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【5月3日】アタシと師匠・その3(完結)・

アタシと師匠→その①その②



師匠は一人で勝手に空に登ってしまった。


雪がまだまだ道路から消えていない3月、
やけにキレイな青空だったことだけを覚えている葬式の帰り道。


でも、それだけしか覚えていない。


兄弟子とはそれから連絡を取ってはいない。
あの時と同じように話すことは出来ると思うけど、
何も話すことはないし、向こうも同じだから連絡してこないのだろう。


時が止まっているわけではないし、何かから逃げ出すように歩き出しているわけでもない。

ただ、「通夜と葬式が終わった」という日常があっただけで
なにも変わらない。

思い出にかわっていくことも出来ず、しがみつくことも出来ず、
ただ、師匠がいないという毎日を過ごす日々。


そんな毎日。


でも、アタシにはやりたいことが1つあった。


「 師匠が懇意にしていたジャズヴォーカリストの方が経営しているお店に行くこと 」


師匠は生前、

「 落語家も歌舞伎俳優も名優と言われるヤツは全員空の上にいる。あっちにいったら毎日忙しいぞぉ。なにせ国宝級のヤツらが揃ってるんだからな 」

と言って、ウキウキしていた。


芸事が好きだった師匠。


たった1枚しかない師匠の写真。
私は今でも毎日お水をあげてる。
それを持ってジャズを聞かせに連れていってあげたいとずっと思っていた。


叶ったのは去年の夏、ちょうどお盆だった。

師匠が空に登ってから、軽く10年以上は経っていた。


そのお店は繁華街の真ん中にある。
電話をして来店予定日に営業しているのか聞き、
ジャズライブは1日に1回であることも教えてくれた。
その日、お目当ての女性ジャズヴォーカリストSさんがいることも。


当日、写真たてを大事にハンカチでくるみ、
「 センセ、行くよ 」 と、小さく呟いてから家を出た。
お盆だったのでパートナーのわいさんに頼み、一緒にお店に向かった。


心臓の鼓動が激しい。
緊張しながらお店のドアを開けると、そこにはお目当てのSさんがいた。


「 お盆だからねぇ、今日は誰もこないと思ってたのよ 」


こちらにどうぞ、と通された席に緊張して座る。
お客さんはアタシ達だけ。それがラッキーだった。
Sさんが席についてくれてたので、何か好きなものを。とオススメし
3人で乾杯をした。


人懐こいSさんにアタシは意を決して師匠のことを話した。


「 アタシ、この人の弟子なんです。どうしてもセンセをSさんに会わせたくて今日は来ました。」


Sさんは「 あらぁ。センセんとこの? 」と言って嬉しそうにしてる。


アタシとSさんは師匠の昔話を沢山した。
師匠の生前の話しを出来るなんて夢のようだった。


今のアタシの回りにはそんな人はいない。
あまりにも師匠のことを話せる人がいないから、時々私には師匠という存在がいないのではないか、という思考にも陥っていた。
それが今日、アタシの師匠は実在しているんだ、ということを証明してくれる人に出会ったのだ。
こんな嬉しいことはない。


「 センセはねぇ、ツンデレだったからね 」

Sさんが子供っぽく笑いながら言う。


ツンデレすぎんだろ、あのオヤジ、と心の中で思ったけれど、
「 そうでしたね 」としか返さなかった。心の中で師匠に毒を吐けるこの時間が幸せでならなかった。


Sさんは、「 今日はセンセの為に歌うね 」といって、写真をピアノの所に置いてくれた。


バンドはピアノとギター、そしてSさんのヴォーカル。
ライブが始まる直前、Sさんが写真たての中の師匠に語りかけてくれた。


「 センセ、 おかえりなさい 」


ああ、もう、ダメだ。


涙があふれて、あふれて。


70歳を超えているなんて思わせないぐらい力強く、素晴らしいヴォーカルだった。アタシはジャズの世界なんて全く知らないけれど、ただただ彼女の歌声が心に染み入ってくる。


センセ、聞いてるかな。

Sさんだよ。よくホテルにライブに行ってたよね。

やっと、連れてこれた。


遅くなってごめんね。 センセ。


ライブ中、アタシはずっと泣き通し。

10年以上、思い続けてきたことが叶ったのが本当に嬉しかった。


アタシとわいさんはSさんとライン交換をした。
来店して2~3日たった頃、Sさんから来店のお礼のラインがきた。

彼女は全国を飛び回り、ジャズを教え、ゴスペルも教え、ボランティアもしている。本当に尊敬できるものすごくチャーミングな女性だ。


その縁を繋いでくれたのも、愛人2人を抱えていたろくでもないジジィ、
アタシの師匠なのは間違いない。




師匠と一緒に過ごした日々は、
ただ、ひたすらに幸せだった。


ツンデレでも、わがままでも、なんにも関係なかった。


「 お前が死ぬ10秒前に仏様が迎えにきてくれるように生きろ 」

ねぇ、センセ。

アタシを生かしてくれて、ありがと。


センセのように誰かの指針になれるような、

心から人を引っ張り上げられるような

強く、優しい人になりたい。


世界中探しても、アタシの師匠は一人だけ。

だから、死ぬ時に迎えに来て。

よくやったって褒めてもらえるよう、がんばるから。


その時、手を繋いで空まで案内してね。

最上級の「デレ」を見せて欲しい。


ああ、でも、また愛人に叱られたら嫌だからやっぱり止めておくわ。

言っておくけど、

オンナの趣味だけは認めてないから。

アタシ。



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