした私の秘書官…のはずだった
 それが今短剣の先を私に向ける


ルーネ 「残念です…」
スカーレット 「待って!誤解なのよ!」
ルーネ 「スカーレット様…いえ…『暴君女王』」
スカーレット 「違うのよー!」


 シャキン グサッ

一閃、短剣が私の首を斬る


スカーレット (なんで…なんでうまくいかないのよ…!
 いつになったらこの『悪夢』から抜け出せるの…!?)




 <場面転換 現実世界 お嬢様女子大の外の通路>


城のような建物の横、通路を歩くアカネ。


アカネ(小さいころからマンションの窓から見えてた
 バカでかいお城のような建物…)


 <回想 アカネの子供時代>

祖母 「あれはね、お嬢様のための学校だよ。」

アカネ 「おじょーさま?アカネははいれないの?」

祖母 「どうかねえ…でも入れたら嬉しいねえ。あそこはばーちゃんの憧れの学校だから。」

 <回想終了>


アカネ (眩しそうに見る祖母の顔が印象的で
 いつの間にか私の憧れにもなっていた。

 「聖プリマヴェーラ女学院」

 日程が私立だから…受けれるからって受けたら
 うっかり受かってしまったことが間違いだった…)


お嬢様たち 「お茶会!?なんて素敵ですの!」
お嬢様たち 「ワタクシも参加してよろしくて?」
お嬢様たち 「ぜひいらして~」


 全寮制の女子大…
 そこにいたのは祖母が言った通り…「お嬢様」たち。


アカネ (マジで「ことのて」言葉で話す人たちが居るなんて…
 毎日毎日「~ですわ」「~ですことよ」「~なさって」とかいう頭の痛い会話に囲まれて
 何の苦労もなく育ち、花のように微笑み、将来も安泰を保証されたお嬢様たち…
 彼女たちは一般入学の私なんかは蔑む…なんてこともなく
 全く悪気なく、分け隔てなく、まあ多少は珍しがって話しかけてくれるけど…)


お嬢様 「アカネさんもいらっしゃいませんこと?」
アカネ 「あの…私は…」
お嬢様 「会費はたったの5万円ですの!」
アカネ 「(5万円!?)あの…私その日は用事があって…」
お嬢様 「あら~…残念ですわ…次回はぜひ参加なさってね!」


アカネ (なぜお茶会ことルームパーティーで5万も会費を取るのか…)


 でもそれがここの「お嬢様の常識」らしい。


アカネ (金銭感覚が違いすぎる…まあ払えたとしても行く気はないけど…
 どうせ「お休みにクルーズに行きましたの~」だの
  「伯父さまが○○でドレスを作ってくださいましたの~」だの
 知りもしないブランド品をもらった話をされて

 それが自慢でもなんでもないただの日常会話で
 あまりに世界がかけ離れすぎてて

 どう反応すればいいのかわからない私は
 ひたすら作り笑いをしながら気まずい時間を過ごすだけなんだから…)


学園の図書館の前を通りかかると声をかけられた。


リョウ 「ごきげんよう、アカネさん。ここには慣れましたか?」


アカネ (司書教諭の「リョウ様」。
 知的で物静かな雰囲気の麗しい男性。
 ここを通るたびに声をかけてくださる。
 …のは良いんだけど…)


お嬢様 「(ひそ)まあ…あの子…」
お嬢様 「(ひそ)またリョウ様と…」


アカネ (女子大でただでさえ男性の少ない中
 一般の先生とはちょっと違う司書教諭で
 乙女ゲームに出てくる攻略キャラみたいな美形の男性…
 「リョウ様」は「憧れの君」というお嬢様たちの共有物だ…)


アカネ 「こ、こんにちは。あの、この本を探しているんですけど」
リョウ 「ああ、これですね。少々お待ちを。…………はい、こちらです。」
アカネ 「ありがとうございます。では…」

お嬢様 「(ヒソ)なんだ、本の貸し出し希望でしたの」
お嬢様 「(ヒソ)私たちも何かお借りしましょう」


アカネ (ふう…疲れる…
 皆様の「共有物」と雑談なんてしたら
 ただでさえない居場所がますますなくなるだけ…
 おかげで読みもしない本を借りてやり過ごすしかない。
 私も図書館の前なんて通らなきゃいいんだけど…)


庭園の奥にある古い東屋。
ここに来るには図書館の脇を通らなければいけないからだ。


アカネ (誰も来ないここが唯一ホッとできる。)
ハヤト 「よう。またここで読書のふりしてゲームか?」
アカネ 「…この人は来るんだった…」
ハヤト 「ん?」
アカネ 「ううん。ハヤトさんなら安心できるからいいや」
ハヤト 「へえ、嬉しいこと言ってくれるねえ」
アカネ 「だって『生徒を守る警備員』だもん」


ハヤトさんは学園に数人いる警備員の一人。
独りでここに居たら声をかけられて
それ以来ちょくちょく話をするようになった。


ハヤト 「カモフラージュなのに律儀に毎回違う本だなあ」
アカネ 「図書館の脇を通らないとここに来れないし…
 通ると『リョウ様』が声かけてくるんだもん…」
ハヤト 「ハハハ!あの人も一般入学のあんたのことを気にかけてるんだよ。」
アカネ 「『も』?」
ハヤト 「俺も。ってこと。
 ここの生徒はこの学園の幼稚部からエスカレーター式だからな…
 こんなとこに独りで居たら、そりゃ気にするさ」
アカネ 「イジメとかに合ってるわけじゃないよ。
 『リョウ様』と雑談なんてしたら合うかもしれないけど。」
ハヤト 「カカカ、あの人にはそこんとこの自覚がねえからな。
 俺ならそんな心配いらねーだろ。
 お嬢様のご自宅にも警備員は居るだろうし。
 俺等は置物みてーなもんだ。」
アカネ 「私は置物だとは思ってないよ。」


 ハヤトさんは少しうれしそうに笑った気がした。が、
 ヘルメットのせいで口元しか見えないからイマイチわからない。


アカネ 「そのコスプレみたいな甲冑、警備員の制服なの?」
ハヤト 「そ。学園が城っぽいからその雰囲気に合わせてんだろうけど…コスプレだよなー…
 でも見せかけだけで、素材は近代的な防弾防刃の防具なんだぜ。」
アカネ 「へー…そういや金属音しないもんね。
 まあコスプレみたいだけど嫌いじゃないよ。ゲームのキャラみたいで。」ハヤト 「ホントゲーム好きだよなあ。今は何やってんの?」
アカネ 「ん…殺人事件の犯人を当てるボードゲーム。」
ハヤト 「へえ、この前はそれこそファンタジーアドベンチャーじゃなかったっけ?」
アカネ 「何でもやるよ。パズルゲームもするし。」
ハヤト 「へー俺も結構ゲームするぜ」
アカネ 「そうなの?どんなやつ?」
ハヤト 「俺もいろいろだなあ。最近やったのはビジュアルノベルだったな」
アカネ 「へえー良いのあったら教えてよ」
ハヤト 「おう」


アカネはゲーム機を置くとため息をついた。


アカネ 「…なんで私がここに来るか分かる?」
ハヤト 「俺に会いに。」
アカネ 「…………」
ハヤト 「ははは!冗談だよ。なんで?」
アカネ 「現実に戻りたいから。」
ハヤト 「…え?」
アカネ 「お嬢様は物語とかでよくある『庶民を見下す』みたいなこともなく 
 色々話しかけてくれるんだけど…話についていけなくてさ…
 お嬢様同士の会話を聞いてても…まるで異世界みたいなんだもん…」
ハヤト 「ゲームなんかしなくてもここが異世界ってかぁ…まあそうだな
 さて、そろそろ巡回しねーとな。」
アカネ 「おつかれさまです」

ハヤト 「あ、そうだ…あんた、乙女ゲームってやつはやらねえの?」
アカネ 「有名どころはやったことあるけど…」
ハヤト 「生徒が話してるの聞いたんだけどさ…
 『やってはいけない乙女ゲーム』ってのがあるらしいんだよ」
アカネ 「なにそれ、都市伝説?てか生徒って…お嬢様もゲームすんの?」
ハヤト 「そりゃする子もいるだろ。
 都市伝説なのかは…どうだろうなあ?
 なんでもそのゲームは全エンディングを見ると
 超鬼畜難易度のモードが出現するらしい。」
アカネ 「あーあるねえ。そういうタイプのゲーム。
 『ノーマルクリアしたらハードモード解禁』みたいなの。」
ハヤト 「その超鬼畜難易度をクリアできた奴はいないらしい。
 ゲーマーには、闘志の湧く話じゃね?」
アカネ 「ふぅん…タイトルは?」
ハヤト 「タイトルは…『春の微笑み』」
アカネ 「ふむふむ…(ぽちぽち)…ストアに出ないよ?スマホアプリのゲームじゃないの?」
ハヤト 「アプリゲームだって話だけど…あ、検索するとき、最後に『NM』ってつけるとか言ってたっけ…」
アカネ 「『春の微笑みNM』?あ、出た。…絵は奇麗だね…」
ハヤト 「明日から3連休だ。気が向いたらやってみな!」
アカネ 「ありがと!行ってらっしゃい」


ハヤトは背中越しに手を振って巡回へ行った。


アカネ 「…なんでこの検索ワードじゃないと出ないんだろう…普通は一部が合ってれば出るのに…」


  この時おかしいと気づくべきだった。
  このゲームには通常プレイした人がつける評価がついていない
  DL数は50万を超えているのに…



<放課後、アカネの私室。>

 寮はお嬢様学校だけあってか全員個室だった。


アカネ 「ふーん…プレイヤーキャラは『プリマヴェーラ』か『スカーレット』のどっちかを選べるのか…
  攻略キャラは…7人か…
  選ばなかった主人公キャラがライバルになって、この7人を奪い合うのか。
  乙女ゲームあるあるだねぇ。
  まあ、せっかくだから学園と同じ名前のあざとキャラの方からやってみようかな。」


 アカネは緑の髪のかわいらしいキャラの方を選ぶ。
 と、キャラの全身図と文字が表示された。


ゲームテロップ 『プリマヴェーラ。
 春の微笑みを持つ、万人に愛される王女。
 父王が崩御し、女王に即位した姉:スカーレットにより地下牢に幽閉される。
  スカーレットは気に入らない者の首を跳ね、気に入った者はペットにする。』


アカネ 「へえ…レーティング+16(推奨年齢16歳以上)だけあって攻めた内容だな…」


ゲームテロップ 『恐怖政治を敷くスカーレットを皆恐れている。
 あなたはプリマヴェーラとなり、スカーレットを打ち倒し、微笑みに満ちた国にするのです。』


アカネ 「牢屋に閉じ込められてる状態でスタートか…
 一見難しそうに見えるけど
  話ができる人が限られてるから…」


アカネは今までのゲーム経験から着実に攻略していく。


アカネ 「こ…これ…
  あからさまじゃないけど…けっこうベッドシーンもあるし…
  『春の微笑み』の春って…あっちの意味の春!?」


<ゲーム画面>

プリマヴェーラ 「良いのです。これがお姉さまの望みなら。あなたはあなたのお仕事をしているだけです。」
牢番 「プリマヴェーラ様…」

<ゲーム画面終了>


アカネ 「かわいそうな幽閉王女は
 その境遇の同情心と儚く健気な微笑みを使って
 近づく男を片っ端からたらしこんで…
 って、こんなもん牢番を虜にしたらもう勝ち確じゃん!
 いくらノーマルモードでも簡単すぎる。」


 アカネはだらだらプレイする。


アカネ 「よし!攻略キャラ7人集結!打倒スカーレット!!
  クリアーーー!つまんねー!
  あれ…?
  あ、そっか…これ乙女ゲームなんだから魅了度が1番高いキャラと最終的に結ばれるのか…」


 エンディングが流れる。
 エンディングで現れたパートナーは…


アカネ 「牢番!?
  うわーーークリアメインでやっちゃったから『どーでもいい牢番』ENDになっちゃったよおおおお!
  いや、牢番もイケメンだけどさあああ!
  1枚絵が出るだけって…メインキャラじゃないから!?
  要はこれBADENDじゃん!
  てことは…これ…クリアは簡単だけど、魅了度調整考えてやるタイプなのか…
  しかもメイン攻略キャラだけじゃなくサブキャラまでエンディングが用意されてるってことは
  メインキャラだけじゃなくサブキャラとの魅了度も考えなきゃいけないってことー!?
  くそめんどくさああああ!
  ちくしょ~~~伊達にゲーマーやってんじゃないのよ!
  メインキャラのエンディング全部見てやる!」


アカネは夢中でプレイする。

 

アカネ 「ふう…コツさえつかめばこっちのもんね。
  つか…メインの全キャラちゃんと独自のストーリーになるしエンディングも凝ってる…
  意外とすごいゲームなのかも…
  推しは断然宰相補佐のメルクリオね。
 クールな堅物がだんだんデレていく王道!たまんない!
  おもしろかったーー!

  っと、今度は主人公をスカーレットにしてやってみなきゃ。
  大体プリマヴェーラって最初から『哀れな境遇』アドバンテージあるから魅了するの簡単なのよ。
  これ、恐れからひれ伏してるだけのスカーレットでやったらどうなるんだろ…」


アカネはすっかりゲームに夢中になっていた。


アカネ 「え!?」


ゲームテロップ 『スカーレット。
  暴君だった先王と同じ赤い髪と瞳を持つ、万人に恐れられる女王。
  父王が崩御し、女王に即位したスカーレットは邪魔な妹を地下牢に幽閉する。
  スカーレットは気に入らない者の首を跳ね、気に入った者はペットにする。』


アカネ 「ここまでは分かるけど…」


ゲームテロップ 『恐怖政治を敷くスカーレットを皆恐れている。
  あなたはスカーレットとなり、あなたに反感を持つ城の男たちを支配し、真の女王になるのです。』

 

アカネ 「スカーレットの方は魅了じゃなく支配!?
  しかも最初から『反感を持ってる』って…ディスアドバンテージにもほどがある!
  最終目標が真の女王って…それ女王様違いな気がするんですけどー!?」


<ゲーム画面>

ルーネ 「私は命令だから寝所を共にしただけです。心はあなたにはありません。」

<ゲーム画面終了>


アカネ 「さ、最初から嫌われすぎ…どうすれば…
  あ…そうか…スカーレットの勝利条件は『支配』…好かれる必要はないのかも…」


<ゲーム画面>

スカーレット 「それでいい。家族の安全を守りたくば、私の命令に従い続けろ。一生。」

<ゲーム画面終了>


アカネ 「1番鬼畜な選択を選ぶ!」


  アカネは夢中でプレイし、気が付いたら朝になっていた。

 

アカネ 「あーうー…徹夜でプレイしちゃった…」


  バサッとテーブルの上にノートを広げる。


アカネ 「この私に攻略チャートを作らせるなんて…ひと眠りしたらスカーレット編の攻略再開よ!」


  すっかりゲーマー魂に火がついてしまったアカネは
  チャートを作りながらスカーレット編を攻略する。

  アカネはゲームの攻略サイトを使わないことを自らの縛りにしていた。
  ゲーマーにとって攻略サイトを見るのは敗北の末の最終手段だと思っていた。
  もし探していたら
  「これだけのダウンロード数があるなら
 攻略サイトがあってもおかしくないのに
 なぜか全くない」ということに気づいたかもしれなかったが…


アカネ 「面白い…スカーレット編面白い!」


  いつの間にか外は夜になっていた。


アカネ 「ふう…これで…終わりよ!」


 ポチッ


<ゲーム画面>

マルテ 「スカーレット様。あなたこそ我が君主…剣を捧げましょう」

  スカーレットの手の甲にキスしようと膝を折る騎士の手を取り
 スカーレットは騎士の唇にキスする。

スカーレット 「あなたが剣を捧げるのなら、私はあなたに唇を捧げるわ」

<ゲーム画面終了>


アカネ 「やったーーーーー!!!!オールクリアーーー!!!!
  面白かった~~~!結構な大作ゲームじゃん!
 ボリュームも面白さも抜群だわ!

 おかげで3日の休みの2日が吹っ飛んだわ…でも充実…
 ゲームでここまでのめりこんだの久しぶりかも…
 …………ん?」


ゲーム画面にポップアップウインドウが現れる。


  『オールクリアおめでとうございます。ゲームはお楽しみいただけましたか?yes/no』


アカネ 「あー開発者さんからのアンケート的なやつか。お楽しみまくりましたともー!『yes!』」


  『プレイヤーキャラはプリマヴェーラとスカーレット、どちらがお好みでしたか?プリマヴェーラ/スカーレット』


アカネ 「難しかったけど、ストーリーも演出も断然スカーレットよ!『スカーレット』」


  『ありがとうございます。クリア特典として最高難易度のDLCをプレゼントさせていただきます。
 ダウンロード&インストールする(DLCサイズ201.6MB、)

  ※プレゼントを受け取らない場合はポップアップを消してください。ただし消した場合2度とプレゼント画面は現れません。』


アカネ 「あ、『最高難易度が出現する』って、DLC(ダウンロードコンテンツ)スタイルでなのか。
  2度と現れないとか言われなくてもいただきますとも~!」

 

 ポチ


アカネ 「って、うわ!推定インストール完了時間3時間!?
 そんなに容量ないのに…
 ま、ちょうどいいや。それまでちょっと休もう。
 夢中でやっちゃってろくに寝てないもんな~」


 アカネはダウンロードしたまま眠ってしまう。
 ゲーム画面にはダウンロードバーが動き、インストールが開始される。


 そして3時間後…


ゲーム画面 「インストール完了。」


 眠っていたアカネは知らなかったが、そのアナウンスの瞬間
 ゲームのサムネイルが「春の微笑みNM」という
 ホラーゲームのような恐ろしいものに変わっていた。


ゲーム画面 「DLC『ナイトメアモード』を開始します」


<第2話へ続く>





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