ここでは何も言えない
いわきに来てすぐ、僕は国道6号をドライブすることにしました。この地域を知るためにはこの方法が一番早いと教えてもらったからでした。
◇
勿来から北へ―。時折ルートを外れ、海沿いの地域を経由しながら、浪江町の請戸漁港まで車を走らせました。〝海なし県〟の長野からやってきたので、太平洋を望みながらのドライブはとても新鮮なものでした。
その一方、海沿いを走ると、必ず目に入ってくるのが震災の爪痕です。震災後に造られたであろう堆い防潮堤、「東日本大震災津波浸水区域」の看板、さら地の中にポツポツと新築の家が建っている地域など…。ほとんどは「復興」が完了した光景なのですが、その「復興」の完成度があまりに高いゆえ、震災の被害の大きさがどれほどであったかを考えずにはいられなくなります。
そして、何より今も帰還困難区域に指定されている福島原発周辺の光景…。もちろんテレビで何度か目にすることはありました。しかし、10年前で時が止まったまま、自然に還らんとしているこの地域の姿には、僕のような軽い気持ちでここを訪れた者からあらゆる語彙を奪ってしまうような、想像を絶するような重みが感じられました。
◇
このドライブを終えたとき、僕はこの地域について「何も言えない」ような気がしてしまったのです。
(コウノヤ管理人・中之作)
<いわき民報・2月17日付『くらし随筆』>
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