見出し画像

生産的な不確実性 (1/3)

ベンチャー投資家としては、素晴らしい新技術を開発している企業を支援したいと思うものです。しかし、それは既存の技術を新しい方法で利用している企業に投資するよりも、うまくいかないことが多いのです。新しい技術の方が長期的な社会的インパクトは大きいですが、新しい市場の方が良い投資になります。

新しい市場は小さく始まり、そのインパクトは人々が慣れ親しんだものとは異なる尺度で測られるため、しばしば「空飛ぶ自動車が欲しかったのに、手に入れたのはたった140文字だ」と揶揄されます。観察を装ったこの警告は、ベンチャー投資家を迷わせます。新しい市場である140文字はスタートアップの投資としては優れていましたが、新しい技術である空飛ぶ自動車は劣っていたのです。例えば、空飛ぶ自動車よりも多くの人が存在を望んでいる新技術、クリーンテックを考えてみましょう。

2007年、伝説的なベンチャー投資家であるジョン・ドーアは、「グリーンテクノロジーは、21世紀最大の経済的機会になるだろう」と述べ、クライナー・パーキンス社にクリーンテックへの2億ドルの投資を約束しました。2006年から2011年の間にクリーンテック分野に投じられた250億ドルのうち、回収されたのは半分に過ぎず、大失敗だったのです。なぜでしょうか?

MIT Energy Initiativeは、「革新的な科学技術を商業化しているクリーンテック企業は、特にVCの投資モデルには適していない」と述べています。その理由は、「新しい科学の仕組みを解明するには時間がかかる」からであり、「買収先となりそうな企業は、リスクのあるスタートアップを買収することはほとんどなく、将来の成長見通しにプレミアムを支払うことを嫌う」からだとしています。

世界経済フォーラムは、この失敗から3つの教訓を宣言しました:

1. エネルギー投資は本質的に資本集約的になりやすい
2. 規制は重要である
3. エネルギー分野では、すべての分野や技術が同じように成長するわけではない

この3つは(些細なことですが)真実です。しかし、ベンチャー投資家が見誤ったことでもありません。例えば、クライナー・パーキンスは、規制が重要であることを見落としていませんでした。

実際に起こったことはこうです:投資家たちは、製品が競合他社の製品よりも優れているスタートアップに賭けたのです。良いことのように聞こえますが、これは間違った戦略です。つまり、競争相手のいる企業に賭けたのです。投資家が必要としているのは、最初は競争相手が少なく、後になって競争を防ぐためのモートを作ることができる企業なのです。新しい優れたテクノロジーを成功の条件とするスタートアップが、イノベーターから支配的プレーヤーへと進化することはほとんどありません。技術それ自体はモートではなく、新しい技術を提供することを前提とした企業がモートを築くことはほとんどありません。投資家は、新しい市場に参入している企業に投資する必要があります。

この投稿は、5年ほど前に書いたなぞなぞに答えようとするものです。

技術的なリスクはリターンにとって恐ろしいものなので、VCは技術的なリスクを取らない...VCは常に技術的なリスクが軽減されるまで待っていた...一方、市場リスクはVCのリターンに直接相関している。

このことは、当時から気になっていました。リターンを決定する上で、なぜ技術リスクと市場リスクに違いがあるのか。

5年後の私の答えは、「重要なのはリスクではなく、不確実性である」というものでした。

改めて、いくつかの背景を説明します。

シュンペーターと戦略』で私は、企業はイノベーションによって超過利潤を生み出し、そのイノベーションがコピーされないように保護することで超過利潤を生み出し続けることができると主張しました。完全競争市場では、競争によって経済的利益はゼロになります。企業が過剰な利益、つまり「起業家の利益」を得るためには、競合他社とは違うことをしなければなりません。その結果として得られる超過利潤は、そのイノベーションが競合他社に模倣されるまでしか続きません。企業は、イノベーションを導入してから模倣されるまでの時間を長くして、超過価値を高めることができますが、そのためには、参入障壁(モート)を設ける必要があります。

画像1

モートの分類』で私は、スタートアップに超過価値を生み出すことのできる唯一のモートは不確実性であると主張しました。この議論には2つの要素があります。第一に、スタートアップが設立される前にモータが存在していた場合(例えば特許)、不確実性がなければ、この特許は少なくともスタートアップが特許から得られる金額と同額で売却することができます。この場合、スタートアップが超過価値を生み出すことはなく、特許に内在する価値がすでに存在しています。第二に、もしスタートアップがモートを持ってスタートできないのであれば、時間をかけてモートを構築しなければなりません。不確実性は、モートを築くのに十分な期間、競争を防いでくれます。

不確実性とは、リスクとは別の意味です。つまり、「ナイトの不確実性」、つまり、何が起こるかを確率的にも予測できないということです。この概念については、『スタートアップと不確実性』で詳しく説明しています。スタートアップがイノベーションを追求するときに何が起こるか予測できないことで、他の企業は競争に参加することができません。彼らはチャンスを見て、「おもちゃみたいだ」とか「そんな市場はない」などと言うでしょう。スタートアップが成功し始めると、彼らは再評価しますが、賢いスタートアップはそれまでにモートを築いています。不確実性は、スタートアップに時間と競争の無い空間を与えます。

超過利潤がない企業にも価値はありますが、それは同程度のリスクを持つ資産の市場リターンとほぼ同じであり、「ベータ」ばかりで「アルファ」がないのです。ベンチャーキャピタルがアルファを求めるのであれば、不確実な機会に投資しなければなりません。

すべての超過利潤はイノベーションによって生み出されるので、VCはイノベーションを起こす企業に投資しなければなりません。また、ベンチャーキャピタルが良いリターンを得るためには、実質的な超過価値がなければならないため、ベンチャーキャピタルは不確実性に直面している企業に投資しなければなりません。しかし、逆は真ではなく、不確実性に直面しているすべての企業が良い投資対象となるわけではありません。例えば、新技術を導入する企業よりも、新しい市場に参入する企業の方が、VCははるかに利益を上げやすいようです。

これは、クレイトン・クリステンセンが『イノベーターのジレンマ』で気づいたことと似ています。クリステンセンは、ディスクドライブのスタートアップの生存率を調べ、新しい市場に進出するスタートアップは、新しい技術を使うだけのスタートアップよりもはるかに成功しやすいことを発見しました。

画像2

彼は、成功している企業は既存の顧客のニーズに応えることに注力しており、非顧客のニーズは軽視します。しかし、新しい市場はその非顧客によって構成されます。一方で、新しい技術が既存の顧客のために製品を改善するものであれば、既存の顧客はその技術を求め、既存企業はすぐにそれを採用します。スタートアップは資金力のある既存企業との直接競争には勝てないため、既存製品を改良する新技術を提供してもほとんど生き残れません。代わりに、既存企業がサービスを提供していなかった顧客層に何かを提供しなければなりません。このような新しい顧客にサービスを提供して利益を得ることができるのは、新しい技術である場合もありますが、重要なのは新しい技術ではなく、新しい市場です。

しかし、このような事例には、反面、理論的な問題もあります。Genentech社が遺伝子操作されたバクテリアによって製造された合成ヒトインスリンを発表したとき、このスタートアップは新しい技術(遺伝子操作)で既存の市場(ヒトインスリン)に参入することに成功しました。一方、アマゾンの既存の顧客(オンラインショッピングの利用者)は、新しい市場であるクラウドコンピューティングを求めていませんでした。それにもかかわらず、アマゾンは主要な競争相手の1つとなりました。前者はスタートアップが既存市場で新技術を使って成功し、後者は既存の会社が新市場で成功したのです。どちらもクリステンセンの教訓を無視しているように思えます。

なぜ既存の企業は、新しい技術がうまくいっているのを見たらすぐにコピーするのに、新しい市場がうまくいっているのを見てもすぐには参入しないのでしょうか。新しい市場は小さく始まり、取るに足らないもののように見えるというクリステンセンの答えは、新しい技術の場合にも適応できます。新しい技術もおもちゃのように見えるのです。ディスラプションの議論は真実味がありますが、漠然としています。なぜ既存の企業は、一方では適応できても、他方では適応できないのでしょうか。

その答えは、彼らが適応するためには、新技術や新市場の不確実を擁する必要があるからです。既存企業は不確実性を強く嫌うので、不確実性が軽減されるのを待ちます。しかし、スタートアップは、新市場の不確実性が高いうちにモートを築くことができます。それは新技術ではできません。

Part2へ続く

🚀🚀🚀

原文:Productive Uncertainty
著者:Jerry Neumann
免責事項
当該和訳は、英文を翻訳したものであり、和訳はあくまでも便宜的なものとして利用し、適宜、英文の原文を参照して頂くようお願い致します。当記事で掲載している情報の著作権等は各権利所有者に帰属致します。権利を侵害する目的ではございません。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?