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外国人の生活保護

外国人の生活保護に関する報道記事を見たので、過去に某所で書いたことも含めて、記事にまとめてみることとした。

なお、法の専門家ではないので、法解釈の正確性は紹介書籍や紹介サイト、さらに正確性を望むなら弁護士相談などで補完してほしい。

報道記事

私見まとめ

個人的には、今の日本の状況においては、外国人の生活保護を認めないとする立場。過去の裁判、塩見訴訟判決(最一小判平元.3.2)で取り上げられている理由が依然として、理由であり続けると考えている。

過去の裁判やそれに関連する解説書籍などを交えて、記すこととする。

過去の裁判と解説書籍

塩見訴訟判決

まず『新コンメンタール憲法第2版』から抜粋する。

 最高裁は、いわゆる塩見訴訟判決最一小判1989(平1)・3・2訴月35巻9号1754頁)において、国民年金法の国籍条項について憲法25条・14条違反の主張を斥けたが、その理由づけは、外国人による社会権の享有を原理的に斥けるものではなく、「限られた財源の中で福祉的給付を行うに当たり、自国民を在留外国人より優先的に扱うことも、許される」という立法裁量論によるものであった。

新コンメンタール憲法第2版』p.121

裁判は約33年前のこと。日本はその頃から経済成長できていないと言われる。「失われた30年」と揶揄されることもある。多くの野党はそのように政権批判する。メディアはしばしばそのように政権批判する。今朝の情報番組でも、政治資金問題に絡めて「失われた30年」との関連を批判していた。このように、先の裁判の頃から日本の経済的状況は改善していない。

このような経済状況の日本は、在留外国人に十分な福祉的給付を行うだけの経済力を持ち合わせていない。それが故、裁判で示されているものと同じ理由、限られた財源の中では、自国民を在留外国人よりも優先的に扱うことはやむなしと、個人的には考える。

今後の日本経済の改善状況によっては、在留外国人に対する福祉的給付をより拡充することに否定はしない。しかし現状は、そのような経済状況にないと考える。

また、福祉的給付を拡充するとしても、拡充後に再度経済悪化するようであれば、再縮小されるべきとも考える。その観点で、福祉的給付を拡充するに先立ち、どの程度の経済状況ならどの程度拡充するか、事前に定めておくべきとも思う。

日本では、ひとたび制度が設けられると、なかなか変わろうとしない面があるように感じる。前提条件が変わっていてもなお、同じ制度を適用し続けようとする面があるように感じる。ならば、開始する時点で、終了条件や一時停止条件を決めておく必要があると思う。それは、外国人への福祉的給付の拡充にもいえることと思う。

社会権における考え方の変遷

前項に紹介した書籍抜粋文章の前には、社会権における考え方の変遷が記されている。

 社会権は、「人間らしい生存」の保障のため国家に対して作為を求める権利であり、かつては国籍国に保証を求めるべきとして、外国人の享有を否定的に解する見解が支配的であった(宮沢・憲法2・242頁(ただし、無国籍人については、国民に準じて、社会権の享有を認める))。しかし、国際的な人権保障の進展により、社会保障の領域においても内外人を平等に扱うべきとの概念が広がり(国際人権規約A規約2条2項)、1951年に採択された難民条約は、社会保障に関する内外人平等を明確に規定した。日本は難民条約を1981(昭和56年)年に批准し、それに伴って、生活保護を除く国民健康保険、国民年金などの社会保障制度における国籍条項が撤廃された。……

新コンメンタール憲法第2版』p.120

ここにあるように、社会権を在留外国人にも拡充する動きが見られる。では生活保護はどのようになっているか。これは同書籍の備考に記されている。年表形式でまとめると以下のようになる。

1946(昭和21)年 旧生活保護法:国籍条項なし
1950(昭和25)年 新生活保護法:国籍条項あり
1954(昭和29)年 旧法→新法で適用除外となった者への適用許可の通達
1990(平成2)年 適用を定住者に限るとの口頭指示

1950年改正で国籍状況が設けられた理由はよく分からなかった。生活保護法が憲法25条の生存権に基づくこと、憲法25条では「すべて国民は、……」とされており、字義的には日本国民に限ること、前記のように国際的な人権保障の考えはそこまで広がっていたわけでないこと、このあたりの理由によるものと推測する。

1990年指示の部分は、書籍で以下のように解説されている。

……。しかし、生活保護の予算抑制と非定住外国人(短期滞在およびオーバーステイの外国人等)の増加に伴い、1990(平成2)年、厚生省より、生活保護対象外国人は定住者に限る、非定住外国人は生活保護法の対象とならないと口頭で指示が出されている。最高裁は、「外国人は、行政庁の通達に基づく行政措置により事実上の保護の対象となり得るにとどまり、生活保護法に基づく保護の対象となるものではなく、同法に基づく受給権を有しない」と判示している(最二小判2014(平26)・7・18訴月61巻2号356頁)。
 なお、生活保護法上の緊急医療費補助について、いくつかの地方公共団体が不法残留外国人にも適用する措置をとっていたが、最高裁は、不法残留外国人を保護対象としないとしても憲法25条・14条には違反しないとした(最三小判2001(平13)・9・25判時1768号47頁)。

新コンメンタール憲法第2版』p.121

考えてみると、バブル崩壊は1991年あたり。福祉的給付の外国人への拡充という意味においても限界点だったのではと感じる。

このあたりの経緯を見ても、理念的には内外人を平等に扱うことが望ましいものの、国の財政的理由などで自国民を優遇することはやむを得ないと考えるのが適切に思う。

条約との関係:国際人権規約A規約

書籍に記されている「国際人権規約A規約2条2項」を取り上げる。今回の問題に絡む規約は、以下のものとなる。

経済的、社会的及び文化的権利に関する国際規約(A規約)

この規約の締約国は、この規約に規定する権利が人種、皮膚の色、性、言語、宗教、政治的意見その他の意見、国民的若しくは社会的出身、財産、出生又は他の地位によるいかなる差別もなしに行使されることを保障することを約束する。

国際人権規約A規約2条2項

ここには、塩見訴訟判決に示される「限られた財源の中で福祉的給付を行うに当たり、自国民を在留外国人より優先的に扱うことも、許される」に類する説明は見られない。これは、判決文を見る必要があると思う。

塩見訴訟判決の判決文は、裁判例検索で公開されている。

前節紹介書籍の抜粋に直接かかわるのは、以下の部分。

 そこで、本件で問題とされている国籍条項が憲法二五条の規定に違反するかどうかについて考えるに、国民年金制度は、……。法八一条一項の障害福祉年金も、……。加うるに、社会保障上の施策において在留外国人をどのように処遇するかについては、国は、特別の条約の存しない限り、当該外国人の属する国との外交関係、変動する国際情勢、国内の政治・経済・社会的諸事情等に照らしながら、その政治的判断によりこれを決定することができるのであり、その限られた財源の下で福祉的給付を行うに当たり、自国民を在留外国人より優先的に扱うことも、許されるべきことと解される

昭和60(行ツ)92
最一小判1989(平1).3.2

p.3

末尾部分の「限られた財源の下で福祉的給付を行うに当たり、自国民を在留外国人より優先的に扱うことも、許されるべきことと解される」が、書籍の記述と絡む部分となる。

判決文には「特別の条約の存しない限り」と記されている。これについても裁判の中で言及がある。この部分も確認していく。

条約との関係:ILO102号条約

判決文の中での言及のひとつ、ILO102号条約に関わる言及が以下のもの。

 所論の社会保障の最低基準に関する条約(昭和五一年条約第四号。いわゆるILO第一〇二号条約六八条1の本文は「外国人居住者は、自国民居住者と同一の権利を有する。」と規定しているが、そのただし書は「専ら又は主として公の資金を財源とする給付又は給付の部分及び過渡的な制度については、外国人及び自国の領域外で生まれた自国民に関する特別な規則を国内の法令で定めることができる。」と規定しており、全額国庫負担の法八一条一項の障害福祉年金に係る国籍条項が同条約に違反しないことは明らかである。

 昭和60(行ツ)92
最一小判1989(平1).3.2

p.5

ILO102号条約は、以下の場所で確認できる。

裁判では、以下の条文を参照している。太字の部分が、福祉的給付を行うにあたり自国民を優遇してもよいとする根拠となっている。

第六十八条
1 外国人居住者は、自国民居住者と同一の権利を有する。ただし、専ら又は主として公の資金を財源とする給付又は給付の部分及び過渡的な制度については、外国人及び自国の領域外で生まれた自国民に関する特別な規則を国内の法令で定めることができる

ILO102号条約68条1項

条約との関係:ILO118号条約

判決文の中での言及、ILO118号条約に関わる言及が以下のもの。

……。さらに、社会保障における内国民及び非内国民の均等待遇に関する条約(いわゆるILO第一一八号条約)は、わが国はいまだ批准しておらず、……

昭和60(行ツ)92
最一小判1989(平1).3.2

p.5

ILO118号条約は、以下の場所で確認できる。冒頭に「未批准、仮訳」と記されているとおり、日本は未批准のままとなっている。

ILO118号条約の加盟国は38カ国。思ったほどには多くない印象。ILO102号条約の加盟国65カ国と比べても少ない。

移民大国と称されるフランス、2019年時点で人口の26%が移民といわれるドイツ、これらは半世紀前に批准しているようだ。他国の批准が追い付いてこないということは、これに批准することに問題があると考える国が多いということだろうか。このあたり、十分な知識がなく判断できない。

条約との関係:総括

外国人への生活保護を認めていないことで、条約に違反しているわけではなさそうに思う。そしてこれは、批准状況の変わらない現状でも同じといえる。つまり日本国憲法98条の観点で問題ないといえるように思う。

第九十八条
 日本国が締結した条約及び確立された国際法規は、これを誠実に遵守することを必要とする。

日本国憲法98条

最後に

しばしば、外国人の生活保護を認めないとする理由に、納税を根拠とする意見を見る。個人的には、それは筋が悪いと感じる。優遇措置があるものの外国人でも納税している人はいる。これは、地方参政権などでも同様のことがいえると思っている。


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