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K'ingsmanの熟成肉について。

K'ingsman、ディナーのメインである熟成肉。
「ドライエイジング」いわゆる乾燥熟成。

ひょんなことから、この「熟成肉」というものに出会ったのですが食べれば食べるほど、その味の深さ(面白さ)に魅了されたのです。

僕の熟成肉を知る事になったキッカケは、とある肉屋の親爺さんです。本当に肉が大好きで肉に対する愛がすごい人。
その方は独学で熟成肉を研究し、自身で美味い肉を食べる為に肉の熟成を始めたそうな。
その方と出会い、色んな熟成肉を食べさせてもらった経験から店でも熟成肉を扱う事を決意しました。

なぜ熟成肉?

それは唯一無二だったからです。

世間的に美味い肉とか良い肉って[A5]という格付けだったり、有名なブランド牛でしょう。

それらの牛は本当に優秀で素晴らしい。
料理人が上手に調理すれば素晴らしい料理になるのはもちろん、料理もした事ないあんちゃんがササっと焼いて好きなタレでも潜らせれば美味い飯になる。そんな肉だと僕は思っています。
肉になったその場から優秀だからこそ熟成も必要ないし高値がつけられてる訳です。
その優秀な肉は今や多くのところで手に入り、多くの飲食店や家庭の食卓にまで届いていますね。

力士であった時代に多くの方に美味いものをご馳走になり、魚介類や野菜や果物はその地方の飛び切り美味い!があったのに対し、肉はどの地方のどの肉を食べても全部おいしい、全部同じ感動値で味付けでの差しか感じていませんでした。

引退後に出会った熟成肉は一口食べるなり未知な味、目を見開く美味さだったのを覚えています。
味付けは塩のみ。腕のいい料理人がどんなに頑張って調味しても、この香りや味わいは出せないと熟成をした肉のポテンシャルに撃ち抜かれ、これをみんなにも知って欲しい、食べてもらって美味いと言わせたいと思ったのです。


現在うちで提供している肉の主軸は和牛の経産牛。「お産を経た牛」=お母さん牛ですね。
他にもホルスタインの経産牛、黒豚の熟成肉も。
なぜこの経産牛を使っているかというと今まで食べた熟成肉で1番うまいと思ったから。
それだけです。

何度もお産した牛は最後は痩せこけ、種が付かなくなり役目を終える。じゃあ、あとはその母牛をペットとして〜なんて世界ではない訳です。

痩せた経産牛って廃用牛とか言われて通常だと加工品にしかならないような牛。ペットフードや肥料になったり、スーパーの売り場に肉として並ぶようなものではありません。
けど生産者によっては再肥育といっていい餌を与えて少しでも肉をデカくし太らせてとする方もいて、そんな経産牛の肉がうちの熟成庫に眠っています。この時点で手が掛かっているのです。

熟成期間は様々。60〜90日、100日を超えた肉もあります。肉の仕上がりを見つつ自身もまだまだ勉強中です。
A5の牛などとは違った肉としての価値の薄い経産牛ですが熟成する事により化けます。

寝かせる事により肉自身が持っている酵素のおかげでタンパク質が分解され、旨味であるアミノ酸に変化していく。またその分解される事で肉質自体も程よく柔らかくなる、というより解けていくという表現がしっくりくる感じ。
その期間に菌や微生物の働きにより熟成香というものをまとっていく、というのがざっくり熟成の仕組み。温度や湿度の管理をしながら、優しく風を当てドライエイジングをさせています。

数年前に「熟成肉」というワードが流行り独り歩きしていた時代があり、いわゆるなんちゃって熟成肉を扱う店が多くあったと思います。
熟成肉って未だに定義がないので2〜3日でも冷蔵庫に入れておいた肉でも熟成肉と謳えるのが事実。そのワードだけを掲げた肉を食べても?????って感じです。ずばり「保存」でしょうからね。熟成肉というワードを掲げるなら、それなりの覚悟も必要かと。

僕は素人でしたが本気です。
熟成肉の味に関しては本当にまだまだと自分では思っており試行錯誤してます。
ブランドの牛や豚、肉としての価値は違えど命の価値としては違い無し。むしろ何度も何度もお産を繰り返した母親牛はそれ以上の価値になる資格があるはず。熟成という方法でA5ランクの牛とはまた違う価値を見出し、最後はうまく焼いて人へ。

これが僕がいま店に立つ意味です。
うちの肉を食べる理由をとやかくは言いませんが「何でもいい」という理由で食べてもらうより、どんな肉なのか。というのを知ってもらって食べて貰いたいのが本音です。
とは言え上手くできてこその話だとは思うので、そうなれるように、自信を持って最高の肉だと出せるように歩みをしていきます。

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