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北朝鮮「統一放棄」の真意は (後)

前回の記事では、北朝鮮の金正恩(キム・ジョンウン)総書記が「戦争を決断した」というアメリカの有力な北朝鮮専門家2名の分析をお伝えしました。
それは、北朝鮮がもはやアメリカとの国交樹立によって体制の保証を得るという長年の目標を放棄し、自分たちが崩壊する恐れを払しょくするには武力で韓国を併合するしかないという結論に至ったという見方です。

今回は、この分析の韓国内での受け止めと、実は「敵は内にあり」と北朝鮮指導部が考えている色合いが濃いのではないか、という見方についてです。


今年前半の山場は4月か

カーリン氏とヘッカー博士は韓国でもよく知られている専門家たちなので、「金正恩は戦争を決断」という分析は波紋を呼んでいます。韓国メディアの報道ぶりをみると、全体的には「まさか全面戦争までは」という冷静な受け止めを前提にしつつも、「でも、確かに近年では例のないほど深刻な軍事挑発はあり得る…」と警鐘を鳴らしている感じです。

では、その深刻な軍事挑発が(あるとすれば)いつかというと、4月10日投開票の韓国総選挙前、そして11月5日投開票のアメリカ大統領選前という見方が有力です。

こうした警戒は、カーリン氏らの論考が出る前から、韓国の国家情報院が示していたことではあります。
もともと、韓国の選挙(大統領選や総選挙)が迫るタイミングで北朝鮮がミサイルを発射するなどして有権者の投票行動に影響を与えようとしたケースが、過去に何度かあります。
そうした選挙介入狙いの挑発は「北風」とも呼ばれてきました。

「北風」は、先日の台湾総統選挙で中国が台湾付近に気球を飛ばしたのと似ていますね。そして、必ずしも介入の狙い通りにコトは進まなかった点でも北朝鮮と中国の動きは似ています。

朝鮮半島の場合、北朝鮮がミサイルを撃って思惑通りに韓国の進歩派(北朝鮮にフレンドリー)を後押ししたこともあります。保守派が力を持つと軍事的な緊張が高まるのではないか…という不安が有権者たちの間に広がったためです。

ただ、トータルで見ると、ミサイル発射などの報せに接すると、むしろ「北朝鮮は危険なので抑止力を高めねば」と主張する保守派の方が頼りがいがあるように映ったケースの方が目立ちます。

と、こう書くと、「今年の総選挙で北朝鮮が進歩派(共に民主党)を応援したいなら静かにしているのでは?」と思われる方も多いでしょう。普通なら、そうです。

しかし、金正恩氏が次元の違う挑発、例えていえば2010年の延坪(ヨンピョン)島砲撃を上回るほどの攻撃を仕掛けたら、「一周回って」進歩派への後押しになる可能性があります。新年早々に北朝鮮が延坪島付近で砲撃訓練をしたのも、当時の攻撃を思い出させる思惑があったのでしょう。

あるいは、ソウル上空に大量のドローンを飛ばしたり、核実験を実施したりというインパクトの強い手段も韓国では取りざたされています。
こうした不安が広がる中、例えば進歩派寄りのカラーが明確な新聞「ハンギョレ」は、先日、力で北朝鮮を抑えると繰り返す尹錫悦(ユン・ソンニョル)大統領を批判し、次のように主張しました。

尹錫悦大統領流の対応が無謀なら、野党と革新勢力がより良い代案を出して世論の選択を受けなければならない。

https://japan.hani.co.kr/arti/opinion/48945.html

総選挙では進歩派に一票を、というわけです。
既に総選挙をめぐる心理戦は始まっています。

「ヤンキー文化」

ここからは、私個人が「北朝鮮の本当の狙いはこっちでは?」とみている背景です。

それは、「韓流ドラマやK-POPを締め出す」です。

冒頭の写真は、ソウル駐在時に観た駆け出しK-POPグループです。

何を言い出すのか…と思われそうですが、北朝鮮指導部は、近年、若い世代が韓国への憧れを強めていることを体制の危機と位置づけています
ちょうど1年ほど前、唐突に「平壌文化語保護法」という法律が採択されました。韓国ドラマの主人公たちみたいな話し方はダメだ、という内容です。

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