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赤ちゃんはお母さんを選んでお腹にやってくるんだよ。でも私にはやってこないのが悲しかった。


どうしてもほしいものは何?
もし10年前に聞かれたら「子ども」と答えたかもしれない。


30歳で結婚して36歳で妊娠した。
その間、13歳年上の夫と、子どものいない人生もいいよね、と何度も話し合った。


28歳のとき、子宮内膜症と診断された。そのときは妊娠に影響する病気だという自覚はなかった。ただ頻繁にお腹が痛くなるのが辛かった。


アパレルの会社に勤めていた。平日は家より会社にいる時間の方が長かった。
万年睡眠不足で、口内炎が次々できた。胃腸はずっと痛くて、とにかく毎日ヘトヘトに疲れていた。上司は今が会社の過渡期っていうけどいつまで続くのか。 


10年後の自分を書け、と言われて〝郊外で畑をしながら3人の子どもを育てている〟と書いた。めちゃくちゃ怒られた。
そういうことを聞いてるんじゃない。
もっと真面目に書きなさい。
いやいやこっちは大真面目だよ。
10年後、この会社で同じように働く姿なんてちっとも想像つかない。


後から結婚した同僚や後輩が産休に入っていく。不妊治療ができるクリニックを探して通った。受診する為に早退したら、次の日の朝も来てくれと言われた。
そんなに仕事は休めない。
この会社にいて私は妊娠できるのだろうか。

「赤ちゃんはお母さんを選んでお腹にやってくる。」


その言葉を初めて聞いたのはその頃だ。



食事に気を遣った。
基礎体温も測った。
冷えるのが良くないと聞いて温活も頑張った。その一環でピラティスとも出会う。


私は何故赤ちゃんに選ばれないのだろうか。


今なら分かる。この言葉はお母さんになった人のための言葉だ。子育てにつまずいて、私なんてダメな母親だ、と悩むお母さんに、「それでもあなたの子どもはあなたが良かったんだよ。あなたを選んで生まれてきたんだよ。」という励ましの言葉だ。

だけど当時の私は、自分が何故選ばれないのか、どうしたら選ばれるのか、そう考えて辛かった。

どうしても欲しいもの。
それが手に入らなかったとして、私は不幸せなんだろうか。
本当に?


完璧な、欠けのない人生なんてどこかにあるんだろうか。

不妊治療をやめた翌年、私は妊娠した。
どうしても欲しかったものを手にした私は、出産して子育てして、毎日を過ごすうちに、また欠けのない幸せを目指そうとする。


どうしても欲しいもの。
それが手に入らなかったとして、それは不幸なことなんだろうか?
青い鳥探しと同じじゃないのだろうか。いるかいないか分からない青い鳥を探しているうちに色々見逃してしまう。
青い鳥が実際どんなものかも分かっていない。


昨年、文鳥を迎えた。
青い鳥がどんなに美しい声で鳴くのか私は知らない。

でも、文鳥の美しい声に毎日心が躍る。
呼べば手のひらに乗り、求愛ダンスをしてくれる。

今私が触れるもの。目の前の人。大切な人にしてあげられること。そういうものを大切にしていこう。


今日は今年最初の新月。
今ここにないものを欲しがり続けるのは一旦やめて、あるものをしみじみ愛する年にしようと思う。






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