見出し画像

寒い冬 あったかい私 常温の23時

さむいと、生きている実感が湧く。突刺すような寒さが私の肌を覆う時、冷たい風が全ての毛穴を埋めつくす時、さむいと脳が叫ぶ時、逆説的に、自分の体が温かいことを認識する。あぁ、私はあったかい。私って、どうやらやっぱり生きているんだな。

改札を出ると雪みたいなみぞれが降っていた。肌に当たると一瞬で溶ける、真夏のかき氷みたいなそれは、傘を差さないとあっという間に私を溶かして、少し甘いだけの水にしてしまいそうだった。

帰り道にコンビニに寄るのは辞めようと、何度も決めて、何度も守って、何度も破っている。今日はその何十回目かの破った日であった。23時のコンビニはなぜかひどく混んでいて、人が8人もいた挙句、4人がレジに並んでいた。
もう23時なのに、こんなに人がいるなんて。みんな起きすぎだ、頑張りすぎだ、早く帰ってあったかいお布団に入れ、そしてなるべく寝ておくれ。

小学生の頃は、23時なんて存在知らなかった。夜9時には寝ていた私は、23時を生きたことがなかったからだ。寝ているのは死んでいるのとほぼおなじ。私にとっての23時は、噂だけ聞いたことがある不登校な他人である。そんなまぼろしの23時が、いつからだろう、すっかり自分の生活のレギュラーメンバーになっている。
23時はもはや旦那レベルの存在だ。

23時が、私を甘やかしてくる。
''まぁもういいじゃん コンビニ破った記念だし なんか買いなよ 飲んじゃいなよ'' 甘い声で囁いてくる。
誘惑しないで!いまなら辞めることが出来る。
混んでるし もうご飯食べてきたし 冷静にお腹も空いてないし。いらないよね。

よし帰ろう、そう思って出口に向かう途中、気がついた。
あ、さっき電車広告見て、どんな味なのか飲みたかったタコハイってやつあるじゃん。

思考停止0.5秒。
私の手は伸びていた。

うーん
買っちゃうかぁ。
私はタコハイと、お酒にとびきり合いそうな砂肝にんにくと、大好きなゆで卵を手に取った。




「ただいまぁ」
誰もいない部屋に声を落とす。寒すぎた外よりうんと暖かくて、でも少しひんやりした家の中。

あったかい私と、常温の23時のふたりきり。

私は缶チューハイをあけた。
ぱしゅっという音が空気に溶ける。
うん、久しぶりの音。ちょっぴりどきどきする。

寒い冬にさよならした、暖かな私に、冷たいお酒がまざっていく。あぁ、背徳感。
やっぱり、大人ってやつは最高だ。


寒い冬を追い出した
あったかい私は

常温の23時に、甘やかされている。



-----------------------------

現在、#1ヶ月書くチャレンジ (18日目)noteのアカウントが無くてもいいねが出来ます!既読感覚でいいねしてくれるとモチベになります!うれしいです🫶

価値を感じてくれること、生きる糧です。 カフェでの1杯や、本代にさせて頂きます☕️ noteのコメントには返信機能がないので、こちらで感謝を込めた返信をさせて頂きます✉️♡‪