【5月2日】アタシと師匠・その2・
アタシと師匠→①
護摩焚きの時、師匠はいつも言っていた。
いつもはあんなにろくでもないのに師匠の炎は清廉だった。
アタシの30センチ前には
赤々と燃える炎。
全く熱くない。
もちろん汗も出ない。
不思議なことに炎から風が出てくるのだ。
とっても呼吸がしやすい。
ずっとこの場所にいたい。
アタシも護摩焚きが出来たならいいな。
「 お前は護摩焚き向きではないよ。巫女体質だから言葉を人に渡していけ 」
お護摩を焚きたいと何度も何度もお願いしたけれど、答えはいつも一緒だった。
師匠の護摩焚きを継承したのは、
兄弟子だった。
そう。
アタシには兄弟子がいる。
「 師匠のような生き方をしたい 」と自ら志願して弟子になった人。
アタシは確かに「護摩焚き」を継承できなかったけれど、悔しい思いはなかった。何度もお願いしたけどダメなら仕方ない。という気持ちがあったし、何より「兄」が継いでくれるならそれでいい、と思った。
一人っ子のアタシは「兄弟子」という存在がとてつもなく嬉しかった。
一緒に師匠について学ぶ人がいるんだ、という、心強さもあった。
人生で初めて味わう「安心感」だった。
一生、続くと思っていた。
師匠の口癖は
「 俺は92歳で死ぬ 」
だった。
まわりにいる人間はみんな「そうなんだ」と納得していた。
師匠は昔馴染みのジャズシンガーのライブにも行っていたり、
かわらず三味線のお稽古にも顔を出していた。365日休まず30分ぐらい歩いて病院にも出勤していたし、
病院にある洗濯機で洗濯もして、
みんなに料理をふるまってもしていた。
師匠はある年の正月を境に病院の片付けをするようになった。
座っている回りには雑多な本でいっぱいだったし、何台もある冷蔵庫の中身だってキレイではなかった。
それを1つ1つ捨てていく様を見てアタシは「大雪が降るからやめてよ」と茶化していた。
3月に入ったといえどまだまだ雪の心配が尽きない休日の午後、
師匠から紹介された保険屋さんから電話が入った。
朱祥さん、まだ報告きてませんか?
先生が亡くなりました。
え?
意味がわからない。
先生は病院から出たゴミを出しに行って、
そのまま歩道で倒れて
通行人の方が救急車を呼んだみたいです。
病院に奥さんが着いた時にはもう・・・。
お通夜は明日、
ご遺体はすでに葬儀会場にあるようです。
アタシの意識がゆらゆら揺れている。
誰にも看取られないで、
なぜ
ひとりで逝ったの?
だから病院の中を掃除してたの?
自分の命が短いって知ってたの?
師匠の顔が浮かぶ。
笑顔ばっかり。
笑顔ばっかり。
笑顔ばっかり。
・・・・っ
センセっ
連れていって 欲しかった。
アタシも
一緒に。
どうして、一人で。
センセ
ずるいよ。
そんなこと
もう・・・
心底
どうでもいい・・・
どうでもいい
師匠は、宣言していた年より20年も若くして旅立った。
お通夜の会場にはジャズが流れている。
生前、師匠はちあきなおみとジャスをこよなく愛していた。
一足早く兄弟子が受付を済ませて、アタシを待っていてくれた。
「 ちょっと!なんで先生が亡くなったこと連絡してくれなかったのよ!」
兄弟子の顔を見るなり噛みつく。
「 いやぁ、誰かからもう聞いてると思って 」
アタシが怒っていてもヘラヘラ笑っている。
出来れば兄から聞きたかったのに!とブツブツ文句を言ったが彼はどこ吹く風。ひょうひょうと通夜会場に入っていく。
動物病院で会って何度か話したことがある女性がいたので会釈をしたら、ギロリと睨んでぷいっ!と顔をそむけられた。好きだ嫌いだと言えるほど彼女のことを知らないし、なんなら彼女が飼っている犬の名前の方が頭に浮かぶ。なのに、マンガに出てきそうな「ぷいっ」をされて私は困惑した。
面を喰らったが、ここは通夜会場。
アタシもそれ以上彼女にかまうこともなかった。
アタシは棺桶におさまっている師匠を見ることはしなかった。顔を見てしまうと、何かの感情に支配されそうになることは明白だった。
それは悲しいとか苦しいとか辛いとかそういった類のものではなく、ただただ、何かに囚われるような気がしてならなかった。
その感情はアタシに一生ついて回ることだろう。
なにより、アタシがその感情を手放すことをしないと思った。
それが
どんなに黒く、
人間を逸脱するような醜い感情であろうとも。
師匠は、
誰にも看取らせない。一人で逝く。と、いつ決めたのだろう。
通夜の間、そんなことばかりを考えていた。
通夜の帰り道、兄弟子にさっきの出来事を愚痴るアタシ。
「 ねぇ、なんでそんなことしたのかな? ぷいって顔を背けたんだよ!
しかもさ、すっごい睨んできたの。私、嫌われてる?
嫌われるほど接点がないんだけど 」
彼女の行動を呆れながら話すと、兄弟子はやっぱりヘラヘラ笑っている。
「 朱祥さん、彼女に嫌われているんですよ。ハッキリとね 」
「 はぁ? なんでよ!! だいたい彼女のこと知らないよ!病院で数回会って話ししただけだったもん!! 」
兄弟子はアタシの方を見ず、まっすぐ前をむいて言った。
「 あの女性は、先生の愛人です 」
・・・
・・・
ジジィ、あんた、やってんな!!!
「 つまり、あの女性は朱祥さんのこと愛人と思ってライバル視してるんですよ。ちなみに他にも誤解している人はいます。周りの人に聞かれたんで僕は朱祥さんは愛人じゃない。と 言っておきましたよ。
先生が亡くなったので言いますけど、先生の愛人はもう1人います。
でも、先生はそれが誰なのか僕にも言わなかったです。 」
もちろんアタシと師匠は全くそう言った関係になかった。
手も握ったことはない。
しかし、あのジジィ、愛人2人も囲っていやがったのか。
さすが気の強いオンナが大好物なだけあるぜ。
通夜で「ぷいっ」と明らかに敵意を表すわけだよ。
もう、なんなの。
本来なら涙涙のお別れのはずだった。
でも、それは叶わなかった。
「 師匠と呼べるオトコには
愛人が2人いた 」
という、予想のナナメ上で
幕を閉じた。
しかも、本物の愛人からの睨みつき。
涙もふっとんだ出来事だった。
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