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[短編小説] 東雲の幻
※ 扉絵は、さくらゆきさんの作品です。さくらゆきさん、ありがとうございました。
院内の見回りを終え、私はようやく最上階の師長当直室に戻れると大きく息をついた。看護師になりたての頃は、くたくたでも駆け上がれた階段だが、還暦まであと数年の脚にはこたえた。
階段を登りきると、窓の向こうに桜色と空色のパノラマが広がっていた。 思わず息を飲み、歩みを止めた。たなびく雲は朝日を浴びて淡い桜色に染められ
小説『泡沫(うたかた)の初恋』(全文/約7200文字)
一.椿 君と初めて会ったのは、僕が齢十二を迎えた年だった。
父さまに連れられて、日本橋の薬種問屋に薬草を仕入れに行った帰りの道中、町に立ち寄った。
皐月のはじめの良く晴れた午の日、端午の節句を迎えた店や家屋の軒先には、蓬や菖蒲が刺され、辺り一帯に生薬の匂いが漂っている。民家の前では子どもたちが印地と呼ばれる石を投げ合って、今では珍しい石合戦を繰り広げていた。
「ちょいと嘉兵衛さまに挨拶
2021年4月|最も読まれた物語
2021年4月に私が書いた中で最も読まれた5つの物語をまとめました。
1位 天使マネー
2位 倒置法のラブレター3位 心が痛かったら手を上げて4位 星空の糸電話5位 死神とシーソーたくさん読んでいただき、ありがとうございました!
先月のまとめ
オールド・クロック・カフェ #1杯め「ピンクの空」(4)
前回までのストーリーは、こちらから、どうぞ。
(1)から読む。
(2)から読む。
(3)から読む。
<あらすじ>
京の八坂の塔近くにある『オールド・クロック・カフェ』はある。時計に選ばれた客にだけ出される「時のコーヒー」は、時のはざまに置いてきた「忘れ物」を思い出させてくれるという。亜希は時計に選ばれた3番目の客。白い柱時計が示した時刻は4時38分。亜希は小学4年生の夏休みの宿題の絵を描いている
小説『オールド・クロック・カフェ』 #1杯め「ピンクの空」(3)
前回までのストーリーは、こちらから、どうぞ。
はじめから、読む。
(2)から、読む。
<あらすじ>
京の八坂の塔近くにある『オールド・クロック・カフェ』。時計に選ばれた客にだけ出される「時のコーヒー」は、時のはざまに置いてきた「忘れ物」を思い出させてくれるという。亜希は時計に選ばれた3番目の客。白い柱時計が示した時刻は4時38分。亜希は小学4年生の夏休みの宿題の絵を描いている過去へ。ピンクの空を
小説『オールド・クロック・カフェ』 #1杯め「ピンクの空」(2)
前回のストーリーは、こちらから、どうぞ。
<あらすじ>
京の八坂の塔近くにある『オールド・クロック・カフェ』には、さまざまな柱時計が飾られている。時計に選ばれた客にだけ出される「時のコーヒー」は、時のはざまに置いてきた「忘れ物」を思い出させてくれるという。亜希は時計に選ばれた3番目の客。白い柱時計が示した時刻は4時38分。亜希はその時刻にどんな「忘れ物」をしてきたのだろう。
* * tick
小説『オールド・クロック・カフェ』 #1杯め「ピンクの空」(1)
その店は、八坂の塔へと続く坂道の途中を右に折れた細い路地にある。古い民家を必要最低限だけ改装したような店で、入り口の格子戸はいつも開いていた。両脇の板塀の足元は竹矢来で覆われていて、格子戸の向こうには猫の額ほどの前庭があり、春になると山吹が軒先でゆれる。格子戸の前に木製の椅子が置かれ、その背もたれにメニューをいくつか書いた緑の黒板が立て掛けられていなければ、そこをカフェと気づく人はいないだろう。
もっとみる小説|ふたばのクローバー
二本のクローバーに、子どもが生まれました。お母さんクローバーも、お父さんクローバーも、この子を必ず幸せにすると誓います。子どものクローバーには、他のクローバーとは違って、葉が二枚しかありませんでした。
子どものクローバーは、何度も他のクローバーからいじめられました。二枚しか葉っぱがないからです。子どものクローバーは傷つき、悲しみました。「お母さんとお父さんは三つ葉なのに、どうして私だけ双葉な