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【5月1日】アタシと師匠・その1・

アタシの師匠は、
お坊さんで獣医だ。


背が高くでっぷりした体格で
いつも一人掛け用のソファの背面を倒し、オットマンに足とデーンと乗せている。


顔には週刊誌、古ぼけたステレオからはいつも、ちあきなおみ。


雑巾がけをしていたら、その上を平気で土足で歩き、自分より「格下」と思った人間には挨拶を絶対しない。
という根性が悪く、気が強いオンナが好みと言う非常に特殊な性格。


更に、奥さんいるのに
芸者のねえさまと遊ぶ為に
三味線を習い、
端唄も習い、
せっせとお座敷に通うマメな男。


それがアタシの師匠。


人間関係や仕事、
果ては霊的な事柄含めて
知識と経験が無く
いつもイタイ目に合っているアタシをみて

「 知らないお前が悪い 」

といって笑うのが日常だった。



とんでもないジジィだったけど、
アタシの人生、救ってくれたのは 
師匠だけだった。


太陽の下をずっと歩いていけるようにしてくれた。


「 お前は良くも悪くもいつも
【真ん中】にいる。
悪い何かに押されたら
そっちに簡単に行く。
でも、良い方に押されたら、
そっちに行く。
その証拠に俺がちょっと押したら、良い方にいっただろう」


でも、ろくでもないのは
アタシの方。


師匠は、全部わかってて、

そばにいてくれた。



アタシは、絶望していたんだ。


人間というものに。


おろかで、醜悪で、ズルくて、優しさもなく、戦争ばかりして、自分の利益ばかり考えて。


人間なんて大嫌い。

誰もかれも

壊れろ。


そして、全て


滅びてしまえ。



ただ、それだけを思う日々。

ある日、アタシは、

「 センセ、アタシもう、 
人間に生まれ変わりたくない。
もう人間なんていやだよぉ。
もう、いやだよ。 」


なぜ、そう言ったのか自分でもわからない。

その時には師匠がお坊さんだなんて
全く知らなかった。


誰かに聞いてもらいたかったわけでもなく、
その言葉の答えを知りたかったわけでもない。


今、思えば、

自分が人間であるということが、

もう、限界だった。


それだけだった。


師匠は週刊誌をズラし、ちらりとアタシを見て
のっそりと起き上がる。

「ついてこい」

と、一言。


動物病院の奥には、小さなお堂。


「入れ」


足を踏み入れた 1秒後 涙が止まらなくなった。


5畳ぐらいの薄暗い小さな部屋
中央には護摩焚き場。
回りには手彫りの仏様が取り囲んでいて、すごく大事に祀られている。

「 お前、今世で人間を卒業したいなら、仏様の子になれ 」

涙でぐちゃぐちゃで、鼻水も出て
子供のように袖で拭いているアタシ。
見上げると師匠の真剣な顔。


「 お前が死ぬ10秒前に仏様が迎えにきてくれるように生きろ 」


アタシには断る選択肢がなかった。


どうしても、人間にはなりたくなかった。


どうしたらそうできるのか、明確に話してくれる人に出会ったのは
初めてだったから。


鼻水をすすりながら、首を縦に激しく降る。


この瞬間、アタシとセンセは、師匠と弟子になったんだと思う。



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