見出し画像

会社のトイレでお尻を洗われ続けた話【ポレポレな日常/第2回】

あなたは、ウォシュレットを使用中に水が止まらなくなったことはありますか?私はあります。想像してみてください。トイレの個室の中で、止まらないウォシュレットにお尻を洗われ続ける自分を。

「おしりだって、洗ってほしい」
トイレでお尻を洗うという発想がない時代に、強烈な印象を残すコピーと共に登場したウォシュレット。今ではすっかり定着し、洗ってほしかったお尻たちも嬉しそうです。けれども、便利で快適なものには大抵落とし穴があるものです。

これは十数年前、職場のトイレでウォシュレットを使った時の話。ウォシュレットの「切」スイッチを押しても水が止まりません。押すところを間違えたのだろうと気軽に考え、目視で確認してから再度ボタンを押しました。

「え?止まらない?!」

いやいやいや。ボタンの接触が悪いのかも。グッとしっかり奥まで押し込めば大丈夫……じゃない!何度押しても止まらないではありませんか。止まる前に立ち上がれば、その水は天高く吹き上がります。どんなに上手に避けたとしても、お尻以外もびしょ濡れになる予感しかしません。

つまりこれって、このままずっとお尻を洗われながら、便座に座り続けなければいけないって事なのでは?心臓の鼓動が高まり、体内に冷たいものが流れていくのを感じました。この緊急事態をどのように切り抜ければいいのだろう。なにかヒントがあるはずと、一瞬のうちに人生を巻き戻します。そうだ!「乾燥」にすれば、立ち上がっても吹き上げてくるのは温風だけ。取り急ぎそのままにして、故障の連絡へいけばいいではないか。我ながらナイスアイデアです。天才かも。よし、乾燥!

……切り替わらない。

なんで?ドォユ~こと?ホワァイ?もちろん、この間もずっと私のお尻は洗われ続けています。私はこの小さな個室の中で、誰かが通りかかるのを待たなければならないのでしょうか。お尻を洗われ続けながら。

いや、冷静になって考えれば通りかかった相手も困るでしょう。突然個室の中から訴えられたところで、彼女には何もできないのです。何もできないなりに誰かを呼びにいくかもしれません。やめて。呼ばないで。

ふと「雨垂れ石を穿つ」という言葉を思い出しました。軒下からポタポタと落ちるわずかな雨垂れでも、同じ所に長年落ち続けると硬い石でも穴をあけることができるという勇気の出る言葉です。通常時なら。

今、私のお尻は雨垂れどころか、しっかりと水を受け止め続けています。なんとなく不安になって、洗われる場所を少し移動してみました。けれども水の勢いは変わらず、私のお尻は石よりずっと柔らかいのです。焼石に水という言葉も浮かんできます。石ばかりだな、尻なのに。

もうおしまいだ。いや、おしまいにしたい。どうしたらいいんだ。

途方に暮れてうなだれた私の目に飛び込んだのは、トイレの床面にそって差し込まれたコンセントでした。駄目もとです。何かが起きても、お尻を洗われながら助け出される事を考えれば、ずっとマシなハズ。何の躊躇もなくコンセントを抜きました。

……止まったぁぁぁぁぁぁ!!

今思い出しても、本当に恐ろしい時間でした。もしウォシュレットが壊れたらコンセント。心のメモに残していただけると幸いです。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?