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忘れた頃に望みは叶う

梅雨時に必ず思い出す情景があるのです。

若者が馬房の中で呆然と立っています。
その前で馬が足踏みしているのです。

ピアッフェと言います。

馬場馬術という競技がありまして、最高難度のステップです。でも、ご存知ない方には、きっと足踏みにしか見えません。

若者は何故、呆然としたのでしょう?

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馬の名前がグラス

焦げ茶色の馬体は栃栗毛と呼ばれています。神経質な馬が多いのです。グラスは臆病過ぎるため、他の調教師が見切りをつけました。

下っ端の学生バイトに回ってきたのです。

こんな馬は使えねえよ。お前に合ってるぜ。すぐ屠殺場送りだな。周りは冷笑でした。

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それがピアッフェですから

噛みつかれたり、蹴られたりもありました。

馬房に入ると、長い耳を寝かせて警戒する。噛みつく素振りで威嚇したものです。

なのに、梅雨時でザアザア降りの天気、調教するわけにもいかず、馬房に入ってみれば、ピアッフェを踏んで見せるのでした。

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どうしてこれほど従順になったのか。
若者が愛情深いから?

いえいえ。

いつも迷う心に翻弄されていました。技量も経験も助けもありません。かといって、若者が投げ出せば屠殺場送りなのです。

初めは元気でした!

調教師と認められるチャンス。希望と野心。弾む心。期待と高揚。ワクワク気分♬

しかし、思うように進みません。臆病な気性は変えられないのです。焦りと苛立ち。不安と失望。諦めと投げやりな気分💦

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乗馬ってハイソなイメージでしょうか。裏へ回るとシビアな世界です。動物相手の仕事には、いつも死の影がついて回ります。

落胆したからと言って投げ出せないのです。飼いつけ。馬房掃除。運動と手入れ。坦々とこなし続けなければなりません。

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若者は、呆然と立ち尽くしているのでした。静かな雨音。月曜の昼下がり。乗馬クラブは休みです。薄暗い馬房。饐えたボロの臭い。

確かに自分が調教したピアッフェなのです。
でも、嬉しさや達成感はありません。

もちろん、悲しみでもない。

言葉にできない思いがこみ上げて、ただ呆然と立ち尽くしているのでした。

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臆病で反抗的だった馬が、仕込んだ芸を見せる。怖れからではありません。若者は怒らなかった。怒れば馬がパニックになるから。

お前は甘えんだよ!

言うこと聞かなきゃ鞭で叩け。思い知らせろよ。ダメなら肉に出す。シロウトの客が乗るんだぜ。甘やかしてどうすんだ。

でも怒らない。噛まれて蹴られても。グラスが怯えていると感じたから。甘ちゃんと揶揄されても鞭や拍車は使わなかった。

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今の私なら、わかることがあります。

夢を見て希望に溢れ、うまく進まず挫折しかかる。よくある話です。ただ、そこで止めるかどうか。忘れた頃に叶ったりするのです。

諦めず粘り強く続けるかではありません。

【忘れた頃】がキーワード!

若者は、期待と失望の狭間を揺れ動いた後、ただ坦々と無心でこなし続けていました。

手放した後に望みが叶う。叶った時は、自分が何を望んだのかも忘れていた。オレはこんなことを願っていたのか。

願った時の心境と別の自分=在り方になっていたのですね。だから、呆然とした。

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グラスとの別れは以前書きました。リライトしたので読みやすくなったと思います。

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いかがでしたか?

梅雨時に思い出す、ほろ苦い記憶でした。

今回の【マインドスナイパー】も結論は同じです。決まっている。変えられない。そして理解すれば解放されて自由になるのです。

次回は7月5日の午前10時頃♡

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