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きったねぇ~ホームレス女に親切にしたら、人生が楽しくなった。(5)

  (5) ゆっくりだな。うん、ゆっくりいこう。

貝野瀬 菜月(かいのせ なつき) 16歳
高校へ行っていれば、高校一年生。
中学生の頃から家出を繰り返す。捜索願いを出された事は無い。
警察からの連絡で、迎えに来いと言われたら、母親の貝野瀬由香里が来る。
由香里はスナックで働いている。夕方出勤で夜中や明け方に帰ってくる。帰らない日もあった。
菜月、家には時々帰った。家といっても市営住宅。古い団地の3階。

夜中の繁華街をうろついていた頃、顔見知りになった爺さんに、掃除の仕事を手伝わないかと言われ、手伝った。
その爺さんは小さな清掃会社の社長だった。70歳や80歳のお爺さんやお婆さん達とその仕事をしていた。
閉店後のパチンコ屋、レストラン、夜明け前の飲食店ビルの清掃。
「お前、この前からこの辺りをうろついていたろ。危なっかしくてよ。気になってたんだ。うちに来い。」と言ってくれた。
まだ、中学生の年齢だったので、社員やパートとかではなく、アルバイトとして働いた。その給料を持ってたまに家へ帰る。
高校へは行かず、清掃会社へ就職。その会社で寝泊りを始める。
でも、その爺さん、倒れてしまった。会社は人手に渡る。菜月は出て行く。

父親は家に帰ったり、帰らなかったり。建築用の足場造りの職人。昔で言うとび職。
気性が荒く、横柄な態度で評判は悪く、近隣での仕事は回ってこない。地方の山間部での仕事が主に来る。
神社や寺、橋や歩道橋の工事の足場造りの為、毎週の様に向かい、4,5日帰って来ない。
帰って来ても、会社で次の現場用の準備をし、トラックに積み込む。その後は馴染みのスナックへ入りびたる。

清掃会社から出て、ふらふらしていた頃、お金を得る為にサラリーマン風の男達に声を掛けた。
男性経験は無かったが、そうでもしないとお金が手に入らない。覚悟を決めた。
週に一人か二人。ラブホに入ると風呂に入り、身体と頭を先に洗わさせてもらう。数ヶ月続けたそんな折、優しそうな人から一晩中、酷い事をされた。
顔を殴られ、腹を殴られ、首を絞められ、お尻を赤く腫れるまで叩かれ、男の物を口の中へ、喉まで押し込まれ、お尻の穴に押し込まれ、
それをしゃぶらされて、泣きながら、喚きながら、謝っても、続けられ、携帯で動画を撮られ、3万円渡された。

それからひと月の間、公園とかに寝泊まりした。ホームレスのおじさん達が居る所にも行ったが、怖くて一緒にいられなかった。
色んな公園へ行った。公会堂や体育館、文化センターとかの建物の陰でも寝た。段ボールはスーパーから調達した。

お金も無くなり、怖いけど、男の相手をそろそろ始めようかと思っていた頃、代々木上原の公園であのおじさんに”へ”をかまされた。
でも、焼きそばを食べても良いと言ってくれた。お風呂に入りに来いといってくれた。
【信用して良いのか?また、酷い事されるのか?今度は殴られても殴り返してやる。】優しそうな人だった。でもヘラヘラしてなかった。
時々、怖い様な困った顔をしたが、何を考えているのか分からなかった。そう思いながら、【風呂に入りたい、金が要る。】の思いが勝ち、その男に連いて行った。
家には帰りたくなかった。すぐに怒る父親と母親が怖かった。

「起きたか?」ドア越しに声を掛ける。朝8時。暫くしてドアが開く。髪は爆発していない、多少の寝ぐせはある。
「おはよう。」「おはよう、、、ございます。」
「カフェオレで良いか?」「はい。」
「買い物さあ、まず、何が欲しい?何かあるか?」「分かんない。」
「う~ん、まずは下着か。パンツとブラ。ブラトップとか言うのも便利だそうだ。」「うん、、、」
「それから、服だな。シャツやスカート、好きな物選べ。」「……うん。」
「生理用品は、残ってるのがあるが、自分が気に入ったものを買いなさい。」「……なんでそんなもんがあるんだ?」
「半年前まで、彼女が居た。そいつのだ。」「巨乳の彼女か?」「そうだよ。」「ふ~ん」

サトーココノカ堂多摩センター店で買い物をした。
下着、普段着、部屋着など。思いつくままに。
最初は遠慮していたが、見て回る時間と共にあれもこれもと買い物籠の中身は増えていく。
【こんな買い物、普通、母親とするもんじゃないのかな?こいつ、一緒にしてこなかったかもな?】何となくそんな気がした。
お昼は何にする?と聞いたら、フードコートって答えた。レストランでも良いぞ。ううん、タコ焼きとラーメン。ソフトクリームが食べたいと言った。

「買ってきた物はクローゼットの中の衣装ケースに入れておけ。今ある物は段ボールに入れておくから。
 この部屋は今日から、お前の部屋として使え。そうだ、お金はあるか?この前の3万円はどれくらい残ってる?」
「2万円ちょっと。ネカフェ代くらいしか使ってない。」
「そうか、無くなりそうなら言えよ。またやるから。」
「……なあ、おじさん、、、何でそんな事してくれるんだ?、、、身体目当てか?なら、やっても良いぞ。」菜月、低い声になった。
「俺、もう41歳だ。20代前半で結婚してりゃ、お前みたいな子供がいても不思議じゃないよな。
 お前、いや菜月は子供に見えちまうんだ。一度そう思うと、手が出せねえ。」
「他の男は平気だぞ。おじさんがおかしいのか?」
「はあ?、おかしいか?、、、おかしい奴とおかしくない奴と割合なんて分かんねえけど、少なくとも俺は平気じゃねえ。」
【やっぱり、こいつは放っておけねえ。学校もろくに行ってねぇって言ってたし、躾とかして貰えなかったかもしれねえな、、、なんか、悲しいな。】

「ふ~ん、分かんねえ、、でも、ありがと。居させてもらえて、、、なんか出来る事ないか、オレに。」
「出来る事ねぇ、、、掃除からするか?そこのフローリングワイパーで。」
「フローリングワイパー?」
「テレビの横にある、長い棒のついた白い板だ。それにウエットティッシュみたいな物を着けて、床を拭くんだ。やってみるか?」
「うん、やってみる。」菜月、明るい声になった。
「テレビの後ろに籠がある。その中にワイパー用のウエットティッシュがあるはずだ。」
「これか?」菜月はウエットティッシュとワイパーを手に持ち、俺の所へ持ってきた。
「オレ、これの大きいの見た事ある。爺さんの会社で、、、」
「おっ、仕事してたのか?働いてたのか?また、そこに行けば良かったのに。」
「うん、その爺さん、病気になってその会社、人の物になったから、、、もう行けねえ。」
「そうかぁ~、……って~事は、清掃会社か?その爺さんの会社って、、、そこで何してたんだ?」
「洗面所や椅子の雑巾がけ。道具は使わせて貰えなかった。」
「ふ~ん、、これは家庭用のちっちゃい奴だけど、一応、道具だな。」
健太郎はウエットティッシュを一枚取り、ワイパーの板に被せる。長い辺を折り、板の反対側の切れ込みに押し込んで見せる。
「こんな風にセットするんだ。やってみるか?」ワイパーから今着けたティッシュを外し、菜月に渡す。
「うん、やってみる。」菜月、また明るい声で答える。
ソファーに座り、ワイパーの板を自分に向け、ティッシュを板に被せる。反対側へ押し込もうと板を動かすと、ティッシュが外れて落ちる。
「あれ~。なんで~。」
「切れ込みの位置を指で覚えておいて、板を動かさない様にしてごらん。」
「指で覚える?、、、そんな事出来るう~?、、、え~」
「やってごらん。」健太郎、顔は笑いながら応援する。
菜月、再度挑戦。また落ちる。板を動かしてしまう。
今度はティッシュを被せる前に、反対側の切れ込みを探しておく。なんとなくここ。
菜月、再々挑戦。ティッシュを被せた後、今度は両手で板を支えながら、ここら辺りと切れ込みへティッシュを押し込んでみる。
4ヶ所の内、3ヶ所切れ込みにハマった。
「やったっ!出来た、、、あっ、でも、一か所が、、、」
「もう落ちないから、ひっくり返して入ってないとこ入れてみっ。」
「出来た!。出来た、、、出来た。」
「うん、出来た。」健太郎、褒めてあげようと、撫でで上げようと、左手を菜月の頭へ近づけた。
健太郎の方を見た菜月、近づく左手を見て、、、

「ヒッ!、、いやっ!、、、止めてっ!、、、ごめんなさい!」ワイパーを放り出し、両手で頭を抱えた。怖がっている。

「あっ、ゴメン、、、いや、、、、大丈夫だから、、、急に、ゴメン。」健太郎、驚いた。何がいけなかったか判らなかった。
菜月、頭を抱えたまま、膝に突っ伏したまま。
健太郎、肩に手を置こうとするも、また、菜月がまた何かの反応をするかと思うと出来なくなった。
「菜月、ゴメン。悪かった。殴らないから、絶対に乱暴なことしないから、、、大丈夫だから、、、顔、あげて。」
そう言われて、少しづつ頭を上げる菜月。上げながら健太郎を見る。健太郎は引き攣った感じで、優しく笑っている。
「ごめん、、、思い出した、ちょっと。……もう、大丈夫。平気、、、」
”す~ふ~、す~ふ~”と深呼吸する菜月。

【こりゃ、考えているより大変だぞ、、、腕の傷の事もあるし、、、、追い出しとけば、良かったのか?】

「で、これ、どうすんの?床を拭くの?やって見て良い?」菜月、誤魔化すように明るくしている。
「ああ、先ずは見えてるところをやってごらん。慣れてくれば、置いてあるものを動かしながらすれば良い。」
「うん、やってみる。」菜月、動き始める。
健太郎、菜月を見ながら【ゆっくりだな。うん、ゆっくりいこう。】自分に言い聞かせる様に思った。

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