見出し画像

子育ての正解とマラソン大会と素麺7杯食べた話。


子育てに正解なんてあるのだろうか。

子育てに限らず学校教育の枠を出たら、正解なんて探すだけ無駄ということは多い。
子どもを育てる立場になって初めてわかった。親って必死だ。結構いつもいっぱいいっぱいだ。

子どもの頃は親の小言を理不尽に感じたり、腹を立てたりした。


親になってみたら理想通りの子育てなんてできないことを知った。今日までに私はいくつ間違えたか。小さなことから、取り返しがつかないことまで。


私が小学校高学年のときマラソン大会当日に熱を出した。高熱ではなかったけれど、母が今日はお休みしようね、学校に連絡してくるね、と言うのでそのつもりで布団から出ずにいた。

数分後。
「さっちゃん、やっぱり行こう!お母さん送っていくから着替えて」と張り切って母が戻ってきた。


布団の中で目ん玉飛び出た。


この数分で何があったのか。
新聞かテレビでマラソン選手が体調不良を押して完走したのを見て、これだ!と思ってしまったらしい。ちょっと感動して、走らせた方がこの子の為になる!と思ったようだ。

なんでこのとき、私は行かないと言わなかったのか。今思えば不思議だけれど
子どもだったのだ。
自分の体調を母の判断に委ねるなんて、本当に子どもだった。母がイケると判断したならそれはもういくのだ。行かなきゃいいのに!

毎年いつも真ん中くらいの順位で終わるマラソン大会。その年はビリだった。


そりゃそうだ。熱あるんだもの。
ぜーはーしながら走った。
朦朧としながら受け取った順位票の51を15と読み間違えたのを憶えている。

ほんの一瞬「え?過去最高記録だしちゃった?」と勘違いした。悲しい。
私はその後脱水症状で倒れた。



迎えに来た母は謝った。

「ごめんね。お母さん、走った方がさっちゃんの為になるかなぁと思って。」仕事から帰ってきた父に事情を話して母は怒られた。
「そんなの日頃から訓練したプロの話でしょうが」と言われて萎れていた。

いや言ってやってよ、ほんと。
ただでさえ長距離走って嫌い。風邪ひいてラッキーって思ってたのにさ。お母さんてほんとそういうところある。
思いつきで色々やる。双子座が過ぎる。


母はひょうきんものでもある。ママ友間でエピソードトークを展開されて恥ずかしかったことがある。


エレクトーンのレッスンは後ろで母たちが見学するスタイルだった。

その日、私が素麺を7杯お代わりした話で盛り上がっていた。
振り返ると他のお母さんたちが手と顔で7!ってやってくる。育ち盛りなんだよ。食べたよ!食べたけど7杯食べたなんて言いふらされたくないんだよ。多感な時期なんだよ!

帰り道は口をきかなかった。

母との思い出は沢山ある。
反抗も沢山した。嫌いなところも好きなところもある。
気が変わりやすくて思いつきで行動する母。頑固な私とは合わないところもあって良くぶつかった。


でも大人になって母に対しての気持ちを思い返すときに、嫌だったなぁと思うのは気が変わりやすいところではなかった。
本当に嫌だったのは母がいつも「自分は不幸だ」と言っていたことだった。


結婚するまで教師をしていた母は、嫁入りするときに「農家の嫁に本は要らない」と嫌味を言われたらしい。お味噌汁の具も毎日姑に確認しないといけなかった。
自分は不幸だ。こんなところに嫁に来なければ良かった。そう嘆く母を、子ども心に可哀想だと思っていた。お母さんの味方にならないと、と思った。
あの頃はわからなかったけど、母が自分を不幸だ、可哀想だ、というとき私は傷付いていた。

私がいてもお母さんは幸せじゃないんだ。私はお母さんを幸せにできない。
無力感なんて言葉は知らなかったけど、そういうものを感じていたのだと思う。


親子って不思議だ。
母は私の幸せを願ってくれていたはずだ。でも私は母が幸せではないことに傷付いていた。

今日、笑っている娘を抱きしめたとき、
世の中の幸せ全てを集めて抱いているような感覚になった。母もそう感じていたんじゃないかなと思う。そう感じることもあったし、姑にいびられて辛いという気持ちもあったのだろう。
完璧な幸せを探そうとすると、そうじゃない部分に目がいく。


18歳で上京したとき、母に連れられてアパートの近くの交番に挨拶に行った。この春から娘が一人暮らしするんです。どうぞ宜しくお願いします。


私は娘を送り出すことができるだろうか。目の届かない遠いところに行ってしまうことに耐えられるだろうか。
遠くに行かなくても口きいてくれない日が来るかも知れない。
想像したら寂しくなった。


寝る前にもう一度、娘の顔を見てから寝よう。今、娘はすぐそこにいて、すーすー寝息を立てている。







この記事が参加している募集

育児日記

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?