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自分的ベタは意外と強い

 こんにちは、亀山真一です。
 昔の課題シナリオ10作目、お題は「別れ」です。これは結構記憶に残っていた作品でもあります。

 第6作のネタもすごく僕っぽかったですが、こちらは更に場所の設定が僕ならではでした。
 長く病院に通っているとどんなに美形でも医療従事者にはときめかなくなってくるんですが、18歳の春にベッドの上でシラバスを眺めていたら「懐かしい! ちょっと見せて」と覗き込んできた研修医の先生は結構イケメンだったと記憶しています。

『医師のお仕事』

野原優芽(17)高校生
西海大志(26)研修医
山下光(30)医師

〇病院、優芽の病室(夕)
   個室のベッドに野原優芽(17)寝ている。そこに西海大志(26)が現れる。
大志「こんばんは」
   優芽は起き上がろうとするが、
大志「あ、無理しないで」
優芽「はい……」
大志「どうですか、調子は?」
優芽「最悪」
大志「……そうですか」
優芽「先生」
大志「はい」
優芽「実は私は末期の難病で……とか、ない?」
大志「ないです」
   しばし沈黙が流れる。
大志「元気出して。もうすぐ退院だから」
優芽「うん……」

〇病院、医局(夜)
   ひと気のなくなった事務スペースで夜食を食べている山下光(30)の隣に、大志が椅子を引っ張ってきて座る。
大志「山下先生、いいですか」
山下「うん?」
大志「あの、野原優芽さんですけど」
山下「ああ、あの子ね」
大志「はい、なんか元気がなくて」
山下「あの子はもう末期だからな」
大志「え?」
   大志はギョッとして山下を凝視するが、彼は平然としている。
山下「恋わずらい」
大志「は? え、それは……」
山下「そこの研修医」
大志「はい」
山下「医師の仕事は患者と別れることだ。そのうちお前も誰かの最期を看取る日が来るかもしれないが、今のところ元気に送り出すことが最重要タスクで、客が来ない方が何より幸せな商売だ」
大志「そう、ですね」
山下「分かったら笑顔で別れろ」
大志「はい」
   大志は立ち上がり部屋を出ていく。

〇病院、優芽の病室(昼)
   ベッドの上で読書中の優芽のもとに大志が現れ、声を掛ける。
大志「こんにちは。野原さん、退院の日程が決まりましたよ」
優芽「そうですか」
   二人とも笑顔だが、淋しげでもある。
大志「お大事に」


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