安久都智史/とろ火

その人を“その人”たらしめるドロッとしたものを探る「とろ火」という活動をしています。h…

安久都智史/とろ火

その人を“その人”たらしめるドロッとしたものを探る「とろ火」という活動をしています。https://torobibook.com/ noteでは日々の生活を。妻とお子がだいすきです

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小ささの大きさ日誌〜生後6ヶ月目〜

“年”という単位があるからか、なんとなく1年を大きな区切りとして意識してしまう。誕生日や年始などに「今年の目標は?」「こんな1年にする!」という言葉が出てくるように。 そんな意識は、このあいだ生後7ヶ月を迎えたお子に対しても同じなのだけれど、1年という区切りに向けて折り返し地点を過ぎたらしい。え、1歳が近いの? 嘘でしょ? 「いや、あと5ヶ月もあるし。まだまだやん」と冷静になだめる自分を、「なんでやねん!5ヶ月なんて秒で過ぎたやろ!」と激しくツッコむ自分がいる。 そう、

    • 短歌にふれる 十五首目:海の恍惚さ

      このシリーズは、短歌に惹かれはじめた筆者が「あ、いいな…」と思った短歌の、「いいな」を味わってみる試みです。日課にしていきたいので、500〜1000字で。直感は見つめ過ぎたら逃げていく。 追記)明日から、週単位での更新にしようかと思います。 ――― 今日は佐藤佐太郎さんの歌を。 夜の静けさが満ちている。勝手に夜が浮かんでいたけれど、こうして情景をパンっと浮かばせてくる歌は、やはり心を立ち止まらせてくる。その佇みからは、自分だけの意味が漏れ出てくるから面白い。 なんで

      • 短歌にふれる 十四首目:軽やかに冷や汗をかかされる歌

        このシリーズは、短歌に惹かれはじめた筆者が「あ、いいな…」と思った短歌の、「いいな」を味わってみる試みです。日課にしていきたいので、500〜1000字で。直感は見つめ過ぎたら逃げていく。 ーーー 今日は伊舎堂仁さんの歌。ネットで見つけた歌で、『感電しかけた話』という歌集に載っているとのこと。 “狂ってる”ことのなにが怖いかって、狂ってるというラベルが貼られるためには、別の文脈に存在する他者が必要ということで。逆に言うと、ひとり残らず狂っていたのなら、それはもはや“正常”

        • 短歌にふれる 十三首目:死に相対する無心

          このシリーズは、短歌に惹かれはじめた筆者が「あ、いいな…」と思った短歌の、「いいな」を味わってみる試みです。日課にしていきたいので、500〜1000字で。直感は見つめ過ぎたら逃げていく。 ーーー 今日も楠誓英さんの歌を。『薄明穹』という歌集に載っている歌。 この歌を読んで、なぜか脳裏に浮かんだのは、「蟻の群れを踏みつける無邪気な子ども」の映像だった。雪に傘を刺す人物に無邪気さはないと思うけれど、「死」という眼差しで見ると、きっと同じ。 蟻を踏む子は、「こうしたら蟻って

        小ささの大きさ日誌〜生後6ヶ月目〜

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        • 小ささの大きさ日誌
          8本
        • 生活者の探究
          3本

        記事

          短歌にふれる 十二首目:鈍さが心地よい歌

          このシリーズは、短歌に惹かれはじめた筆者が「あ、いいな…」と思った短歌の、「いいな」を味わってみる試みです。日課にしていきたいので、500〜1000字で。直感は見つめ過ぎたら逃げていく。 ーーー 楠誓英さんの歌。『薄明穹』という歌集で出会った歌。 この歌の周囲だけ、重力が普段の1.5倍くらいになっている気がする。心も身体も、ちょっと下に沈む。ただ、それはいわゆる「沈んでいる=落ち込んでいる」という感覚ではなく、足の裏の感覚がより強く起き上がってくる感じ。 僕たちは、簡

          短歌にふれる 十二首目:鈍さが心地よい歌

          短歌にふれる 十一首目:両端が結ばれるような歌

          このシリーズは、短歌に惹かれはじめた筆者が「あ、いいな…」と思った短歌の、「いいな」を味わってみる試みです。日課にしていきたいので、500〜1000字で。直感は見つめ過ぎたら逃げていく。 ーーー 今日も、野口あや子さんの歌。3日目。引き続き、短歌研究社さんから出ている歌集『くびすじの欠片』で出会った歌を。 “ほどける”という言葉が好き。しっかりとした結び目だったという過去が、影のように寄り添っている言葉。堅くぎゅっと結ばれていたのに、空白がうまれ、そこに感情が飛び込んで

          短歌にふれる 十一首目:両端が結ばれるような歌

          短歌にふれる 十首目:痛くて、命綱になる歌

          このシリーズは、短歌に惹かれはじめた筆者が「あ、いいな…」と思った短歌の、「いいな」を味わってみる試みです。日課にしていきたいので、500〜1000字で。直感は見つめ過ぎたら逃げていく。 ーーー 今日も、野口あや子さんの歌。引き続き、短歌研究社さんから出ている歌集『くびすじの欠片』で出会った。 希望というには儚いけれど、指の先がたしかにひっかかる命綱、のようなものが胸に芽生える歌だと思う。多分だけれど、死者も生者も含めた「わたしたち」のやわらかいところ。 命綱でもあり

          短歌にふれる 十首目:痛くて、命綱になる歌

          短歌にふれる 九首目:自分を貫く必然性

          このシリーズは、短歌に惹かれはじめた筆者が「あ、いいな…」と思った短歌の、「いいな」を味わってみる試みです。日課にしていきたいので、500〜1000字で。直感は見つめ過ぎたら逃げていく。 ーーー 今日は、野口あや子さんの歌を。短歌研究社さんから出ている歌集『くびすじの欠片』で出会った歌。 この歌を見て心に浮かんだものはなんなのだろう…と考えながら、15分ほど空白のエディターを見つめていた。その真っ白にも、色がついたような感覚で。ずっと味わえそうな気がした。この歌の情景を

          短歌にふれる 九首目:自分を貫く必然性

          短歌にふれる:八首目

          このシリーズは、短歌に惹かれはじめた筆者が「あ、いいな…」と思った短歌の、「いいな」を味わってみる試みです。日課にしていきたいので、500〜1000字で。直感は見つめ過ぎたら逃げていく。 ーーー 今日も引き続き、短歌ムック『ねむらない樹 vol.1』で知った歌を。柳宣宏さんの歌集『与楽』に載っている歌です。 眩しい歌だ。きらめいている。でもこのきらめきって、なんなのだろう。 センス・オブ・ワンダーという言葉がある。レイチェル・カーソンという書き手が残した言葉で、「自然

          短歌にふれる:八首目

          思考の共犯者と手をとりたくて。とろ火のWebができました

          昨年はじめた、「その人を“その人”たらしめるドロッとしたものを探って、迷い、書を読み、語りあう」を掲げた活動「とろ火」のWebページができました。 独学でWordpressをぽちぽちして作ったにしては、とてもお気に入り。細々と5ヶ月くらい戦った甲斐がありました。とはいえ、細かな点を見落としていたり、至らなかったりだと思うので。「ここおかしいよ!」があれば教えてください。 とろ火の活動記録としてはもちろん、ひとつのメディアとしても育てていきたい場所。どうぞよろしくお願いしま

          思考の共犯者と手をとりたくて。とろ火のWebができました

          いい感じの短歌研究:七首目

          このシリーズは、僕が「あ、いいな…」と思った短歌の、「いいな」を考えてみる試みです。日課にしていきたいので、1000字以内。直感は見つめ過ぎたら逃げていく。 ーーー 今日も、短歌ムック『ねむらない樹 vol.1』で知った歌を。伊藤一彦さんの歌集『微笑の空』に載っている歌です。 この歌を見たとき、ふと松尾芭蕉の有名な俳句が頭に浮かんだ。 「閑さや岩にしみ入る蝉の声」 いろんな解釈があるだろうけれど、この句では自然や世界の途方もなさが伝わってくる気がする。 ちょうどい

          いい感じの短歌研究:七首目

          いい感じの短歌研究:六首目

          このシリーズは、僕が「あ、いいな…」と思った短歌の、「いいな」を考えてみる試みです。日課にしていきたいので、1000字以内。直感は見つめ過ぎたら逃げていく。 ーーー 今日は、短歌ムック『ねむらない樹 vol.1』で知った歌を。木下こうさんの『体温と雨』に載っている歌。 小さなころの記憶って、なんで冷凍保存されているんだろう。言葉ひとつで解凍されて、ありありと味わうことができる。熟成されている気もするし。 この歌で「さういふ感じ」という言い回しがされているけれど、これは

          いい感じの短歌研究:六首目

          いい感じの短歌研究:五首目

          このシリーズは、僕が「あ、いいな…」と思った短歌の、「いいな」を考えてみる試みです。日課にしていきたいので、1000字以内。直感は見つめ過ぎたら逃げていく。 ーーー 今日も引き続き、蒼井杏さんの『推しとショボンヌ』に収録されている歌を。 歌集をぱらぱら見ていて、「あ、これ好き」となった歌。よくよく読んでみると好きになる歌と、ぱっと飛び込んでくる歌がある気がする。不思議。その違いも考えてみたい。 この歌は、なぜ僕に飛び込んできたんだろう。 はじめに思ったのは、「これは

          いい感じの短歌研究:五首目

          いい感じの短歌研究:四首目

          このシリーズは、僕が「あ、いいな…」と思った短歌の、「いいな」を考えてみる試みです。日課にしていきたいので、1000字以内。直感は見つめ過ぎたら逃げていく。 ーーー 昨日と同じく、蒼井杏さんの『推しとショボンヌ』に収録されている歌を。 単語の意味はわかるし、文章としても滑らかに読めるのに、読み終わると「なんかちょっと違う世界を覗いたみたいだぞ…」と感じる歌、な気がする。「ああ、そういう場面ね…って、知りませんけど?」みたいな。 まずは前半。ひとつぶのみずが耳から出てい

          いい感じの短歌研究:四首目

          いい感じの短歌研究:三首目

          このシリーズは、僕が「あ、いいな…」と思った短歌の、「いいな」を考えてみる試みです。日課にしていきたいので、1000字以内。直感は見つめ過ぎたら逃げていく。 ーーー 蒼井杏さんの『推しとショボンヌ』に収録されている歌。 部屋から外の雨模様を眺めながら、予定のない一日を憂う…といった、言ってしまえばありきたりな絵が浮かぶのに、なんで雰囲気を持っているんだろう。 雰囲気という言葉で逃げるのは良くないか。なんてことのない景色も、視点を変えてフィルムカメラで切り取れば、そこに

          いい感じの短歌研究:三首目

          いい感じの短歌研究:二首目

          このシリーズは、僕が「あ、いいな…」と思った短歌の、「いいな」を考えてみる試みです。日課にしていきたいので、1000字以内。直感は見つめ過ぎたら逃げていく。 ーーー 穂村弘さんの『短歌ください 君の抜け殻篇』に収録されている、後藤葉菜さんの歌。 ぱっと浮かんだのは、「取り戻せないもの」という単語だった。 どんな時代にも色はある。世界は、いま僕が感じているような色合いを帯び続けている。なのに、僕たちはそんな事実を忘れてしまう。白黒写真や映画の影響で、ここ数十年でようやく

          いい感じの短歌研究:二首目