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いやぁ~ん力(ぢから)【ポレポレな日常/第1回】

「いやぁ~ん力(ぢから)」をご存知だろうか。「いやぁ~ん対応法」を実行した時に生まれる、抗えない力のことである。念のために言っておくと、「いやぁ~ん対応法」というのは私が勝手に編み出した方法なので、検索してもでてこない。ごめんよ。

やり方はいたってシンプルだ。たとえば満員電車で足を踏まれたのに、なぜかこちらが睨まれてカチンときたとき。「チッ」と思う代わりに「いやぁ~ん」。

クタクタに疲れて心と体を休めようと入ったカフェで乱雑な接客された時。「お前いったい何様だぁ?!」の代わりに「そんな接客いやぁ~ん」。

職場で理不尽な扱いをうけた日の帰り道。「こんな会社やめてやる!」の代わりに「こんな会社はもういやぁ~ん」。

小さくてもよいので声を出すと効果は倍増する。ポーズをつければ最高である。「いやぁ~ん」と唱えた途端に腰が砕ける。唱えている自分がアホっぽく、一気にバカバカしくなってくる。そしてなぜかもう一度「いやぁ~ん」と唱えたくなってくる。「いやぁ~ん」を繰り返しているうちに、あまりのくだらなさに楽しい気分になってしまう。これが「いやぁ~ん力」だ。なんとおそるべし。

「いやぁ~ん対応法」を編み出したころは、仕事もプライベートも余裕がなかった。それでも自分の力ではどうにもならないこと、すでに起きてしまったことは変えようがないから、引きずらず自分で自分の機嫌を取ってあげるしかない。そんな時に「いやぁ~ん」はおすすめです。ぜひ、お試しあれ。

夕べ、この「いやぁ~ん対応法」を久しぶりに使ってみた。別に腹を立てていたわけではない。なぜか突然思い出したのだ。悲しい時に使ったのは、はじめてだった。

「いやぁ~ん」と呟いた途端に、バカバカしくて泣けてきた。泣けないと思っていたのに。押さえ込んでいた悲しさを、バカバカしさが包み込んでいく。

「いやぁ~ん」
ちょっと気持ちを込めて、ポーズもつけて言ってみる。バカバカしさが増してゆく。嗚咽しながら繰り出す本気の「いやぁ~ん」は、くだらなくなぜか優しい。

「いやぁ~ん」
もう会えないなんて、辛いなぁ。受け入れなきゃいけないの、しんどいなぁ。もっとたくさんお話したかったなぁ。大好きだったなぁ。

そうだった、と思い出す。感情はすべて愛おしいものなんだ。楽しさも、嬉しさも、怒りも、切なさも、悲しさも、憎しみさえも、何もかも。

大人になると、日常を続けるために感情を上手にコントロールしてしまうことがある。悲しい気持ちを器用に隠してしまった今日の私のように。さまざまな感情が生まれる道を、最初から避けて進んでしまうことも多くなる。

生きるって感情を味わうことなのに、なんともったいなことだろう。大人だって、思い切り泣いたり怒ったり、はしゃいだり文句言ったり、自分で制御できない感情こそ大切にしたいのに。大丈夫、私には「いやぁ~ん力」がついている。

さぁ今日も、「いやぁ~ん」と呟きながら、でこぼこの道を歩いて行こう。


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