夫の好きなところ~23時30分のコンビニケーキ~
社会人1~2年目の頃、誕生日に職場の飲み会の幹事になってしまったことがあった。
飲み会が多い職場ではなかったが、ちょうど年度末と私の誕生日が同じ時期で、部全体で恒例の慰労会がその年も開かれた。
それがまさに私の誕生日だったのだ。
部長の指名で幹事になったものの、嫌で嫌で仕方ない。
そのことを同期に相談したら、私が変わろうかと言ってくれたけれど、あえなくその同期も幹事に指名された。
万事休す。
入社間もないし、部全体の大きな会だし。
やむを得ない。
と、私は諦めた。
幹事長に直属の上司がついてくれて、飲み会自体はとても楽しく終わった。
幹事長の意向で二次会は各自に任せる方針となり、とりあえず一次会だけ頑張ればいい、あ〜よかったと気楽であったが、話はそこで終わらない。社長がねぎらいの意味で我々幹事を連れて二次会を開いてくださったのだ。
正直早く帰りたかったけれども、ねぎらってくださるのをありがたく思う気持もあり、奢ってもらえるという下心もあり。社長のやさしさを断る度胸もなかったので、デザート等をごちそうになった。
結局、自宅に帰りついた頃には、私の誕生日はもう30分しか残っていなかった。
当時はまだ実家暮らしで、我が家は誕生日を花とケーキで祝う。私は毎年堂々とケーキが食べられるこの日を、大人になっても、なんなら今でもとても楽しみにしていた。
だから、当時お付き合いしていた夫にも、幹事になってしまった不満をぶちまけつつ、意地でもケーキは食べるんだ、どんなにお腹がいっぱいでも、と話していた。
実際家族もケーキを用意して待っていてくれた。
やっとひと息ついて、ケーキを食べ始めた頃、1通のメールが届いた。
文面は、「はっぴ~ば~すで~」。
添付されていた写真は、コンビニのケーキ2種とコーヒー。
夫がいつも使っていたお盆の上にかわいらしく乗せられていた。
私と一緒にケーキを食べられるよう、用意しておいてくれたのだ。
私はこれが、とてもとても嬉しかった。
結局1秒も会うことはできなかったけれど、夫は23時30分まで、私の誕生日をケーキで祝おう、一緒に祝おうと、待っていてくれたのだ。
私は世間一般で言われている女性の感覚があまりよくわからないので、誕生日に高級なプレゼントをもらいたいとか、夜景の綺麗なお店で食事したいとは特に思わない。(でも宝飾品も、食べることも、雰囲気の良いお店も好きである。)
けれど、この夫の行動は、じんわり、しんみり心にしみた。
推定数百円の、23時30分のコンビニケーキに、こんなにも心動かされる日がくるなんて。
離れているけれど、ちゃんと私を想って、祝ってくれているのを感じた。
そんな、私の感性に寄り添ってくれる、夫のやさしい心にいつも救われている。
夫のそんなところがとても好きだ。
そんなことを、今日散歩をしながらふと思い出した。
老いも若きも世知辛い世の中で懸命に生きていて、我々夫婦も、お互い励ましあいながら何とか日々暮らしている。
時折、急に未来が不安になることもあるけれど、夫となら、なんとか生きていけそうな気がするのだ。
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